ジョブ・クラフティングとは?社員のやる気や仕事への愛着を増進させるために企業ができること
日々の仕事に慣れてくると、仕事そのものへのやりがいが感じられなくなり、モチベーションが低下する社員も少なくありません。仕事に対するモチベーションが低下すると、十分なスキルや能力が身につかなくなることもあり、企業にとっては人材育成が進まないという問題も生じます。
しかし、同じ仕事内容であっても、仕事に対する考え方や方法などを変えてもらうだけで、モチベーションや仕事への愛着を高めることもできます。そのために有効な「ジョブ・クラフティング」についてを詳しく紹介します。
ジョブ・クラフティングとは
ジョブ・クラフティングとは、一言で表すと「社員本人が働き方を変えていくこと」です。仕事を「やらされている」と捉えるのではなく、仕事にやりがいをもって「能動的に実践していく」ことに変える考え方といえます。
2001年に米国イェール大学のヴェジェスニエフスキーとミシガン大学のダットンによって提唱されました。
なぜジョブ・クラフティングが提唱されたのか、背景を紹介するとともに、働き方を変えるとは具体的にどういったことなのかを詳しく解説しましょう。
ジョブ・クラフティングが提唱された背景
仕事を覚えるためには、上司や先輩社員からの指示や業務マニュアルに沿って進めていく方法が一般的です。
しかし、ある程度仕事に慣れてきたとき、単調な仕事の繰り返しと感じてしまったり、上司や先輩からの指示を受けて仕事をやらされていると感じたりすることで、仕事に対するモチベーションが低下することも少なくありません。そのような場合には、仕事を通して十分なスキルや知識が身につかなくなることもあります。
このような問題を解消するために、ヴェジェスニエフスキーとダットンは、社員自身が仕事の意味を見いだし、能動的に実践していくことが重要であると考え、ジョブ・クラフティングという考え方を提唱しました。
「働き方を変える」ための3要素
ヴェジェスニエフスキーとダットンは、ジョブ・クラフティングにおいて、以下の3つの要素が重要であると提唱しました。
1.タスク(労働環境)
仕事の内容の範囲や、やり方を変える(配置転換など外部からの強制的な変化とともに、本人自身が同じ仕事でもやり方を変える場合も労働環境の変化に含まれる)
2.人間関係
仕事を遂行する上で関わる人とのコミュニケーションの量および質を変える
3.認知
仕事に対する捉え方を変える(労働環境や人間関係が変わらなかったとしても、その捉え方そのものを変えることで働く自分自身の意識に変化を起こすことができる)
業務によっては、作業手順やマニュアルが厳格に規定されており、社員個人の判断で変更できないケースもあるでしょう。しかし、上記で示した3つの要素をもとにジョブ・クラフティングを実践していくことで、同じ仕事内容であったとしても社員自身が仕事に対する捉え方や行動を変えることができます。
企業においてジョブ・クラフティングが注目される理由
ジョブ・クラフティングが企業から注目される背景には、業務が複雑化・曖昧化していることが挙げられます。
業務が複雑化すればするほど、指示された業務をこなしているだけでは、成果をあげ評価されることが難しくなります。また、自分の仕事が自社の業績に対し、どれほどの影響を与えているかが曖昧で実感しにくくなっていることも事実です。その結果、社員の仕事に対するモチベーション低下を招くことも少なくありません。
業務が複雑化するなかでも成果をあげ、高い評価を得るためには、社員自身が仕事を見つめ直し、主体的に変えていくことがひとつの手段として考えられるため、ジョブ・クラフティングが注目されているといえるでしょう。
ジョブ・クラフティングによって企業が得られる効果
社員がジョブ・クラフティングを実行したとき、企業にはどのような効果が期待できるのでしょうか。4つのポイントを紹介します。
能動的に仕事に取り組む社員が育成される
社員がジョブ・クラフティングを実行することで、受け身の姿勢ではなく能動的・主体的に動く社員が育成され、仕事に対する責任感が醸成されると期待できます。当事者意識が生まれることにより、それまで以上に結果や成果を意識して業績アップに繋がっていくでしょう。
また能動的に仕事へ取り組むことで、仕事への愛着が生まれ、社員のモチベーション向上にもつながると考えられます。
業務プロセス改善や効率化につながる
指示された通りに仕事をこなすだけでなく、社員が自分自身の仕事を見つめなおすことで、より効率的な方法を考えるようになると期待できます。その結果、非効率的な業務プロセスが改善され、業務効率化につながるでしょう。
リーダーシップを発揮する社員が増える
仕事に前向きに取り組むことで、社員が自身の役割や強みを認識できるようになり、リーダーシップを発揮できる場面が増えると期待されます。社員が強みを発揮することで自信をもてるようになり、キャリアアップやスキルアップにも効果を発揮するでしょう。
人材の定着化
仕事の捉え方を変えることで社員自身がやりがいを感じるようになり、仕事への活力に満ち、打ち込んでいる状態であるワーク・エンゲージメントが向上すると期待されます。ワーク・エンゲージメントが高いと離職抑制の効果があるといわれており、人材の定着化が図れるでしょう。
ジョブ・クラフティングを促進するプロセスフィードバック
ジョブ・クラフティングは社員が自主的に取り組むものではありますが、周囲からの働きかけによってジョブ・クラフティングを促進することはできるのでしょうか。
とくに若手社員に対してジョブ・クラフティングを促進するために、企業としてできる方法のひとつとして、上司からの「プロセスフィードバック」が有効であることがマイナビと東大の共同研究によって明らかになりました。
プロセスフィードバックとは
プロセスフィードバックとは、業務に対する結果ではなく過程に対しておこなうフィードバックです。具体的には以下の3つがプロセスフィードバックのポイントとなります。
1.部下に指摘するときには、その理由も一緒に説明する
2.本人の仕事に対して、どのように行動すればよいのかをアドバイスする
3.本人の行動について、その意図を尋ねる
プロセスフィードバックの効果
上司によるプロセスフィードバックは、ジョブ・クラフティングの3つの要素「タスク(労働環境)・人間関係・認知」をすべて促進する研究結果が出ています。
また本研究では、職場において「業務能力」、「協働能力」、「打たれ強さ」の3つの能力が必要であると仮定し、プロセスフィードバックによるジョブ・クラフティングが及ぼす影響を検証しました。
「タスク(労働環境)」に関するジョブ・クラフティングは職場で必要な能力である「業務能力・協働能力」を向上させ、「人間関係」に関するジョブ・クラフティングは「協働能力・打たれ強さ」を向上させており、結果として職場で必要な能力すべてにもポジティブな影響を与えていることが分かりました。
※「認知」に関わるジョブ・クラフティングが、モチベーションやワークエンゲージメントを向上させることは既存研究で明らかになっているため、今回の調査対象には含まれていません。
プロセスフィードバックの注意点
プロセスフィードバックでは、上司が若手社員にどういった声かけをしていくかを考えていく必要があります。
まずは、仕事における問題点を解決するために若手社員自身がどのような行動を起こしたか、または考え方を変化させたかを話し合い、若手社員に自分の意識の変容に気づいてもらいましょう。
ただし、若手社員の考えを否定してしまうと、若手社員が自身の変化が「意味がないものだった」と感じてしまうため否定をしないことが重要です。ポジティブな点を見つけて褒め、解決できなかった問題点は次の変化に一緒に繋げていくと効果的です。
ジョブ・クラフティングの促進に向けて取り組もう
社員本人が働き方を変える「ジョブ・クラフティング」を実行することで、仕事に対する「やらされ感」や「行き詰まり感」を払拭できる可能性があります。とくに若手社員に対しては、上司がプロセスフィードバックをおこなうことで、ジョブ・クラフティングを促進できることも研究によって明らかになりました。
社員のやる気を高め、仕事への愛着をもってもらうためにも、ジョブ・クラフティングの促進に向けて取り組んでみてはいかがでしょうか。