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戦略人事に挑戦する企業に聞く~データ活用と対話の推進で誰もが活躍できる企業へ|嘉穂無線ホールディングス~

2022年01月05日更新

成績や勤務態度だけで社員を評価するのではなく、タレント(才能)を発見することでより柔軟かつ効果的な人事戦略を可能とする「タレントマネジメント」。人事戦略のキーワードとして注目を集める一方で、現場でそれを実現しようとするとなかなか難しいものです。

そこで、実際に企業がどのような取り組みをしているかを探るべく、マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部長 土屋裕介の著者でもある『タレントマネジメント入門 ~個を活かす人事戦略と仕組みづくり~』の読者企業にトレンドラボ主任研究員 田口弘毅がインタビューを行いました。

今回は福岡県に拠点を置きホームセンターを中心に教育、データ活用など幅広い事業を展開している嘉穂無線ホールディングス株式会社 人事総務部 部長の渡辺 晶さんに、その取り組みをご紹介いただきます。

目次 【表示】

変化を好み、決まったことがスピーディーに進む社風

― 本日はありがとうございます。タレントマネジメントの取り組みを伺っていく前に、御社の事業や社風についてお聞かせいただけますでしょうか?

渡辺:はい。嘉穂無線ホールディングスは、創業者が福岡県飯塚市でラジオパーツ・アマチュア無線専門の小売店を開設したことが起源です。ホームセンターを運営する株式会社グッデイをはじめ、学習工作キット「エレキット」を手がける株式会社イーケイジャパン、データ活用支援サービス事業を提供する株式会社カホエンタープライズといった企業を抱えています。

変化をチャンスと捉え積極的な挑戦を奨励する企業風土がある一方で、社員は素直で真面目な人材が多く、経営層が決断した変化に対して一生懸命ついてきてくれます。その意味で、改革がスピーディーに進む社風といっていいでしょう。

― タレントマネジメントにチャレンジしようと思われた背景は何でしょうか?

渡辺:社会の変化に合わせて次世代の事業を担う人を育てていきたいという思いです。変化を機に新たな事業やサービスを次々と打ち出していく際に、その担い手となる人材も同時に育成・確保していかなければなりません。

―人材の育成・確保という視点で御社の今の取り組み方針というのはどのようなものでしょうか?

渡辺:大きな流れは「データ活用による人材の見える化」です。まずは各社や現場によってバラバラだった制度や運用を可視化し、より効率的に、社会の変化に適応できるようにしていこうとしています。タレントの見える化はもちろんですが、データ活用によって活躍の場を整えていくことも大切だと思っています。

分断していたシステムを統合し組織をシンプルに

―データ活用にあたって、人事組織そのものも改革されていると伺いました。

渡辺:私が異動してきてからは、採用チーム・教育研修チーム・労務管理チームの統合に取り組んできました。これまでは採用チームは採用だけ、教育研修チームは教育だけ、労務管理チームは異動や評価だけ…と、本来は一気通貫で実行すべき人事業務が分断していたんですね。

― おっしゃる通りですが、なかなか一本化が難しい部分だと思います。

渡辺:まずは使っているシステムが違うということが大きいんです。それぞれの領域でシステムが完結しているため、情報が他のチームに共有されず、それが分断を強めている側面がありました。

それらを統合して、採用に至った経緯や社員のバックグラウンドを知ることで社員教育に活かせるものは大きいと思いますし、教育の成果を労務管理が把握していれば、よりよい配属も可能になるはずです。

―一方で人事メンバー一人ひとりの意識改革も簡単ではないと思いますが、どのように人事組織としての一体感を作っているのでしょうか?

渡辺:まず、ある程度のキャリアがあるメンバーについては、仕組みを変えるとそれに従って視点も変わってきます。
人事にまつわる仕事をすべて一気通貫にするということは、そのまま経営を考えることに繋がりますから、経営視点を持ってもらうと言い換えても良いかもしれません。

いま予測される経営課題に対して、人事という視点からどう対応するのか。それを考えなくてはいけない、という意識を醸成するためにメンバーのうち何名かはビジネススクールに行ってもらい、経営視点を学んでもらいました。

すぐに解決策を出してくれ、というのではなく、まずはそうやって意識を作っていくことを優先しています。

経営層から始まったデータ活用

― いまお話頂いた人事組織の刷新とともに取り組まれたのが「業務効率的な側面」と「人事的な側面」を目的とした「データ活用」ですね。

渡辺:そうですね。まずはカホエンタープライズで事業として扱っていたBIツール「tableau」を活用することから取り組みました。
「タレントマネジメントといえばまずは見える化」という意識もありましたが、現場レベルでは業務効率化も課題となっていましたので、それを人事組織としてしっかりと取り組もうとしたものです。

― 具体的にどのような対応をしていったのでしょうか。

渡辺: 全社でのデータ管理の一元化です。これまでは各店舗にて売り上げなどの販売データをエクセルで作成し、それを見ながら会議で報告や検討をしていくという光景が普通でした。しかしデータを一元管理することで、こうした報告資料作成の手間がなくなり、結果として管理職や店長、リーダーレベルの社員の残業が減っていきました。

― 人事的側面という意味ではどのように効果を発揮したのでしょうか。

渡辺:これまでは管理職がシフト勤務をせずにフル出勤してしまうこともままあり、それを見ていた女性社員が将来子育てしながら短時間勤務を選択することに躊躇してしまうことがありました。

しかし残業が減る中で勤務時間が見える化し、子育て中の女性を含めて多様な人がマネージャーとして活躍できる環境が整いつつあります。厚生労働省が認定する女性活躍の取り組み評価に「えるぼし」がありますが、この三ツ星取得にも繋がりました。

これは経営全体を見ても大きな変化です。実は、ホームセンター事業を始めて今年で43年になるので数年後から定年による集団的な退職が始まることがわかっています。それに先立って多様な社員が活躍できる土壌が整いました。

― データ活用による現場の効率化によって、様々な社員が活躍できるポジションが整ったということですね。

渡辺:はい。ほかにも、店舗ヒアリングで店長と配下のリーダーの情報格差も課題として上がってきました。そこでリーダーにもタブレットを渡して様々な情報や学びの場にアクセスできるようにしています。

―若手の育成や啓発にも役立てているのですね。こうしたデータ活用はスムーズに導入できたのでしょうか。

渡辺:先ほどもお伝えしたように弊社は変化にチャレンジする社風ですが、特に社長が自ら新しいことに挑戦する人で、データ活用の領域に熱意を持っていました。毎週のようにアイデアを共有してくれたんです。

こうした経営層のリードが刺激になって、社内でデータサイエンティストを育てる学びの場を作ったり、人事としてもデータ活用・統計学の勉強会を開催しています。

店舗に眠っている才能を発掘して新事業を開拓

―こうしたデータの活用の一方で、社員のタレントを生かした新事業の開拓もされたと伺っています。

渡辺:はい。主業であるホームセンターの社員の1人に、ものすごく園芸に強い人材がいました。とにかく園芸が好きで、自発的に勉強して非常に高いレベルの知識と技術を身に着けていたんです。
彼の園芸ワークショップはすごく人気だったのですが、店舗内では園芸スタッフの1人として埋もれていたんですね。

その社員を経営企画に配属したところ、世界フラワーガーデンショーでグランプリを取るなど才能を発揮してくれたのです。その後、ちょうど弊社のオフィス移転があったので、オフィスの観葉植物などをプロデュースする業務を全て任せてみたのです。

すると、それが来社するお客様に大変好評で「オフィスグリーン事業」が生まれました。すぐにお客様の新社屋全てのオフィスグリーンを任せていただくことになり、大きな受注につながりました。

― それはすごい才能ですね。

渡辺:はい。そしてこれはもっと次の事業を担う人材が埋もれているだろうと店舗人材に注目していくことになりました。データ活用も大切ですが、実際店舗に足を運ぶことも非常に大切だと考えています。

― 先ほどもお話にあがった女性活躍の推進についてはどうでしょう。

渡辺:3Dプリンターやレーザーカッターなどを備えたファブラボという工房から派生して生まれたホームセンター店内の「GOODAY FAB」は、現在、全員女性社員で運営されています。

近隣の主婦の方を中心とした利用者様とコミュニティを作って、DIY空間を作るということを進めていて女性を中心にニーズを掴んでいます。ホームセンターというと、どうしても男性の趣味(日曜大工)の場というイメージが強い中、女性中心に運営することで新たな顧客開拓となりました。

―社員の働き方、活躍の場が広がっていく過程で評価制度も変わってきましたか?

渡辺:当社にはパートナーを含めて1500人の社員がいますが、その一人ひとりを知ることで適材適所、会社も社員も幸せになれるような人材管理をするべきだというのが、タレントマネジメントのスタートです。

ですから、オフィスグリーン事業を生み出した社員や、GOODAY FABで活躍する女性社員など、これまでの評価基準になかった新しいことをやっている人を適切に評価できる制度は必要だと思いますし、実際に評価しています。

社員みんなが、何かの形で高く評価されるような人員配置、評価制度を早く整えていきたいですね。

データとコミュニケーションの両立が良い組織を生む

― 最後に、渡辺さんが人事改革を通じて大切にしていることをお聞かせください。

渡辺:会社も社員も幸せになる組織作りを目指していますが、そこに欠かせないのはコミュニケーションだと思っています。双方向で、話しやすい雰囲気を作っていくことで新しい才能の発掘もできるでしょうし、データを取得し、よりよく活用するためにもコミュニケーションが必要なのです。

64店舗あるため全てを私一人で見て回ることはできませんが、エリアマネージャーの力も借りながら、何か課題が発生していることがわかったら、現場に行って話を聞くようにしています。

そういったところから得られた一次情報をきちんと経営層にも上げていき、全社での一体感を作っていきたいですね。

―あらためて戦略人事におけるコミュニケーションの必要性を実感しました。ありがとうございました!

<プロフィール>
渡辺 晶
嘉穂無線ホールディングス株式会社 人事総務部 部長
大学卒業後、百貨店にて外商、販売、営業政策・販売促進業務に従事したのち2014年嘉穂無線株式会社入社。経営企画室長として「ファブラボ太宰府」や「ワークショップ事業」等の業務を経て2020年より現職。

田口 弘毅
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 HRシステムコンサル部 部長
2010年に株式会社マイナビへ入社。以後、一貫して採用・人材開発・組織開発のコンサルティング(各種制度設計・企画・運用支援)に従事する。
近年では、HR Trend Labの主席研究員や日本人材マネジメント協会の執行役員なども務め、若年層のリーダーシップ開発をテーマにした研究活動なども行う。
仕事においては理論と実践のバランスを、人生においては仕事と家庭(主に息子2人の育児)のバランスをとりわけ大切にしています。

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