タレントマネジメントで実現させる適材適所のポイント
近年、「組織レベルの戦略や目標の達成に貢献する重要職務に、適切な人材を絶え間なく配置するための試み」として注目を浴びているタレントマネジメントですが、これは組織の人事機能をフル活用して、企業が必要なポジションに必要な人材を必要なタイミングで組織内部に供給する機能であるともいえるでしょう。
本稿では、タレントマネジメントを運用する際に重要なポイントになる「適材適所・適時適量の人材配置を実現していく」というプロセスに焦点をあてて解説します。
タレントマネジメントにおける適材適所・適時適量とは
さて、皆さんは適材適所や適時適量と聞いて、なにを思い浮かべるでしょうか。
製造や物流業界の方は想像できると思いますが、「必要なものを、必要な時に、必要な量を過不足なく生産もしくは供給する」というSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)におけるジャストインタイムの基本概念です。
これを人事管理にも適用すると、「必要な人的資源を、必要な時に、必要な人数を過不足なく配置する」となり、タレントマネジメントにおいても使える概念です。
適材適所・適時適量を実現するには
適材適所・適時適量の実現のためには、以下のような点を事前に把握しておく必要があります。
1. そのポジションに必要な人材要件はなにか
2. そのポジションに必要な人材の数はどれくらいか
3. 必要な人材をどう調達するか
1~3を把握したうえで、キーポジション(とくに重要度の高い職務)の選定や、タレントを定義し選別する仕組みを整え、採用、配置、育成、評価、定着といった人事管理を含めた包括的な取り組みと連動させます。これらのステップを踏むことにより、本来の目的である「永続的な組織業績の向上」につなげていくことが可能です。
ここからは、適材適所・適時適量の実現に向けて重要なポイントを紹介します。
タレントプールを充実させる
適材適所・適時適量の人材配置を実現するために、もっとも重要になるプロセスは、「タレントプール」を充実させることです。タレントプールとは、キーポジションを担う可能性のある人材(タレントやタレント候補)をピックアップしたリストや、データベースのことを指します。
タレントプールを充実させるには、現状の従業員から選別するだけではなく、キーポジションを担うために必要なスキルや経験を積む機会を優先的に与えて、今はタレントではない人材を育成することが必要です。まずはタレントになり得る人材を発掘し、育成することが重要です。
また、タレントプールの充実を上回るスピードでタレントが抜けていってしまっては、タレントマネジメント自体が機能しなくなります。タレントプールを充実させるためには、採用や育成だけでなく、タレントの定着も重要なテーマになります。
人材育成と新規採用のバランスをとって人材確保を検討する
適材適所・適時適量を実現するためには、配置転換だけでなく、キーポジションの人材要件を明確に定め、人材不足を埋めるための成長機会の提供や能力開発も必要です。また、キーポジションに相応しい人材がいなければ、抜擢や登用という形で能力や経験が不足している人材を配置してから育成するか、常時オープンポジションとして募集しながら都度新規採用することも検討する必要があります。
タレントに求める要件が、「育成できるもの」なのか、「育成が難しいもの」なのかを整理しておくことも、内部育成と新規採用の適切なバランスを探るために役立ちます。
人的資源を可視化する
タレントマネジメントを運用するにあたって、そもそも自社のタレントやその候補者がどこにいるのかを把握できているでしょうか。タレントを把握するためには、人的資源を可視化することによって、情報基盤を整えることが必須となります。
組織規模が小さく進出地域が狭い時には、社長や人事が見える範囲で適材適所・適時適量を実行できるでしょう。また、社長や人事の目に留まった人材を抜擢して、感化させたり試練を与えたりして人材を育成することもできます。しかし、組織規模が大きく進出地域が広くなり、多くのキーポジションに適材適所・適時適量を実行する必要がある場合には、より計画的にキーポジションを担う可能性のある人材(タレントやタレント候補)を発掘・抜擢・育成する人事管理をしていく必要があるのです。
人的資源を可視化するための手段としては、タレントマネジメントシステムの活用があります。その場合には、タレントマネジメントシステムを導入する目的と理由、システム導入後の運用イメージを明確にしたうえで、自社の人事戦略に合わせて検討・導入しましょう。
短期的・中長期的両方の視点でタレントマネジメントをおこなう
事業拡大や新規事業の立ち上げなどですぐにキーポジションにタレントを配置する必要がある場合には、短期的な視点が必要です。人材要件に合うスキルや適性のある人材の配置転換を行い、外部調達にも並行して取り組む必要があるでしょう。
しかし、人材の配置転換や新規採用のみでキーポジションへの人材配置を行っていると、適した人材が見つからない場合には人材を供給できなくなります。タレントマネジメントをおこなうときには、先を見越した中期的な視点も必要なのです。
中長期的な視点をもち、キーポジションの人材要件に合わせて人材育成を行っていれば、配置転換や外部調達を行わなくても人材を配置できます。タレントマネジメントを導入していれば、人材のスキルや適性を把握できるため効率よくタレント候補を発掘しやすくなり、計画的な人材育成に役立つでしょう。
このように、短期的・中長期的の両方の視点で人材確保を目指すことで、キーポジションに恒久的に人材を配置できる体制構築に役立ちます。
適材適所・適時適量を実現して得られるメリット
適材適所・適時適量を実現することで、企業が得られるメリットを以下で紹介します。「自社がタレントマネジメントを通して、なにを実現するか」といった目的を考える際にも参考にしてください。
エンゲージメントの向上(生産性の向上、離職の防止)
適材適所・適時適量を実現することで、一人ひとりの能力を最大限に活かせるポジションへの迅速な配置、育成、キャリア開発が促進されると、組織の価値観に対する理解と共感を高めることが期待できます。
人的資源を可視化すると、人材の能力や業務経験、スキルを上司が適切に把握でき、タレントの成長を支援するために配置や育成を行えます。能力を発揮できる環境に身を置いて仕事をすれば、タレントは自らの強みをさらに伸ばそうと努力するようになり、労働意欲の高まりや能力の向上が期待できるでしょう。適材適所・適時適量を実現すれば、そうした好循環によって従業員のエンゲージメントを高めることにつながるのです。
また、会社に対するエンゲージメントが高い人材は外部流出の可能性が低くなります。エンゲージメントを向上させて人材をつなぎとめることは、タレントマネジメントを運用する企業にとって重要なポイントになります。
働き方改革の課題解決に役立つ(効率的な働き方の実現、生産性のロス防止)
近年、日本では低成長率とOECD諸国の中で最低のGDPになっていることなどを背景に、個人の効率的な働き方を実現し、企業の生産性向上を目的として、日本は働き方改革に取り組んでいます。しかしながら、長時間労働の是正対応に留まっている企業も中にはあり、生産性の分母にあたる投入労働量(インプット)の効率化と生産性の分子にあたる成果(アウトプット)の最大化がいまだに課題です。
適材適所・適時適量を実現することで、組織のパフォーマンスロスを減らしたり、離職率を抑えたりすることで投入労働量の効率化を図るだけでなく、一人ひとりの能力を最大限に発揮することを通じて成果の最大化を促進するなど、働き方改革が抱える課題を解決することも期待できます。
組織として効率的な働き方を実現するためにはさまざまなアプローチ方法がありますが、適材適所・適時適量の人材配置を実現することは有効な手段の一つです。組織戦略を立て、組織のリーダーとなる人材をタレントプールから選出することで、人材が働きやすく成果の出やすい組織をつくることが可能になります。
また、日本の労働人口が減ると予測される一方で人材の多様化が進み、働く時間や場所に制約のある働き手が増えてくると、一人の人材に一つのポジションを長く担ってもらうことが難しくなる可能性があります。タレントマネジメントを導入することで、キーポジションを複数人が担い、いろいろな価値観や事情にあわせた働き方の実現に役立つでしょう。
まとめ
タレントマネジメントの運用の中でキーとなる、「適材適所・適時適量の人材配置を実現していく」というポイントに焦点をあてて解説してきました。適所適材・適時適量を実現すれば、人材がより適したポジションで能力を発揮できるようになり、企業の組織業績の向上につながる可能性があります。また、タレントマネジメントの導入は、エンゲージメントの向上や働き方改革の実現など、日本の多くの企業に該当する人事課題の解決にも役立つでしょう。
タレントマネジメントを導入する際には、自社が実現したい組織像をあらためて見直し、適材適所・適時適量を実現しましょう。