アルムナイとは?退職者ネットワークが注目される理由や制度構築方法を解説
近年、人事業界において「アルムナイ」という言葉をよく聞くようになりました。アルムナイとは、企業の退職者やOB・OGたちを指す言葉です。アルムナイが注目され、アルムナイ制度を導入する企業が増加する背景にはなにがあるのでしょうか。
本記事では、アルムナイとはなにか、またアルムナイ制度が企業にもたらすメリットや制度構築・運用方法までご紹介します。
アルムナイとは
アルムナイとは、日本語で同窓生や卒業生を意味するラテン語です。ビジネスシーンでは、企業の退職者やOB・OGを指す言葉として使われています。
近年、日本企業においてアルムナイを組織化する「アルムナイ制度」の活用が進んでいます。アルムナイ制度とは、退職した元従業員のネットワークを構築し、組織化してコンタクトを取りつづける仕組みのことです。アルムナイ制度における退職者とは、年齢や転職先にかかわらず、すべての元従業員を指しています。
アルムナイ制度が注目されている理由
アルムナイ制度は欧米企業で活用が進んでおり、国内では外資系企業を中心に制度の構築・運用がなされてきました。
近年、外資系以外の日本企業でも導入が進められている背景には、日本型雇用制度の崩壊や少子高齢化・人口減少による生産労働人口の減少、経営戦略の多角化などがあります。
従来の日本企業では、新卒一括採用で多くの人材を確保して、終身雇用制度により長期間雇用し育成する手法がとられていました。しかし近年では、IT技術の進展や成果主義の台頭などにより終身雇用制度は崩壊しつつあります。
厚生労働省の「我が国の構造問題・雇用慣行等について(2018年)」によると、若年期に入社してそのまま同一企業に勤めつづける人の割合は、1995年からほぼ右肩下がりの状況です。
さらに、少子高齢化・人口減少によって労働力の確保が難しくなっていることも理由として挙げられます。退職者の増加と採用の困難化を受けて、企業はアルムナイを再雇用する「アルムナイ採用」を目指し制度の構築と運用を進めているのです。
また、アルムナイは採用面だけでなく経営においても重要な鍵を握る存在となります。事業をよく知るアルムナイが、自社の商品・サービスの顧客となり広報のように評判を広めてくれたり、現在勤めている企業との橋渡し役となりビジネス連携が生まれたりすることもあるのです。
そうした活動をアルムナイに広めるためには、アルムナイ制度を導入してコミュニケーションを取りつづけていく必要があります。
企業を取り巻く環境が大きく変化し先を見通すことが難しくなっている今、多くの企業が組織の強化や競争力の向上に寄与するアルムナイ制度に注目しているのです。
アルムナイ制度導入のメリットは
即戦力人材を獲得できる可能性が高まる
アルムナイは、自社をよく理解しているため即戦力人材となりうるでしょう。互いを理解している分、再雇用も円滑かつ迅速に進められる可能性があります。さらには、他社で得たスキルや経験を自社の事業に活かしてもらえることも利点でしょう。
再雇用が難しい場合は、業務を委託するケースも考えられます。業務委託であれば、副業として一部業務に協力してもらうことも可能です。
広報的役割を期待できる
アルムナイは自社の商品やサービスをよく知る理解者です。再雇用には至らなくとも、アルムナイ制度でコミュニケーションを継続することで顧客として関わりを持ち続けてくれるかもしれません。
アルムナイが顧客になったときには、よき理解者として広報や営業のように商品・サービスの評判を広めてくれる可能性があります。また、よき理解者になってもらえるような仕組みをアルムナイ制度内でつくることが大切です。
企業の理解者としてビジネスに好影響を与えてくれる
自社の魅力やサービスへの理解が深いアルムナイが、現在勤めている企業との橋渡し役となり、提携や協業に大きく貢献してくれることもあるでしょう。あるいは、退職後に得た知見により、社外からオープンイノベーションを加速させてくれるキーパーソンになるかもしれません。
さまざまな人材と広くコミュニケーションを取ることにより、より多くの知見が集まります。退職したからとアルムナイとの関係を終わらせず、長く関係を継続していくことが重要です。
アルムナイ制度運用のポイント
ここからは、実際にアルムナイ制度を構築する方法をご紹介します。これらのポイントを踏まえ、制度構築と運用を進めていきましょう。
アルムナイ制度を現従業員・アルムナイに周知する
アルムナイ制度を導入する際には、アルムナイ制度における目的やルール、運用方針、運用の方法を明確化したうえで、現従業員と退職者に対してアルムナイ制度の周知をおこないます。
現従業員・アルムナイの双方にとっての利点も伝えていきましょう。制度構築・運用にあたっての疑問が現従業員・アルムナイから寄せられたときには、利点を明確に伝えるためにも誠実に答えるようにします。
アルムナイがコミュニティに参加するメリットを意識する
アルムナイ制度を成立させるためには、アルムナイが制度に積極的に参加したくなるよう、アルムナイにとってメリットのある情報発信やイベントの開催が必要です。
たとえば、アルムナイ同士や現従業員とアルムナイとがコミュニケーションをとれる場を用意して、交流を活発化させることで、新たな人脈やビジネスチャンスが生まれる可能性があります。新規事業や業務提携につながれば、経営上にも大きなメリットを得られます。
また、アルムナイにとってもさまざまな情報を交換できる場、アルムナイ同士の交流ができる場が生まれることで、自身の知見や人とのつながりが増えるというメリットがあります。
負担をかけずに参加できる仕組みにする
アルムナイ制度運用において担当者の負担が大きくならないように運用ができ、かつアルムナイが気軽に参加できる仕組みを作りましょう。たとえば、SNSやビジネスチャットツールでコミュニティを形成し、情報発信をおこなう方法もあります。
多くの人が利用しているSNSや、社内で活用されているチャットツールであれば、アルムナイ制度運用の担当者の負担を軽減できます。また、これらはメールマガジンのような一方的なコミュニケーションに終始せず、企業とアルムナイが、あるいはアルムナイ同士が双方向に情報交換をおこなえるのも利点です。
オンライン・オフライン問わず定期的にイベントを実施する
アルムナイ制度の運用にあたっては、アルムナイとの関係を絶やさないことが重要です。オンライン・オフラインの両方でイベントを実施して、コミュニケーションの場をつくりましょう。
とくにオンラインイベントは、アルムナイの地理的・時間的な問題を解消でき、開催側の負担も軽減できるメリットがあります。
再雇用の条件を設定し体制を整える
アルムナイ制度を導入する目的の一つに再雇用がある場合、再雇用の条件を設定し、採用するための体制を整える必要があります。
条件なく再雇用を進めた場合、入社後のミスマッチなどにより早期退職してしまったアルムナイを再雇用することもあり、同じ理由で再び退職されてしまうかもしれません。雇用対象者には勤続年数や役職など一定条件を設けておくことで、再雇用者の再退職を避けられます。
再雇用の待遇については、社内外での経験知を加味して能力が高いアルムナイに対しては高めに設定したり、ライフイベントにより退職したアルムナイがプライベートと両立して働けるように多様な働き方を実現できる雇用形態を用意したりするなどの配慮も大切です。
いくら自社業務の経験があるアルムナイでも、以前とは異なる業務フローへの対応や人間関係の再構築が必要になる場合もあることから、さまざまな不安を抱くものです。再雇用したアルムナイをサポートする体制づくりもおこないましょう。
アルムナイ制度運用上の注意点
アルムナイ制度を運用するうえで、注意したいポイントがいくつかあります。
確実におさえておきたいのは情報漏えい対策です。運用方法によっては、アルムナイの個人情報や企業の機密情報がアルムナイネットワーク内に漏えいする可能性があります。とくに広く公開されているSNSを活用してコミュニティを形成する場合には注意が必要です。
アルムナイだけがコミュニティにアクセスできるよう、利用するツールに公開制限を設ける、セキュリティ性の高いアルムナイネットワーク構築サービスを利用する、などの対策を講じましょう。
また、制度構築・運用にかかる経済的コストや、運用担当者にかかる時間的コストなどコスト面にも注意が必要です。あらかじめ制度の構築や運用にかかるコストを把握して、経営を圧迫しない範囲で運用をおこないます。
コストがかかりすぎる状態では、制度の継続が難しくなってしまいます。まずは自社の経営状況からアルムナイ制度に充てられるコストを洗い出し、無理なく継続できるよう管理しましょう。
アルムナイは大切な経営資源の一つ
現従業員だけでなく、退職した人材も大切な経営資源の一つです。アルムナイ制度の導入で、自社に関わりのあった人々とコミュニケーションをとり続け、お互いにメリットのある関係性を維持していきましょう。
アルムナイ制度の導入で、人材流動性の高まりや人材不足の慢性化といった課題の解決や、新たなビジネスへの進展が望めるかもしれません。