タレントマネジメントで従業員のパフォーマンスを最大化!導入の効果を事例で紹介
労働人口の減少や少子高齢化によって優秀な人材の確保が難しくなっている昨今、採用だけでなく既存社員を活かすことにも注目が集まっています。
タレントマネジメントとは、従業員が持つ能力(タレント)などの情報を管理し、人材配置や人材開発をおこなうことで組織の戦略や目標達成を支援し、タレントの戦略的活用によって企業が利益を高めることを意味する言葉です。
本記事では、タレントマネジメントの概要をお伝えするとともに、企業におけるタレントマネジメント実践のポイントや、タレントマネジメントを導入している企業の事例についてご紹介します。
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、自社の従業員や従業員の持つ能力(タレント)に着目し、人事施策を実施することで、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大限に活かそうとする人事管理手法のひとつです。タレントマネジメントの実践は、企業にも従業員にもメリットをもたらす可能性のあるものです。
企業にはタレントマネジメントを進める過程で、従業員に関するスキルや評価などの情報が蓄積されていきます。その情報を分析・活用することで、適材適所の配置や選抜などの人事施策に役立てることができ、経営に寄り添った人事施策の最適化を図れるようになるでしょう。
たとえば、自社で新規事業を立ちあげる際などに、最適な人材を配置できることで競争優位性を高める効果が期待でき、企業の持続的な成長に寄与する可能性があるでしょう。
また、企業が従業員の現在・過去・未来の情報を把握し一人ひとりに目を向けることは、従業員が主体的にキャリア開発ができるようになるというメリットにもなります。これは従業員自身の成長を促進するため、活躍の幅が広がることにつながります。
タレントマネジメントによるこのような効果を得るためには、タレントマネジメントの適切な実行が必要です。
タレントマネジメント運用のポイント
タレントマネジメントを導入するに当たっては、自社でタレントマネジメントに取り組む目的とゴールなど、全体構想を決定する必要があります。
それでは、全体構想を決定したうえでタレントマネジメントを自社に導入し実践をするにはどうすればいいのでしょうか。「タレントマネジメント入門~個を活かす人事戦略と仕組みづくり~」著 土屋裕介(株式会社マイナビ)、柿沼英樹(流通科学大学 准教授)(2020)ProFuture出版を例に実践のステップをみてみましょう。
取り組み | 内容 | |
---|---|---|
1 | 方針の策定 | ・タレントマネジメントを導入する前に、自社におけるタレントマネジメントの全体構想を描く ・導入の決定後、全体構想に沿った計画を立案する ・自社にとっての重要な職務や自社に必要なタレント像を定義し、言語化・明文化する ・どの部署にどの従業員をどのくらい配置するのか検討する |
2 | 現状の可視化 | ・従業員一人ひとりの情報を収集し、組織の現状を可視化する ・従業員の顕在的・潜在的情報を整理する ・部署ごとの従業員数や従業員の特徴などの情報を収集する ・各部署の人員や配置された従業員の能力が適しているかを確認する |
3 | 施策の実施 | ・採用・配置・教育・評価などの人事施策の実施により、理想と現状のギャップ解消を図る |
4 | 振り返り | ・施策の実施による効果と変化を検証する ・検証結果をもとに改善を進める |
ステップ1. 方針の策定
タレントマネジメントを導入する前に、自社におけるタレントマネジメントの全体構想(あるべき姿・現状・その課題・解決までの大まかな時間軸の計画・必要なリソースなど)を描きます。
導入の決定後は、自社において重要な職務や必要なタレント像を明確化しましょう。このプロセスでは、さまざまな方法でアプローチを試みる必要があります。たとえば、タレントが備えるべきコンピテンシー(高業績者の行動特性)を設定することにより、タレント像の明確化だけでなく人材育成にも役立てられます。
また、自社の現状や理想、戦略から、どのような従業員がどの部署にどのくらい必要なのかを定義・明文化しましょう
ステップ2. 現状の可視化
タレントマネジメントの実践には、従業員に関する情報が欠かせません。従業員に関する情報は、正確に収集し目的に沿って活用できるよう、あらかじめ収集方法と活用方法を明確化しておくことが重要です。
まずは従業員の業績や資格、評価履歴といった顕在的な情報に加え、熱意や興味、キャリア志向などの潜在的な情報を整理しましょう。
次に、従業員の状態を正確に把握するために、学術的な知見に基づき設計されたアンケートを用いることを検討しましょう。また、回答協力を得るために、収集した情報の活用方法や目的を理解してもらうよう従業員に働きかけるとともに、日頃から人事部門が現場の従業員とコミュニケーションをとり、情報を収集しやすい環境を構築することも重要です。
ただし、企業それぞれの考え方によってデータの適切な収集方法は異なります。網羅的に収集することがベストとは限りません。人事部門や従業員に負担がかからない程度にとどめることも一つの選択です。
ステップ3. 施策の実施
次に、組織を理想の状態にするための施策を検討しましょう。施策を実施する際には、採用・配置・教育・評価などの人事施策を一貫性を持って統括的に実行し、理想と現状のギャップを埋められるよう努めます。
たとえば、人材の不足している部署に人材要件に適した採用をおこなう、人材要件にマッチするように既存社員の教育をおこなったあとに配置するなどの方法があります。これらの施策では、従業員が納得感を得て業務を継続できるよう、公正な評価をおこなうことも重要です。
ステップ4. 振り返り
施策実施後には定期的に振り返りをおこない、PDCAを回します。当初の理想や計画から外れてきていないか、望んでいた効果が得られているかを検証し、その結果を評価します。
採用や教育など、個々の施策だけでなく、自社における重要な職務への人材の充足率など、組織全体においても検証し評価します。検証の結果、施策が思うような効果を発揮していない場合には、課題点を洗い出し適宜改善を進め、再度振り返りというようにPDCAを回し続けることが大切です。
ただし、自社に適するタレントマネジメントの実践プロセスは企業や環境によっても異なるため、柔軟な対応が求められることもあります。そのため、前述した基本の考え方をベースに、必要な施策を体系的に実施することが重要です。
タレントマネジメントにて課題解決に取り組んでいる企業事例
ここからは、タレントマネジメントシステムを用いてタレントマネジメントの実践に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。
タレントマネジメントシステムとは、従業員の情報を可視化し、施策の検討・実施をサポートするツールです。タレントマネジメントシステムの活用により、従業員一人ひとりの経歴や能力、考え方を把握して、人材配置や人材育成に役立てられるようになります。
自社の課題解決のために、企業はどのようにしてタレントマネジメントに取り組んでいるのか、またどのような効果を得られたのか詳しく見ていきましょう。
株式会社エドウイン/時代にマッチした管理職人材の育成
日本を代表するメイド・イン・ジャパンのジーンズメーカーとして知られる株式会社エドウインでは、多様化するアパレル市場に対応するために人材育成を強化しています。
創業当初は少数精鋭のものづくり系企業だったことから、職人気質の従業員が多い傾向にあったといいます。2014年に伊藤忠商事株式会社の子会社となってからは、アパレル市場の変化に合わせ組織変革が進展し、経営的な視点やマネジメント能力を有する人材が必要になったといいます。
しかし、職人気質が根付いていた同社では「仕事は見て覚えるもの」という雰囲気があり、マネジメント面に課題を抱えていました。
そこで同社では、まず管理職を対象とした研修を実施しました。その後、迅速かつ精度高く組織変革を進めていくために、タレントマネジメントの導入を決定します。従業員や組織の現状を可視化した結果、自社に必要な人材育成の施策などが見えてきました。その後は管理職だけでなく他の従業員に向けた教育施策や仕組みも策定中です。
従業員や組織の現状を見える化する方法には、「組織のエンゲージメント状態の測定」や「従業員の強みや弱みなどの資質を明確化すること」などがあります。株式会社エドウインが組織のエンゲージメント状態を測定した結果、店舗スタッフのエンゲージメント向上が必要であることがわかりました。
従来、店舗スタッフは基本的にアルバイトであったため、店長にならなければ正社員になれないことからエンゲージメントが低い状態にあったといいます。とくに副店長クラスのエンゲージメントが低く、優秀人材が離職するケースもありました。
そこで同社は、現場との意見交換を行いながら、十分にスキルを有するスタッフは店長でなくとも正社員になれるよう、正社員登用制度の見直しに着手しました。
また、従業員の強みや弱みなどの資質の明確化は、部下あるいは上司との接し方に悩む従業員へのアドバイスや、各部署に適する候補者の割り出しなどに活用する予定です。
SBI損害保険株式会社/エンゲージメント向上と自己学習の習慣化
ダイレクト型損害保険会社として、自動車やがん、火災をはじめとする保険商品を取り扱うSBI損害保険株式会社では、当初中途採用を軸にした人事戦略を推進していました。
その後、事業拡大にともない若手社員が増加したことにより、管理職の育成と強化が課題として浮かび上がってきたといいます。加えて、若手社員の離職防止のために、離職率と相関があるといわれているエンゲージメントの向上も目指すようになりました。
それにともない、管理職のマネジメント能力の向上が必要と判断し、管理職のマネジメント能力向上を図ると同時に、全社的に教育風土を醸成していくためにタレントマネジメントシステムを活用した人材育成の施策を検討し、導入を決定しました。
導入後まずは、管理職を中心に研修とeラーニングによる学習を実施したほか、全社員を対象としたエンゲージメント状態の可視化を実施しました。エンゲージメント状態の可視化では、結果を踏まえた施策を実施する部門があるなど、全社的に組織を改善していく意識が芽生えていったといいます。
これらの施策の実施により、自己学習の風土が醸成され、学習が習慣化されるという効果が見られました。
まとめ
タレントマネジメントの導入・実践により、適材適所の人材配置を実現しながら、従業員のエンゲージメント向上も期待できます。
労働人口の減少により、人材の確保が困難化している昨今、多様な人材の活用に注目が集まっています。このような中でも企業が継続的に成長するためには、経営の柱ともいえる従業員の成長が不可欠です。
タレントマネジメントにより、従業員一人ひとりの能力や資質を見極め、学習機会を提供し続けることで、エンゲージメントを高く保ちながら自社に貢献してくれる従業員を増やせる可能性があります。また、適材適所の配置により従業員の能力が最大限発揮され、生産性や利益の向上も期待できます。
自社の課題を洗い出し、理想というゴールを設定した後は、PDCAを回しながら各種施策を実施・改善することで、人材活用の最適化を図れるでしょう。導入事例を参考にタレントマネジメントの導入を検討してみてはいかがでしょうか。