人事データの活用方法を解説。データの種類や分析手法も紹介

近年、DXやAI活用の加速度的発展や人的資本経営の実現といった背景から、人事データを事業収益活動の向上にも活用することにさらなる注目が集まり、その重要性が増しています。人事データは、氏名や年齢といった基本情報にとどまらず、配属履歴や評価結果、勤怠状況、スキル、キャリア志向、従業員アンケートの結果など、従業員に関する多面的な情報を含むものです。
これらのデータを適切に収集・統合・分析することで、採用や配置、育成、評価といった人事施策を感覚や経験だけに頼るのではなく、事実にもとづいて検討できるようになります。さらに、データを一元管理し、分析できる仕組みがあれば人事部門だけでなく現場の管理職も活用でき、組織全体で戦略的な人材マネジメントが可能になります。
本記事では、人事データとは、人事データの種類、活用で実現できること、分析手法、課題、活用事例を紹介します。
人事データとは

一般的に人事データとは、その企業に在籍をしたことのある従業員にまつわるさまざまな情報を指し、在籍期間中の情報は社内の「人事データベース」に蓄積されていきます。
氏名・年齢などの基本情報に加え、入社日や配属履歴、役職や給与、評価結果、研修受講歴、勤怠状況、スキル、キャリア志向、従業員アンケートの結果など、多面的な情報が含まれます。
人事データは、人事管理のための記録にとどまらず、組織全体の人材構造を把握し、適切な配置や育成方針を検討するための基盤として活用できます。また、DX の進展により、採用・配置・育成・評価といった意思決定をデータドリブンでおこなう企業が増えています。多様なデータを AI で容易に分析できるようになったことで、人的資本経営の実現に向けた基盤としても重要性が高まっています。
人事データを活用するには、紙や複数システムに散在する情報を統合し、一元管理することが重要です。情報所在の不明確さを最小化し、人事部門だけでなく現場の管理職も必要な情報へ迅速にアクセスしやすくなります。その結果、分析や戦略的な意思決定の基盤が整います。
人事データの種類

人事データは用途や性質に応じて複数のカテゴリに分かれます。
以下は代表的なカテゴリと、その中に含まれる具体例の一覧です。
| 従業員にまつわる基本情報 |
氏名、生年月日、性別、住所、連絡先、所属部署、役職・等級、異動履歴、雇用形態 など
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| 入社や採用にまつわる情報 |
入社日、採用経路、選考記録、面接評価、履歴書・職務経歴書の情報、採用選考の通過率 など
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| 勤怠管理情報 |
出退勤時刻、労働時間、残業時間、休暇(有給・育休等)、遅刻・欠勤の記録 など
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| 給与・報酬・控除情報 |
基本給、通勤費、役職や役割に応じた手当、社会保険料、健康保険料、賞与、昇給、支給明細 など
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| 評価・業績にまつわる情報 |
人事評価結果、目標(KPI)と達成度、上長コメント、受賞・表彰履歴、チーム/部門の業績指標 など
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| スキル・資格にまつわる情報 |
保有資格、専門スキル、語学力、技術レベル、スキル評価や承認状況 など
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| 育成・研修の記録 |
研修受講履歴、eラーニングの進捗・成績、育成・受講記録 など
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| キャリア志向・適性にまつわる情報 |
キャリア希望、異動希望、適性検査結果、自己申告の志向性や価値観 など
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| エンゲージメント・意識にまつわる情報 |
従業員満足度調査、エンゲージメントスコア(従業員の意欲や満足度を示す指標)、パルスサーベイの結果、面談記録 など
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| 離職・退職にまつわる情報 |
退職理由、離職日、部署別・年次別の離職率データ など
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人事データの活用で実現できること

人事データの活用で実現できることを紹介します。
従業員の状態や強みを可視化できる
データの正確性・更新性を維持する仕組みが整えば、感覚や経験だけではなく、事実にもとづいて人材を把握できるようになります。
一元化された人事データは、タレントマネジメントシステムで活用することで、人材マネジメントを支える基盤として機能します。
たとえば、スキル、経験、キャリア志向などを把握することで育成計画を立てることが可能となり、データを一覧で確認できるため、次世代リーダー(幹部候補)や次世代管理職を育てたいときにも、データから候補を見つけやすくなります。また、管理職がメンバーの状態を定期的に確認し、疲弊防止やモチベーション維持に役立てることも可能です。
適材適所の実現に繋がる
従業員の能力・経験・志向を踏まえて配置をおこなうことで、仕事とのミスマッチを減らすことに繋がります。
「強みが活きる配属になった」「やりたい仕事に近づけた」という感覚は活躍促進や離職防止に寄与します。
さらに、現在のスキルと目指す状態との差を明確にできるため、個々に最適化した育成計画の設計にも役立ちます。研修履歴や評価データを検証することで、育成施策の効果を見極めながら改善でき、組織全体のパフォーマンス向上にも繋がるでしょう。
エンゲージメント向上のための現状把握ができる
人事データは、従業員のエンゲージメントを直接高めるものではありませんが、組織の現状を客観的に把握するための情報になり得ます。たとえば、エンゲージメントサーベイの結果や勤怠データを分析することで、組織や部署ごとの状態を可視化することができます。
これらの結果を、企業や組織の「ありたい姿」と照らし合わせ、どのようなギャップが生じているのかを見極めることが重要です。そのうえで、問題の原因を整理し、解消に向けた施策を検討・実行していくことがエンゲージメントの向上に繋がっていきます。
採用精度と効率が向上する
社内のハイパフォーマーの特徴を分析することで、「自社で活躍しやすい人材像」を整理・言語化することが可能になります。これにより、採用基準や判断の軸を明確にするための共通認識を持ちやすくなります。
ただし、たとえ人材要件が高い精度で定義されていたとしても、それを実際の選考で見極め、候補者に適切に伝えていくのは、面接官や採用担当者のスキルや判断力に委ねられます。要件の理解が不十分であったり、評価やコミュニケーションの質にばらつきがあれば、データは現場で十分に活かされません。
また、採用データを活用することで、採用経路ごとの成果や費用対効果、通過率・辞退率の傾向を把握することはできます。しかし、それらの結果をどう解釈し、どのプロセスを改善すべきかを意思決定し改善活動をおこなうのは人の役割です。人材要件の整理とあわせて、採用に関わる担当者の目線やスキルを揃え、継続的に運用していくことが、採用精度や効率の向上に繋がっていきます。
人事データの分析手法

人事データの分析手法を紹介します。
記述統計分析
人事データ分析の出発点ともいえるのが記述統計です。
平均値・中央値・最頻値といった基礎指標から、給与水準、残業時間、勤続年数などの中心的な傾向を把握できます。
さらに複数項目の関係性を調べる際は相関分析が役立ちます。「勤続年数が長いほど、職務スキルがどの程度伸びているか」「採用経路ごとに、入社後の活躍度に差があるのか」などを相関係数として数値化することで、どの指標同士が影響し合っているかを可視化できるようになります。散布図やヒートマップを使えば、直感的に比較ができる点も特徴です。
傾向分析(時系列分析)
傾向分析(時系列分析)とは、時系列に沿ってデータを追うことで、数値が「どのような変化を辿ってきたか」、その傾向を明確にする手法です。
離職率、採用数、残業時間などを月次・年次で並べると、増減の推移、時期による傾向、変化の激しさなどが把握できます。
折れ線グラフを用いて可視化することが多く、一例として以下のような傾向の検証がしやすくなります。
- ・離職が特定の時期に集中していないか
- ・残業時間の増減が慢性化していないか
- ・施策導入後の効果が一時的か継続しているか
これらは将来の変化を予測する際の前提データとしても活用できます。
セグメンテーション分析
年齢・部署・職種・評価などの切り口で従業員をグルーピングし、それぞれの特徴を比較する手法です。
同じ組織内でも層ごとに課題や傾向が異なるため、画一的な分析では見えにくい「グループの特性」を可視化できます。
たとえば、以下が挙げられます。
- ・世代別に働き方の傾向やエンゲージメントを比較する
- ・ハイパフォーマーとそのほかの従業員の違いを抽出し、育成に繋がる要素を探る
- ・入社年次別に定着しやすさや離職率を把握する
予測分析
過去に蓄積されたデータの動きから、将来起こり得る事象を推定する手法です。
代表例としては、離職予測や人員計画への活用が挙げられます。これにより、「入社 1 年以内にどんな特徴の従業員が離職しやすいか」「今後どのスキルが不足しやすいか」などを事前に把握し、対策を立てることができるでしょう。
人事データの活用における課題

人事データの活用における課題を紹介します。
データが部門ごとに分散しやすい
企業によっては、勤怠管理や評価、研修履歴などが部門ごとに異なるシステムで管理されており、情報が分散しやすい状況にあります。
その結果、従業員情報を横断的に把握できず、分析や意思決定に時間と手間がかかってしまいます。
これを解消するには、統合システムの導入や、既存ツールとの連動による一元管理が有効です。
プライバシー保護や情報漏えいリスク
人事データには、給与、評価コメント、キャリア履歴など、プライバシーとなる情報が含まれます。
そのため閲覧できる範囲が適切に管理されていないと情報漏えいリスクになります。
対策として、職務に応じたアクセス権限を細かく設定し、必要最小限の閲覧に制限することや、個人を特定する必要がない分析では匿名化データを用いるなど、扱い方にも工夫が求められます。
加えて、情報管理に関するルールを整理し、従業員へ教育することも重要です。
情報の正確性や抜け漏れによる品質低下
入力者によって記載ルールが異なっていたり、更新されないまま古いデータが残っていたりすると、分析に耐えうる品質を保てない恐れがあります。こうした状態のまま活用を進めると、誤った数字や不完全な情報をもとにした判断となり、配置や育成といった人事施策の精度にも影響を及ぼしかねません。
一方で、実務の現場では、要件定義が十分に整理されないまま施策が始まり、「なにに使うのか分からないが、とりあえず項目として設定されている」入力欄が増えてしまうケースも少なくありません。入力項目が多く、目的が共有されていない状態では、現場の負担感が高まり、入力の省略や形式的な記載が発生しやすくなります。その結果、期待した情報が蓄積されないという悪循環に陥ることもあります。
そのため、データ活用を前提とした項目設計にあたっては、「なにに使うデータか」「入力量と現場負荷のバランス」を押さえることが大切です。これにより、従業員側の UI/UXが担保され、実運用でも必要な情報が安定的に集まります。
あわせて、入力時のフォーマット統一や記載ルールの明文化をおこない、定期的なデータ点検やメンテナンスをおこなうことも重要です。
その際、人事部門をはじめとするデータ管理側が、活用目的や具体的な使われ方を継続的に共有し、運用上のフォローをおこなうことで、「整備しただけで形骸化する」状態を防ぐことができます。こうした継続的な関与によって、データ環境そのものが目的化することなく、運用者と現場双方にとって活用しやすい状態を維持していくことが求められます。
運用が続かず形骸化するリスク
データベースやシステムを導入しても、入力やメンテナンスが属人的だと更新が滞り、活用されないリスクがあります。
運用を持続させるには、経営層が重要性を理解し、データを活用した意思決定を実践することが大切です。また、担当者を固定し、定期的な更新サイクルを決めることで、日常業務の一部として定着するでしょう。
こうした仕組みが整えば、データは単なる記録ではなく、戦略的な人材マネジメントを支える「生きた情報」として機能します。
人事データの活用事例

人事データの活用事例として、株式会社NTT-MEでは、従業員のキャリアオーナーシップに繋げるため、人材データの活用に取り組んでいます。
同社には以前から社内ダブルワーク制度や社内公募制度があったものの、十分に活用されていませんでした。そこで、制度を従業員一人ひとりのキャリア観と結びつけるため、人事データベースを構築しました。
異動歴や業務経歴、資格などのファクトデータに加え、趣味や将来の志向といったエモーショナルな情報も収集し、社内公募情報とのマッチングやレコメンドに活用しています。具体的には、各プロジェクトの募集情報と従業員のデータを突き合わせ、「趣味や関心に合ったプロジェクトがあります」といったレコメンドメールを配信しています。
こうした取り組みを通じて、人材データを単なる管理情報ではなく、従業員の可能性を広げるキャリア施策の基盤として活用されています。
人事データを理解し、正しい活用を

人事データは、従業員に関する情報を蓄積した単なる記録ではなく、組織の人材構造を把握し、人事戦略を検討・実行するための重要な基盤です。
データを一元管理し、スキルやキャリア志向を見える化することが、採用・配置・育成などの意思決定をより戦略的におこなうための第一歩となります。
また、分析手法を工夫することで、エンゲージメント向上や組織課題の可視化といった、組織改善に直結する活用も可能です。
一方で、数字やデータだけに頼った意思決定には注意が必要です。数値は客観的な判断材料となる反面、現場の実態や個々の背景を捉えきれない場合があります。反対に、感覚や経験のみにもとづく判断は属人的になりやすく、判断の再現性が失われる恐れがあります。
人材データを形骸化させずに活用し続けるためには、定量的なデータと、現場で得られる感覚や対話といった定性的な情報を組み合わせて活用することが重要です。両者を往復しながら意思決定をおこなうことで、データは実態に即した「生きた情報」として機能します。
人事データを正しく理解し、活用のポイントを押さえることが、人的資本経営を実現する第一歩となるでしょう。

















