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戦略人事とは?導入する際の課題と成功に導くポイントを解説

2023年06月14日更新

戦略人事とは

新たな競合の台頭やデジタルディスラプション(新規デジタルサービスが既存サービスに取って代わること)など、市場変化の激しい現代、人事業務に従事されている方は、戦略人事という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

近年話題になっている戦略人事は、自社の人材を適材適所に配置する観点に加え、企業戦略を実現するために人的資源を活用する方法として注目されています。そこで本記事では、戦略人事の導入における課題や成功に導く方法を紹介します。

目次 【表示】

戦略人事とは

戦略人事とは、「経営戦略を実現するために人事部門が人材の採用・育成、それに必要なタレントマネジメントやインフラ整備などをおこなう」ことを指します。

戦略人事が注目されるようになった背景

日本では、1955年に始まった高度経済成長期からバブル崩壊前の「物を作れば売れる時代」と、1990年以降のバブル崩壊後の「工夫しなければ売れない時代」の両方を経験したことによって、戦略の工夫や付加価値提供の重要性を改めて知ることとなりました。しかし、この時期に戦略人事に取り組んだ企業は限られていました。

その後約30年で企業はグローバル化やDX推進、コロナ禍における働き方の変容を経験するなか、次世代人材の育成不足や終身雇用制度によってできた組織間の壁、メンバーシップ型雇用による人材流動性の低さなどの課題に直面しました。

これまでの人事体制ではクリアできないこれらの課題を解決する方法として、近年戦略人事が注目を集めています。

戦略人事と従来型人事の違い

従来の人事機能は、欠員補充や採用予算にもとづいて人事制度の設計や採用、労務、育成、人員配置をします。

それに対して戦略人事は、「経営戦略を実現するために人事としてどのようなことができるか」を主軸において従来の範囲に留まらない戦略を立て、人材採用や人員配置、労務管理、自社の社員のタレントマネジメント、育成などを推進するのが仕事です。

戦略人事に必要な要素

戦略人事は、経営戦略を実現するためになにが必要かを読み取る力が必要です。また、それらに求められる人材の採用・配置・育成をするには、どのような能力が必要なのかを知っておく必要があります。そのため、戦略人事に求められる要素は多くありますが、本記事では基本となる5つの要素を紹介します。

経営戦略の理解

戦略人事は経営戦略を実現できる人事・組織体制を整えることが目的です。そのため、経営戦略について理解し、それを実現するためにはどのような人的資本の運用・活用・獲得(HCM支援方法)が必要かを考える必要があります。

自社の人的資本管理(HCM)の現状可視化、方針策定

経営戦略を実現するためには、自社の人的資本管理が欠かせません。それができて初めて「適材適所」「適時適量」に人材を供給し続けられる体制が整います。

経営戦略を実現するためには、その戦略にどのような知識・技術・能力・特質を持った人材が何人必要かの確認と、自社にいる個人が持つ知識・技術・能力・特質などの人的資本を可視化し、適材適所・適時適量に人材配置をおこなう方針を決定、実行する必要があります。

たとえば、下記のような流れで人的資本を可視化し、不足する人材を採用・育成、もしくはその両方を用いるなどの方針を決定する必要があるでしょう。

「自社の人的資本を可視化した結果、Aのスキルを持った人材が◯名、Bのスキルを持った人材が◯名いることがわかった。

経営戦略を実現するには◯年◯月までにC事業部にAスキル人材を◯名、Bスキル人材を◯名配置しなければならないが、人材がそれぞれ◯名足りないため、採用をして補填する必要がある。

スキルの高さが必要な役職者はヘッドハンティング会社に依頼し、それ以外はダイレクト・リクルーティング、◯月を過ぎたら紹介会社に依頼して確実に採用をおこなう」

自社の人的資本を可視化し、不足要素を「社内人材の育成」か「外部登用」または、その両方といったように、どう補うのか検討します。

育成で補填するのであれば、既存社員の中から誰をどのような観点でピックアップし、いつまでに知識・技術・能力などをどのレベルまで育成するのか、方針を決めます。採用で補填するのであれば、必要知識・技術・能力・特質を持った人材を採用する方法を調査し、方針を決定します。

自社のタレント把握とマネジメント

経営戦略を着実に遂行するためには、自社が持つ人的資本を把握(従業員個人が持つ経歴や資格・能力など)し、可視化することが前提として必要です。可視化されたそれらの情報をもとに、人材の「配置・育成・開発・評価」といった、タレントマネジメントを設計し運用することも求められます。

自社でタレントマネジメントをおこなう場合、社員のタレント把握と可視化、育成計画や配置による経験などをすべて共有できるシステムが必要ですが、独自に構築するのは難度が非常に高いです。そのため、既存のタレントマネジメントシステムなどを活用し、業務効率の低下を防ぐソリューションを活用することも有効です。

インフラ整備

本記事での戦略人事におけるインフラ整備とは、評価機構や人事制度、それを利用できるようにするシステムの整備を指します。経営戦略を実現する人材が働き続けやすくなる評価機構や人事制度、それを効率よく支えられるシステムを作るためには、適切なインフラ整備が求められます。

適切にインフラ整備をおこなうには、まず現在の人事制度・仕組み・プロセスの目的と結果の確認、使用システムの把握が必要です。現行の評価機構や人事制度、システムなどが今の経営戦略に沿っていない可能性もあるため、整備をする前に確認をおこないましょう。

その後、現在の経営戦略に沿った評価機構や人事制度、システムを考え、現在との乖離を確認し、いつまでにどのような変更をおこなうのかを決定し、実行します。

また、インフラ設備や制度は策定したら終わりにするのではなく、時代や働き手の変化によって、定期的に適した評価機構や人事制度の見直し・変更をおこなったり、それに伴うインフラ設備への投資をしたりなど、変更を想定して確認する必要があります。

人材開発、採用

経営戦略の実現には、それを実現する人の採用や人材開発が不可欠です。仮に、経営戦略の実現に必要な知識・技術・能力・特質を既存社員が備えていなかった場合、採用・人材開発どちらで調達をするのかの方針決定をし、「適材適所」、「適時適量」に人材を供給できるよう動く必要があります。

戦略人事が導入されて初めて採用をする場合、注意点が3つあります。

1つ目はこれまでの組織文化に沿った基準で採用決定をしないことです。人事側は把握していても、人事以外で採用に関わる方がこれまでの基準で選んでしまうと、本来の目的にマッチした人材を見過ごす可能性もあるためです。新たに作った採用基準で採用活動をしてもらえるよう、周知しておきましょう。

2つ目は戦略人事導入によって求める人物像に大幅な変更があった場合、新たに入ってきた社員と既存社員との適合度合いが低い可能性もあります。その場合はどのようにケアするかを検討しておき、該当部署で実施されるよう指示しておきましょう。

3つ目は戦略人事導入によって求める人物像に大幅な変更があった場合、既存社員の志向と異なってくる可能性が考えられることです。入社当時に考えていたキャリアプランと会社の方針が変わったことによって、離職を招くリスクがあることも頭に入れて対応しましょう。

戦略人事を導入する際の課題

戦略人事を導入する際の課題

戦略人事を導入する際にはさまざまな課題がありますが、本記事では2つに絞って紹介します。自社の課題と合致するポイントを見て、改善に取り組んでみてください。

戦略人事に必要な能力不足

経済産業省によると、他部門と兼任をしない人事専任の役員やCHROなどの設置状況は、外資系企業で37.7%、日本は12.8%と非常に低い状態にあることがわかります。
>>経済産業省 参考資料集(令和2年7月)

日本では人事専任役員・CHROの設置が1割程度であること、そして人材マネジメントの課題として、「人材戦略と経営戦略が紐づいていない」という回答が一番多く、3割を超えていることから見ても、戦略人事を導入する際に必要な経営戦略理解・市況変化の捕捉・インフラに関する知識、実行力など、戦略人事に適した能力を持つ人材が不足している可能性が高いといえます。

自社が今戦略人事の導入を考えているのであれば、CHROとして人事部門に特化した方や人事担当役員の設置や人事部門社員の育成、従来業務に最適化された人事部門の人員増強なども視野に入れる必要があるでしょう。

時代や働き手に合わない従来型の評価、報酬制度

同省によれば、人材投資の国際比較でも日本の水準は0.1%程度と非常に低く、諸外国(米国2.08%、英国1.06%)に大きく及びません。企業戦略を実現するには育成、つまり人材投資が必要であるにも関わらず、投資されていない状況であることがわかります。

企業が人材投資をせず、個人も学ばない状態では、戦略人事を担うはずの社員のスキルも身につかず、時代や働き手の変化を捕捉できないまま人事制度設計や育成などをおこなっている可能性が高いといえます。

「戦略人事」導入課題の解消方法

先の課題を解決し、戦略人事の導入を成功させるには、どのような方法が考えられるのか、課題別に解消法を紹介します。

経営者が一時的にCHROを担う

課題の1つ目、戦略人事に必要な能力不足と人的リソース不足に関しては、2つの打ち手があります。

能力不足に関しては、一時的に経営者がCHROを担うことで、知識や戦略実現に必要な道筋を立てることができるでしょう。CHROが旗振り役として動くことで、人事部門メンバーの育成機会を創出することにつながります。

本来は採用や育成でCHROの役割を担う人材が垂範するべきですが、CHROクラスの採用は簡単ではありません。また、育成にも長期の時間を要するため、経営者が自ら戦略人事担当としてCHROを担うのが一番の解消方法として挙げられます。

人事部門の人的リソース不足に関しては、定型業務のアウトソースやデジタルツール(RPAなど)の活用により、戦略人事に集中しやすい業務時間を創出できるでしょう。

人事部門メンバーの人数が少ない場合、欠員補充や採用予定人数の突破、労務管理などの従来業務で手一杯の可能性もあります。ツールを用いずに戦略人事を導入するとなると、長時間労働を強いることになるため、業務の棚卸や見直しもかかせません。

人事の情報収集力・企画力の育成

戦略人事導入の課題部分で挙げた、時代や働き手に合わない従来型の評価、報酬制度になっているのは、人事が時代の流れを捕捉する情報収集力や時代に合った評価機構や人事制度を企画する力が不足していることが、要因の1つだと考えられます。

経営戦略を理解し、似たような戦略を取っている企業はどのような評価機構、人事制度を運用して成功しているのか情報を収集する癖をつけられれば、今後の自社が求める人材像の設定、求める人材のエンゲージメントを高める評価・報酬制度策定などの企画が浮かんでくるようになるはずです。こうした地道な活動が、人事の情報収集力と企画力を育成することにつながります。

戦略人事導入時の課題

戦略人事導入を成功させるためのファーストステップ

では最後に、戦略人事の導入を成功させるために取れるファーストステップを3つ紹介します。

現在の評価、報酬機構や人事制度との乖離を確認

評価

まずは経営戦略を実現できるような評価、報酬機構や人事制度を策定し、現存のものとの乖離を確認しましょう。 その際、現存の評価や報酬機構、人事制度の目的を確認しておくと、変更すべき部分のみを抽出しやすくなり、効率よく対応できます。

変更前には、改めて目標となる経営戦略の実現に沿った評価、報酬機構や人事制度になっているかを確認してから制度・機構の変更をするよう心がけましょう。

能力、人的リソース状況の確認

人的リソース

次に、戦略人事に必要な能力を現在の人事部門はどの程度持っているのか(経営戦略への理解や市況変化の捕捉、インフラに関する知識など)の確認と、人的リソース状況を確認しておきましょう。戦略人事を導入するためには、どれだけの対策や投資、期間が必要かを試算して計画をたてることが重要です。

現行制度の問題点や既存社員の能力、人的リソースを考慮したうえで、解決案を複数出しておくと、計画の検討がおこないやすくなるでしょう。

経営陣との目線合わせ

経営陣

経営陣は、戦略人事以外にも企業運営に関するさまざまな意思決定をおこなっています。戦略人事を成功させるには、既存社員の能力・人的リソースなどの現状を常にアップデートして開示していくことが重要です。目線合わせをする際には、その情報と共に複数の課題解決案を持っていき、どこまで実施する計画なのかを確認しましょう。

戦略人事を実行できる組織へ向けて今から準備を始めよう

市場環境の変化が激しい昨今、経営戦略の実現可能性を上げる戦略人事が注目を集めています。戦略人事に必要な情報収集能力・企画力や人・金銭・時間などのリソースが不足していても、今から取り組んでいくことで、厳しいビジネス環境を生き抜く可能性を高められるでしょう。

最初から能力やリソースがすべて揃った状態で始められることはないと捉えたうえで、スモールスタートから始めることも有効です。一方で、策定した計画と実施状況は定期的に見直しながら、経営陣をはじめとしたステークホルダーとの合意形成をおこない続けることは忘れないでください。

自社が長く生き残れる企業にして成長していくためにも、本記事で紹介した戦略人事導入の課題や解消ポイントをぜひ参考にしてみてください。

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