研修転移とは?研修効果を高めるために意識すべきことを解説

研修の受講者が新たな知識やスキルを得ても、それが業務に結びつかなければ研修の効果は限定的になり、投資対効果も低くなってしまいます。そこで、企業の研修担当者や経営者に注目されているのが「研修転移」という概念です。
研修で得た知識やスキルなどを実際の業務に活かし、行動変容を通じて組織によい影響をもたらすには、どのような工夫が必要なのでしょうか 。本記事では、「研修転移」の意味や注目される背景、得られるメリット、そして研修効果を実務に結びつけ、組織の成果を向上させるためのポイントを整理し、わかりやすく解説します。
研修転移とは?

研修転移とは、研修で得た知識やスキルが実際の業務に活かされ、職場での成果や行動変容につながることを指します。研修は単に知識を得るだけではなく、受講者の行動変容によって組織によい影響をもたらすことが重要です。
この概念は、人材開発・組織開発の研究者である中原淳氏の著書をきっかけに、人材育成の分野で広く知られるようになりました。
研修の目的が「知識の習得」にとどまってしまうと、現場での実践に結びつかず、研修の効果を十分に得ることは難しくなります。だからこそ、研修内容を日常の行動や成果につなげる研修転移が重要視されているのです。
研修転移を成功させるためには、まず受講者に行動変容が起きることが前提です。たとえば、学んだコミュニケーション技法を実際のチームマネジメントに活用するといった具体的な変化が求められます。
さらに、その変化を一時的なものにせず、現場で継続的に活用していくためには、研修を担当する講師や運営担当者、受講者が所属する部署との連携が不可欠です。上司やチームメンバーの理解・支援があることで、学びを日常業務に落とし込みやすくなり、成果の定着や持続が期待できます。
研修転移が注目される背景

企業が持続的に成長するには、変化に対応できる人材の育成が欠かせません。新しい知識やスキルを取り入れ、組織の中で実践につなげていくことは、従来から重要なテーマとされてきました。それに加えて、現在は「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる先行きが不透明で変化の激しい時代に突入しています。従来のビジネスモデルやマネジメント手法が通用しなくなる場面も増え、環境変化への柔軟な対応力が、これまで以上に強く求められるようになりました。
加えて、労働人口の減少や人的資本経営への注目といった社会的背景からも、人材育成の重要性はいっそう高まっています。
こうした背景を受け、社内だけでは補えない知見を得る手段として、研修の役割が再び注目されています。ただし、研修で学んだことが実際の業務に活かされなければ意味がないため、学びを現場で成果につなげる「研修転移」の考え方が、より注目されるようになっています。
研修転移のメリット

研修転移がもたらす代表的なメリットを組織と個人の二つの視点から紹介します。
組織のメリット
組織成果の向上に繋がる
研修の学びが現場で活かされることで、業務の質が高まり、組織成果にもつながります。
たとえば、カスタマー対応の研修を受けた社員が、より効果的なコミュニケーションを実践できるようになれば、顧客満足度の向上やクレーム件数の減少といった具体的な成果が期待できるでしょう。また、管理職向けの研修で組織マネジメント力が高まれば、チーム運営の効率化や人材定着率の改善といった効果も見込めます。
自ら考え動ける人材が育つ
研修内容を自分の業務に照らして実践し、成果につなげるプロセスを繰り返すことで、受講者は自発的に考え、行動できるようになります。この「自律性」は、変化の激しい環境で特に求められる力です。自ら課題を捉えて動ける人材が増えれば、より柔軟で変化に強い組織へと強化されます。
個人のメリット
成長実感がやりがいと学習意欲に繋がる
研修で学んだことが実際の仕事で役立ち、成果として目に見える形で現れると、受講者は自らの成長を実感できます。この成功体験は、やりがいを感じる瞬間となるだけでなく、仕事へのモチベーションやさらなる学習意欲、挑戦心を育てる原動力にもなります。研修を前向きに捉える社員が増えることで、社内の学習文化も育ちやすくなります。
人材投資の効果を高められる
研修は一定のコストがかかる取り組みです。だからこそ、研修で学んだことが業務の改善や価値創出に繋がるように設計し、十分な費用対効果を得られる施策にすることが重要です。研修転移が起きやすい設計をおこなえば、限られたリソースでも効果の高い人材育成が可能になります。
研修転移を成功させるポイント

学びを業務に活かし、成果につながったとき、研修転移は成功したといえます。研修転移を促すための5つのポイントを見ていきましょう。
ゴールを明確にし、現場でどう活きるのか明文化する
研修を「受けて終わり」にしないためには、目的と期待する行動を具体的に示すことが大切です。たとえば「顧客対応の質を高める」研修なら、単なるマナー習得ではなく「顧客の要望に応じて柔軟に提案できる」といった行動まで落とし込む必要があります。
研修転移の最終的なゴールは現場での成果につなげることですが、目的が不明確だと、効果を測ることも難しくなります。行動変容と成果を結びつけて明文化しておくことで、受講者は、会話の進め方を変える、提案のパターンを増やす、報告の仕方を工夫するなどの形で実践しやすくなり、現場も効果を支援・評価しやすくなります。
学びを実行計画に落とし込み、現場で行動に移す
学んだ内容が現場でどう活きるのかを具体的にイメージできてこそ、行動変容は起こります。そのため、研修の最後には、受講者に「いつ、何を、どのように実践するか」という行動計画を立ててもらうことが有効です。たとえば「来月の営業報告会でプレゼン技術を活用する」といったように、期限を設けて目標を設定することで、実際の行動につながりやすくなります。
さらに、研修の中で受講者の自己効力感を高め、研修後に前向きに行動できるよう、意欲を高める工夫も重要です。
現場の協力体制を整える
研修後の行動変容を持続させるには、上司やチームの理解と協力が欠かせません。とくに、上司を巻き込むことは研修転移における大事なポイントですので、研修前・中・後の各フェーズでどのように関与するかを設計することが重要です。
たとえば、研修前に期待や目標を共有し、研修中には学びを後押しし、研修後には行動計画を確認しながら進捗を1on1でフォローする、といった関わり方は有効なアプローチの一つです。上司が実践のチャンスを提供し、適切なフィードバックをおこなうことで、受講者は安心して学びを行動に移し、現場で成果につなげやすくなります。
実務をイメージできる研修を設計する
実務に活かしやすい研修にするためには、座学だけではなく、業務に近い題材を扱った演習やディスカッションを取り入れることが効果的です。たとえば「自部署の業務課題を持ち込み、解決策を考える時間を設ける」といったように、現場との接点を意識した構成にすることで、研修中から行動変容のきっかけをつくりやすくなります。
以下は、研修と実務をつなぐ手法の一例です。
| 手法名 | 概要 |
|---|---|
| アクションラーニング | 実際の業務課題をテーマに、チームで解決策を検討・実行する |
| インターバルラーニング | 研修と実務の間に「実践期間」を設け、学んだことを業務で試す |
| ケースメソッド | 実際の企業事例をもとに、意思決定や課題解決をシミュレーションする |
これらを取り入れることで、学びを現場で活かしやすくする設計が可能となります。
効果測定と共有で、組織全体の学びへ広げる
研修の成否を確認するには、行動変容が起きているかを測ることが重要です。研修効果測定をおこなうことで、目的の達成度や知識・スキルの向上、組織への影響を把握できます。方法の一例として、反応・学習・行動・成果の4つのレベルで評価する「カークパトリックモデル」があります。
- レベル1:反応 … 受講者の満足度や理解度をアンケートなどで把握する段階
- レベル2:学習 … テストやレポートで理解度や知識の定着を測る段階
- レベル3:行動 … 上司・同僚の評価などを通じ、研修後の実務での行動変容を確認する段階
- レベル4:成果 … 売上や業績改善、ROI分析などで研修の組織への効果を検証する段階
また、受講者の振り返りに加え、上司や同僚からのフィードバックや成果指標も確認し、実践状況を把握しましょう。好事例を共有すれば、他部署への展開や研修内容の改善にも役立ちます。
研修転移で社員個人と組織が成長する

研修転移が起きると、受講者は学びを業務に活かし、自律的に行動できる人材へと成長します。その結果、業務の質や組織の成果が向上し、人材投資の効果も高まります。また、研修で得た成功体験を通じてやりがいや学習意欲が高まれば、個人のキャリア形成にも好影響を与え、社内の学習文化の醸成にもつながります。
研修の設計や現場との連携を工夫することで、学びを定着させ、持続的な成果に繋げていきましょう。

















