スキルマップとは?導入メリットや作成手順・注意点を解説
従業員の能力・スキルを可視化する「スキルマップ」。同マップを適切に利用することで効果的な人材育成に活かせます。加えて、昨今注目を集める「人的資本経営」の推進やより公正な人事評価にも寄与します。そのため、とくに人材育成担当者はぜひ導入を検討したいところです。
今回はそんなスキルマップの概要と導入メリット、作成手順などについて解説します。
スキルマップとは
「スキルマップ」とは、業務遂行にあたって必要な能力やスキルを項目ごとに可視化した評価マップのことを指します。一般的には縦軸にスキル・横軸に従業員名を記載し、評価を数字で示した以下のようなマップを指します。
業務スキル | 営業一課 | ||||
---|---|---|---|---|---|
大項目 | 小項目 | 小項目の定義 | Aさん | Bさん | Cさん |
営業スキル | ヒアリング力 | 情報を引き出す力 | |||
プレゼン能力 | 説明内容を聞き手に理解してもらう力 | ||||
サービス能力 | 機能や特徴、競合サービスとの違いなどに関する知識 |
ちなみに、スキルマップは「ジョブディスクリプション」と混同されがちです。ジョブディスクリプションとは職務のポジション名や担当業務の範囲と内容、求められるスキル・行動などを詳細に記載した文書のことを指します。スキルマップとは異なり、従業員が自身の業務範囲を理解しやすくするために作成されます。
スキルマップが必要な背景
従来、日本企業においては画一的な人材育成手法を取り入れていました。一方、日本企業では1990年代後半から2000年代初めにかけて年功型賃金制度の見直しが広まり、業績・成果主義を導入する企業が増えました(※1)。
また、厚生労働省の「『働き方の未来2035』 ~一人ひとりが輝くために~」では「多様性の中からこそ新しいアイデアが生まれ、小さな成功やイノベーションが湧き起こる」という記述があることから、国としても多様性のある職場づくりを志向していることがわかります(※2)。
こうした人材育成を巡る環境の変化から、一人ひとりの能力を可視化して、それに合わせたスキル向上施策を講じる必要が生じてきています。とくに、多様性が尊重される環境で育ってきた若手社員の育成には、個々人に合わせた育成が有効とされています。
また、個々人に合った育成をすることは、人材の価値を最大限に引き出すことにつながるため、昨今注目を集める「人的資本経営」の実現にも寄与することでしょう。
出典:
※1「平成23年版 労働経済の分析(労働経済白書)~世代ごとにみた働き方と雇用管理の動向~| 厚生労働省」
※2「『働き方の未来2035』 ~一人ひとりが輝くために~|厚生労働省」
スキルマップを導入する3つのメリット
効果的な人材育成を推進できる
スキルマップを正しく運用することにより、従業員一人ひとりの能力・スキルを可視化できます。つまり、人材育成担当者にとっては各従業員の強みや弱み(課題)を把握・分析できるということです。そのため、強みを伸ばす・あるいは課題を克服するための、従業員に応じた育成方針を策定し、効率的かつ効果的な人材育成に着手できます。
加えて、従業員視点でみても、ポジションごとに求められるスキルが可視化されることで、目標とするキャリアを歩むためにはどのスキルがどの程度必要なのか、キャリアの道筋をつけやすくなるというメリットも生じます。
より公平で正確な人事評価に活かせる
過去のスキルマップと最新のスキルマップの結果を比較することで、従業員の変化を定量的に把握することが可能です。加えて、スキルマップの活用により評価基準が明確化され、評価者の主観だけに依らない、客観的でより公平かつ正確な評価にも役立てられます。
また評価される側としても、スキルマップが掲示されることで、なぜこのような人事評価になったのか納得感を得やすいことでしょう。
より適切な人材配置が可能になる
人事はスキルマップを参考にすることで、どの部署にどのような能力・スキルを持った従業員がいるのかを定量的に把握できるようになります。
そのためには、あくまで本人との話し合いが大前提であり、かつ本人の意思をもっとも尊重すべきですが、人事としては得意な領域や伸ばして欲しいスキルを育める部門・職種への、人材配置を検討することもできるようになります。
たとえばスキルマップでコミュニケーション能力や商品知識が高いと判断される従業員へは、営業職への職種変更も選択肢に挙がる可能性があります。提案される側としても、スキルマップを根拠に示されることで、異動に対して前向きな気持ちを持ちやすくなることでしょう。
【全4ステップ】スキルマップの作成手順
繰り返しにはなりますが、スキルマップは以下のようなマップです。一見簡単に作成できそうではありますが、しっかりステップを踏んで作成することが大切です。
業務スキル | 営業一課 | ||||
---|---|---|---|---|---|
大項目 | 小項目 | 小項目の定義 | Aさん | Bさん | Cさん |
営業スキル | ヒアリング力 | 情報を引き出す力 | |||
プレゼン能力 | 説明内容を聞き手に理解してもらう力 | ||||
サービス能力 | 機能や特徴、競合サービスとの違いなどに関する知識 |
そこでここではスキルマップの作成手順を紹介していきます。
ステップ1.スキルマップ作成の目的を明確にする
まずはなぜスキルマップを作成するのか、目的を明確にしておきましょう。目的を明確にしておかなければ、スキルマップ作成自体が目的化され、導入後に効果的な運用ができなくなってしまう恐れがあるためです。
なお、目的としてはたとえば「人材育成」が挙げられるでしょう。そのほかにも企業によっては「公平な人事評価を実現するため」「最適な人材配置をおこなうため」なども導入目的として考えられます。
ステップ2.業務内容・スキルの洗い出し&評価するスキル項目を決める
次に、スキルマップで評価・管理の対象となるスキルを決めていきます。そのために、まずは業務内容の確認をおこなった上で、スキルを洗い出しましょう。同作業では現場の従業員や責任者などにヒアリングをおこない、抜け漏れがないように注意します。
業務内容とスキルを洗い出したあとは、どのスキルをスキルマップに記載するか、評価するスキル項目を決めていきます。その際には「該当職種ひいては自社においてそのスキルがどれほど重要か」をさまざまな観点から検討することが重要です。
「スキルマップの点数を上げても評価が上がらない」という事態を未然に防ぐため、評価するスキルを決める作業と並行して、評価するスキル項目と評価制度が連動するように調整しましょう。
なお、スキル項目はできる限り同じ粒度で掲載するようにしましょう。たとえば「プレゼンテーション能力」と「魅力を伝える話し方」では後者の方が粒度は細かくなるように、粒度がばらばらでは正確な判断に支障が出てしまいます。
ステップ3.スキルの評価基準を明確にする
評価・管理するスキル項目が決まったら、次に評価基準を明確にしましょう。スキルの評価は「1~5」または「A~E」のように5段階評価でおこなうのが一般的です。そして、評価者によって評価のズレが起きないように、どの程度の達成度合いでどの数字(もしくはアルファベット)を割り当てるか(評価するか)を明確化しておきます。
1:業務理解があいまいで、業務内容のレクチャーが必要
2:サポートがあれば業務ができる
3:1人で業務が可能
4:1人で業務が可能であり、かつチームの模範的な行動ができる
5:模範的な行動ができ、人に指導もできる
上記はあくまで一例です。自社や実際の業務内容に応じて、適当な評価基準を作成しましょう。
ステップ4.スキルマップを作成する
掲載するスキル項目および評価基準を決定したら、それらをスキルマップとして作成します。なお、スキルマップ作成にあたっては、厚生労働省が公開している以下職種・業種別のテンプレートも活用可能です。
キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード|厚生労働省
同テンプレートの情報を参考にスキルマップへ不足情報を補足すれば、より質の高いスキルマップが作成できるかもしれません。たとえば、評価するスキル項目の選定に同テンプレートの「職業能力評価シート」を参考にすることもできるでしょう。
スキルマップ作成後の注意点
スキルマップ作成後はいきなり全社展開するのではなく、まずは一部部門へ試験的に導入しましょう。作成したスキルマップがどの程度機能するのか、把握する必要があるためです。試験導入中は、掲載しているスキル項目や評価基準などについてのフィードバックをもらい、ブラッシュアップをした上で本格導入を図りましょう。
なお、本格導入後も、社会環境や事業環境の変化により求められるスキルが変わる可能性は十分あり得えるため、スキル項目や評価基準の定期的な見直しは継続的におこなうことが大切です。
スキルマップを活用して、人材育成を加速させよう
育成の個別最適化が求められる昨今、効果的な人材育成を図るためにスキルマップの活用は非常に効果的です。またスキルマップは人材育成以外にも公平な人事評価や適切な人材配置にも寄与します。スキルマップの作成にあたってはスキルの洗い出しや評価基準の明確化などの作業が必要なため、最初は大変かもしれません。
しかし、一度作成すれば、あとは現場環境や事業環境の変化に応じて適宜調整さえすれば、十分スキルマップは機能するでしょう。人材育成に悩む担当者はスキルマップの導入を検討してみてはいかがでしょうか。