社会人基礎力を身につける3つのメリット。求められる背景も解説
「社会人基礎力」というキーワードを耳にしたことがある方でも、社会で活躍するために必要な力、といった抽象的な理解に留まっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。社会人基礎力は具体的にどのような力のことを指し、なぜ必要とされているのでしょうか? 本記事では、社会人基礎力が提唱された背景から、社会人基礎力の必要性を読み解き、社会人基礎力を身につけることによるメリットについて解説します。
社会人基礎力とは
社会人基礎力とは、2006年に経済産業省が提唱した概念です。「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力が定義されました。3つの能力はさらに12の能力要素に細分化され、いずれも業界や職種を問わず働く人すべてに共通して求められる力といえます。
3つの能力と12の能力要素
前に踏み出す力:「主体性」「働きかけ力」「実行力」
考え抜く力:「課題発見力」「計画力」「創造力」
チームで働く力:「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「情況把握力」「規律性」「ストレスコントロール力」
さらに2018年には、「人生100年時代の社会人基礎力」が新たに定義されました。その背景には、世界で長寿化が進み、人が100年生きる「人生100年時代」の到来、AIなどの技術革新による「第四次産業革命」があります。「第四次産業革命」とは、第三次産業革命によるオートメーション化に続く技術革新を指し、これまでは人間にしかできないとされていた複雑な判断も機械に任せられるようになるといわれています。
長期化する人生を通じて自分にしかできないことを考える必要性が高まる社会で、社会人基礎力を発揮するために必要な視点が「人生100年時代の社会人基礎力」で新たに追加されたのです。具体的には、12の能力要素を発揮するために、自己を認識してリフレクション(振り返り)をしながら、以下3つの視点のバランスを考えることが必要とされました。
目的:自分が「どう活躍するか」を定める
学び:そのために「何を学ぶか」を考える
統合:実際に「どのように学ぶか」といった学ぶ方法の組み合わせを考える
学生時代で「学び」を終えるのではなく、社会人になってからも学び続けることの重要性が説かれています。
社会人基礎力が求められている背景
最初に社会人基礎力が提唱された2006年時点での背景には、教育現場と社会の連携が不十分だという課題がありました。教育現場では学力を伸ばすことが重視されていた一方で、社会では仕事を進める上で必要な力が学力とは別の視点で求められており、認識にギャップが生じていたのです。そこで学力では測れない、社会が求める人物像を表す共通言語として定義されたのが社会人基礎力です。
その後、2018年に「人生100年時代の社会人基礎力」として再定義され、社会に出た後も学び続ける姿勢が求められるようになった背景には、次のような時代の変化があります。
人生100年時代
人生100年時代とは、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授とアンドリュー・スコット教授が『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)の中で提唱した言葉です。この書籍の中で、今後は人が100年生きることを前提とした人生設計が必要になると論じられました。
人生100年時代には、これまでの時代よりも定年年齢が延びたり、細々と働き続けたりと、働く期間が長期化することが予想されます。働く期間が長期化するということは、働いている間に直面する世の中の変化も、多くなるということです。
社会人基礎力にある「計画力」や「創造力」といった考え抜く力は、この先の人生で起こり得る変化を想定し、変化に対応するために不可欠な力と言えるでしょう。また、その力を発揮し、自らキャリアを切り拓いていくためには「人生100年時代の社会人基礎力」で定義されたように「どう活躍するか・何を学ぶか・どのように学ぶか」のバランスを図ることが必要だといえます。
VUCA時代
VUCA時代とは、「V:Volatility(変動性)」「U:Uncertainty(不確実性)」「C:Complexity(複雑性)」」「A:Ambiguity(曖昧性)」といった4つの単語の頭文字をとり、社会やビジネスにおいて将来の予測が困難な状況になっている現代の様相を表します。仕事の進め方やビジネスモデルも、これまで通りのやり方では通用しない時代になるということです。
前例に囚われず、変化に柔軟に対応できる力がますます求められるようになっていく中で、社会人基礎力にある「実行力」「課題発見力」「柔軟性」「ストレスコントロール力」を始めとする幅広い能力を身につけていく必要があるのです。従業員がこれらの能力を身につけることは、企業にとっても価格競争や販路開拓などのビジネス環境の変化に対応できるメリットがあります。
終身雇用制度の崩壊
過日、経団連でも「今後、企業が終身雇用を守っていくのは難しい」と述べられた通り、日本社会の雇用システムにも変化が予想されます。労働者の立場でみると、正社員として守られている立場が危うくなる可能性も示唆される言葉です。新卒で入社した企業で働き続ければ、年功序列で収入が自動的に上がっていくという旧来の考え方を改める必要性が生じてきました。
今後は、社会人基礎力にある「主体性」を活かして前に踏み出すことや、チームの中で「柔軟性」「状況把握力」を活かすことで、自身の能力を発揮できる場を自ら開拓していく姿勢が求められるでしょう。
社会人基礎力を身につける3つのメリット
人生100年時代、VUCA時代、終身雇用制度の崩壊といった時代の変化から、社会人基礎力を身につけ伸ばしていくことの必要性をご理解いただけたのではないでしょうか。ここからは具体的に、組織と個人双方の視点で、社会人基礎力を身につけることで得られる3つのメリットを解説します。
仕事をスムーズに進められる
先述した通り、社会人基礎力は業界や職種を問わず働く人すべてに共通して求められる力です。仕事において他者との関わりは欠かすことができず、学力や知識があるだけでは仕事をスムーズに進めることは難しいといえます。
とくに、チームで働く力の「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「情況把握力」「規律性」「ストレスコントロール力」は社内の人との関係性だけにとどまらず、顧客や取引先との関係も含めた仕事全般で活かせます。従業員が社会人基礎力を発揮してスムーズに仕事を進められるようになれば、組織にとっても仕事をより効率的におこなえるというメリットがあります。
主体的にキャリアを切り拓ける
経済産業省によって提唱されている通り、今後は「どう活躍するか」を考えることが、能力を発揮する上で必要な視点です。「どう活躍するか」を主体的に考えることで、自らのキャリアを切り拓きやすくなります。前に踏み出す力にある3つの能力要素「主体性」「働きかけ力」「実行力」は、まさに自分ごととしてキャリアを捉え行動していく上で活きる能力でしょう。
また、考え抜く力にある「課題発見力」や「計画力」も各人が人生の目標を意識するために不可欠な能力要素です。主体的にキャリアを切り拓ける従業員は、内側から湧いてくる動機(内発的動機づけ)を起点として仕事に取り組むことができます。
内発的動機づけがあると、与えられた役割をこなすだけの場合に比べて目標に向かう行動が持続しやすいのが特徴です。そのような従業員が多い組織では、目標達成サイクルがうまく回りやすくなる効果も期待できます。
想定外の出来事にも柔軟に対応できる
社会人基礎力は、変化が激しいVUCA時代にこそ活きる力といえます。たとえば、思いがけない出来事に遭遇した際には「情況把握力」を活かして自分の立ち位置を認識し、「課題発見力」を活かして課題を明らかにできます。課題が明らかになると「計画力」を活かして解決の道筋を定め、「働きかけ力」や「実行力」を活かして解決に向かうことができるでしょう。
社会人基礎力を身につけることで、想定外の出来事に怯むことなく、柔軟な対応ができるようになるのです。組織の視点でみても、VUCA時代のなかで、変化を当然の事象と捉えて柔軟に対応できる従業員がいれば、新たなビジネスにも対応しやすい組織になるでしょう。
まとめ
従業員一人ひとりが社会人基礎力を伸ばすことで、個人の業務だけでなく企業全体の業務が円滑になります。企業としての生産性向上にも繋がるため、従業員にさまざまな業務を経験させたり、学びをアウトプットさせたりするなど、社会人基礎力を伸ばせる取り組みを実施してみてください。各従業員が伸ばすべき能力を掴むためにも、まずは従業員自身が現状の社会人基礎力を把握することが大切です。