若手社員をどう育てる?活躍する従業員を育成する3つのポイント
従来の人材育成では、その企業の業務に必要なスキルの習得や社内でのキャリア形成が重点とされてきました。しかし昨今の人材育成では、多様化する個人のニーズを考慮し、経営に貢献する人材を育てる傾向にあります。
企業を取り巻く環境が大きく変化している今、「高度な専門性と自組織に対して高いエンゲージメントを有し、活躍し続ける若手社員」を育成することが重要です。
本記事では、活躍する若手社員を育成するためのポイントについて解説します。
若手社員の育成が重要な理由
近年、企業において若手社員の育成が重要視されている理由には次の2つがあります。
早期戦力化を図るため
これまで日本企業での若手社員の育成は、終身雇用を前提として長期的な視点でおこなわれてきました。入社直後から導入研修がおこなわれ、その後は職場の上司や先輩社員によるOJTを実施して育成を図り、さらに人事異動によって幅広い業務を学んでいくことが通例でした。
しかし近年、労働人口の減少や事業スピードの高速化によって、若手社員を長期間かけて育成するゆとりを持てないケースが増加しています。
最近では、大学や大学院などで専門的な知識とスキルを習得した学生を職種別に採用し、業務特性やスキルの成熟度により、個別最適化した育成に取り組むなど、若手社員の早期戦力化を図る企業も増えています。
人材の定着を図るため
厚生労働省による「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率」の調査(新規学卒就職者の離職状況を公表します(2021年))によると、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は高卒就職者で36.9%、大卒就職者で31.2%にのぼります。
採用した人材の3割が就職後3年以内で離職するとすれば、その人材の採用・育成にかかったコストを収益化できないまま離職にいたってしまう可能性もあります。
さらには、将来にわたって労働人口の減少が見込まれている今、定着率の向上は多くの企業にとって喫緊の課題です。若手社員の早期戦略化を図る人材育成への取り組みにおいて、自身の知識やスキルが企業活動に寄与していると感じること、その過程を通じて評価されることで、若手社員のモチベーションの維持・向上につながります。
出典:「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します | 厚生労働省」
若手社員育成における課題
若手社員の育成において、日本企業には大きな課題が残されています。厚生労働省の令和3年度「能力開発基本調査」(2022年)によると、能力開発や人材育成に関して「問題がある」とする事業所は76.4%にのぼります。
そのなかでも「指導する人材が不足している」「人材育成を行う時間がない」が問題の上位を占めており、OJTなどの育成施策が機能不全に陥っていることが懸念されます。その背景には、次の2つが考えられます。
出典:「能力開発基本調査 | 厚生労働省」
マネージャーの多忙化
OJTが機能不全に陥っている理由の一つに、マネージャーの多忙化があります。
その原因として、これまで若手社員の育成を担ってきたマネージャーが、組織のフラット化によりプレイングマネージャーとして現場の業務にあたりながらマネジメントをおこなうケースなどがあげられます。そのため、若手社員の育成に充てられる時間が減少し、OJTが機能しなくなってしまっている可能性があります。
育成内容の高度化・複雑化
OJTが機能不全に陥る理由として、育成内容の高度化と複雑化も挙げられます。これまで日本企業の人材育成では、長期的な視点で自社に適する能力を開発することを目的としてきました。
しかし、2000年以降の技術革新や産業構造の変化によって、企業独自のノウハウだけでは市場の変化に対応できず、これまで通りの育成では企業の競争優位性を保てない状況となっています。環境とニーズの変化に対応していくためには、先輩社員や上司も経験したことのない課題への挑戦が必要となります。
とはいえ、先輩社員や上司も経験したことない領域への挑戦では、OJTによる育成は機能しません。そのため企業は、これまで通りの手法では効果的な育成をおこなえない可能性があります。
若手社員育成の3つのポイント
従来の育成手法では若手社員の早期戦力化が難しくなっているとすれば、企業はどのようにして若手社員の育成に取り組めばよいのでしょうか。ここからは、若手社員のパーソナリティに着目し、育成の際に考えたい3つのポイントをご紹介します。
若手社員のパーソナリティを理解する
既存の人材育成に関する理論や学術的な知見をふまえつつも、若手社員の独自性を理解しようとする姿勢が重要です。また、若手社員ごとにもそれぞれパーソナリティが異なるでしょう。そのため、各個人のパーソナリティを理解したうえで、育成内容や方針を定めましょう。
理論的枠組みで評価する
上司の主観や持論で若手社員をカテゴライズしないことも大切です。上司による独自のカテゴライズにより、上司と若手社員の育成をおこなう人事担当者などとの共通の認識が得られず、人事部が提供する研修プログラムとのミスマッチが発生し、若手社員が能力を発揮しきれないこともあります。
研修プログラムとのミスマッチや、評価のばらつきを防ぐためにも、組織の共通言語を用いて若手社員を評価する体制づくりを進める必要があります。
能力の改善に取り組む
パーソナリティは容易に変化するものではありません。能力とパーソナリティは別であることを理解して、能力の改善に注力するようにしましょう。
能力開発においては、若手社員のそれぞれのパーソナリティを踏まえつつ、必要なスキルを洗い出し、重点的に指導・研修を実施することで、能力の発達を図れます。
たとえば、ある若手社員が人前での発表に抵抗があるといった場合は、ロジカルシンキングを身につけて説得力のある説明ができるようにする、研修によってプレゼンテーション能力の向上を図るなどの方法が考えられます。
若手社員育成の方法
OJT以外の手法で若手社員を育成する方法はいくつかあります。今回は、そのうちの3つの方法をご紹介します。自社に適する育成方法を選択し、若手社員の早期戦力化を実現しましょう。
思考発話法の実践
先輩社員や上司の思考を可視化して共有することは、若手社員の育成に大いに役立ちます。しかし、先輩社員や上司が持つ暗黙知は可視化されにくいため、業務をおこなう際にどのような考え方をしているのかというポイントを、若手社員に共有できないこともあります。
そこで用いられるのが「思考発話法」です。この手法では、先輩社員や上司が業務をおこなう際に「なにを考え行動しているのか」を都度口に出し、若手社員に伝えていきます。
今なにをしようとしているのか、なぜその作業が必要なのかなどを思考発話してもらうことにより、業務における考え方や取り組み方を学べます。また、OJT中に思考発話法を用いることで、先輩社員や上司がどのように考え行動しているのかを示すことができるのも利点です。
ジョブ・クラフティングの促進
「ジョブ・クラフティング」とは従業員本人が主体的に業務の手順を変更する、ともに業務にあたる人を増やしたり、関わり方を変えたりする、仕事の捉え方を変えるなどといった行動を指す言葉です。
ジョブ・クラフティングが機能しはじめると、能動的かつ主体的に動く社員が育成でき、仕事に対する責任感の醸成も期待できます。
また、能動的で責任感のある社員は、仕事に対してやりがいを感じやすくなることから、ワーク・エンゲージメントも向上しやすくなるでしょう。
若手社員のジョブ・クラフティングを促進するためには、「プロセスフィードバック(業務のプロセスに対するフィードバック)」が重要です。業務のプロセスに対するフィードバックは、業務の結果に対するフィードバックよりも深い学習を促進させるといわれています。
プロセスフィードバックには、「部下に指摘するときには指摘の理由も説明する」「本人の仕事に対して、どのように行動すればよいのかをアドバイスする」「本人の行動についての意図を尋ねる」という3つのポイントがあります。
若手社員の業務状況を見ながら都度フィードバックをおこなうことが大切です。
心理的居場所感の醸成
若手社員の定着には、育成だけでなく心理的居場所感の醸成も重要です。心理的居場所感とは、心のよりどころとなる関係性や安心感のある環境下で生じる感情のことを指します。
つまり、自分自身が役に立っていると感じること、受け入れられていると感じている状態と言い換えられ、若手社員の離職意図を低くする効果が期待できます。
心理的居場所感を高めるためには、取り組んでいる業務が誰の役に立っているのかを提示したり、研修や会議で同僚とのコミュニケーションの活性化を図るプログラムを導入したりする方法があります。
自社における若手社員の育成を見直してみよう
従来通りのOJTでは若手社員の育成が困難であると感じている企業は、自社の育成手法と内容にある課題を洗い出し、育成方法の見直してみるのもよいでしょう。
若手社員の育成は、定着率向上の効果も期待できます。育成の際には、若手社員それぞれのパーソナリティを把握して、各個人の能力を高められるような育成計画を策定しましょう。