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【連載】新入社員を「即」戦力化することってできるの?(1/3回目)

2022年06月16日更新

従来、日本企業の多くは新卒一括採用や終身雇用・年功序列制度など、長期安定雇用を前提に、ジョブローテーションをはじめとする企業内部での長期的な人材育成を行ってきました。しかし、労働力人口の減少やキャリアの多様性など、ビジネス環境はいま急速な変化を迎えています。

「大企業が中小企業に勝つ」時代ではなく、「変化への対応が早い企業が遅い企業に勝つ」時代になったと言われるのです。それに伴い、企業で働く社員に求められる行動や能力もまた変わってきました。それは新入社員とて例外ではなく、多くの企業で新入社員の即戦力化が叫ばれています。

本コラムでは、3回にわたって新入社員を即戦力化する為に、どのようなポイントがあるのか、何をしたらよいのか、各種データや10年以上HR業界に身を置いてきた中で私自身が経験した事例などを織り交ぜつつ、紹介して参ります。初回となる今回は、新入社員本人にフォーカスをし、彼らを取り巻く環境や傾向などを見ていきましょう。

目次 【表示】

新入社員を取り巻く環境

冒頭でも触れたように、近年のビジネス環境は急速に変化しており、新入社員に求められる行動や能力も高度化されるようになりました。背景に、テクノロジーの進化やマーケットの拡大などもあるとされます。

一例ではありますが、人事担当が行う仕事であっても、システムやITツールを用い、人や組織を定量的に管理・測定するといったことが当たり前となってきています。勘や経験を根拠とした人事施策ではなく、データ・テクノロジーを用いた合理的かつ客観的な人事施策がスピーディに展開される時代になりました。

当然、人事へ配属される新入社員にもHRの基礎知識だけではなく、システムやITに関する知識が求められています。また、データを利活用する能力・素養、スピードに遅れないような主体性・行動力、アンテナを高く張ることなども必要と言えるでしょう。

環境変化はこれだけではありません。記憶に新しいところで言えば、新型コロナウイルスの流行もまた大きくビジネス環境を変えました。WEBツールの導入や職場のDX化に留まらず、事業そのものを変革する企業も現れています。新型コロナウイルスの緊急対応を経て、ポストコロナ時代における恒久的な人材マネジメントを各社が模索している最中だと考えられます。【図1】

最近では、入社してから先輩や上司と直接会ったことがないという新入社員は当たり前のように存在します。一昔前の感覚からすると「信じられない」という声も多いことでしょう。そのくらい近年の環境変化は大きいということです。では、こうした環境下にて、当の新入社員自体はどのようなことを感じているのでしょうか。

新入社員意識調査から読み解く世代の傾向

マイナビ(教育研修事業)では、新型コロナウイルス発生直後の2020年度を除き、各年度で新入社員の意識調査を行っています。ここでは、2021年度の調査結果から読み解ける新入社員の傾向をお伝えします。

TOPIC① 社会人生活に対する期待の度合いは大きく変わらない?

新入社員意識調査 「社会人に対する”期待の度合い”を教えてください。」


【図2】社会人生活への期待度/2021年度新入社員意識調査
※2020年はコロナ直後のため調査未実施

2021年度の新入社員意識調査の結果によれば、社会人生活に対して期待している割合は「どちらかといえば期待」を含めて66.6%となっており、新型コロナウイルス流行前(2019年以前)と比較しても大きな違いは見られませんでした。年度ごとに若干の変動はあるものの、例年6割前後の新入社員が社会人生活に期待をしており、3割前後が不安を抱えているというような状況が続いています。

マイナビが毎年行う内定者向けの調査において、内定承諾者のうちの過半数が「不安」と回答していることと照らし合わせると、内定者期間~入社までにその不安は減少したと言えるかもしれません。厳密に言えば調査対象者は異なりますので一概には言えませんが、企業側のフォロー施策や新入社員自身の覚悟などは一定程度奏功しているとも考えられます。 【図2】

TOPIC② やりたい仕事をするよりも、人間関係の構築をしたい?

新入社員意識調査 「社会人生活でどのようなことに期待を持っていますか。」


【図3】社会人生活の中でどのような事に期待を持っているか(複数回答 最大3項目)/2021年度新入社員意識調査 
※2020年はコロナ直後のため調査未実施

「社会人生活の中でどのようなことに期待を持っているか」という設問に対しては、例年「自身の成長」という項目がトップになります。2021年度の調査でも同項目はトップではありましたが、例年に比べると低い数値が出る結果となりました。また、「自分のやりたい仕事ができる」という項目はここ数年でもっとも低い13.2%という数値となっています。

その分、例年よりも「新しく人間関係を構築できる」という項目の数値が高くなっており、成長や仕事よりも人間関係に期待したい世代であると推察できそうです。裏を返すと「人間関係構築への不安」を感じるとも解釈することができ、それは下図「社会人生活の中でどのようなことに不安を感じているか」という設問内の「上司・先輩・同僚との人間関係」の数値が高いという点においても見て取れます。

コロナ禍で学生生活を含め、人間関係が希薄になってしまった反動を受けた世代なのかもしれません。 【図3】【図4】

新入社員意識調査 「社会人生活でどのようなことに不安を感じていますか。」


【図4】社会人生活の中でどのような事に不安を感じているか(複数回答 最大3項目)/2021年度新入社員意識調査
※2020年はコロナ直後のため調査未実施

TOPIC③ 収入よりもやはり「人」?

新入社員意識調査 「社会人として仕事をしていくうえで重要だと思うことは何ですか。」

【図5】社会人として仕事をしていく上で重要だと思うこと(複数回答 最大3項目)/2021年度新入社員意識調査
※2020年はコロナ直後のため調査未実施

「社会人として仕事をしていく上で重要だと思うこと」という設問については、「収入」項目の数値が2021年度は大きく下がりました。前掲したTOPIC②「社会人生活の中でどのようなことに期待を持っていますか」という設問内の項目「収入が得られる」とも共通しますが、収入に対するこだわりが減少している結果となります。

一方、「人への影響」という項目が27.4%と例年より高めに出ています。また下図「先輩にはどのように接してほしいか」という設問においては「どちらかといえば優しく接してほしい」を加えると実に87.8%の新入社員が優しさを求めており、人への関心・欲求が高まっているのではないかと考えられます。 【図5】

新入社員意識調査 「先輩にはどのように接してほしいですか。」


【図6】先輩にはどのように接してほしいか/2021年度新入社員意識調査
※2020年はコロナ直後のため調査未実施

あくまで推察にはなりますが、以上の結果を踏まえると、新入社員はコロナ禍において「収入は期待できない部分がある」点を認識しており、「仕事や成長」よりは「人」軸であることが彼らのペルソナ像として浮かんでくるのではないでしょうか。今まで以上に新入社員に対する先輩社員や管理職の関わり方にも工夫が求められるのかもしれません。

即戦力化に向けてはこうした新入社員の現状や傾向ならびに自社のビジネス環境をしっかり把握した上で、施策を立案していくことが望ましいでしょう。一般的に、効率的かつ効果的な育成は、育成対象を理解することから始まると言われます。 【図6】

新入社員の成長の為に

では、新入社員の即戦力化に向けてどこから着手すればよいのでしょう。前提として育成対象を理解するということはもちろんですが、人事として行うべきは、新入社員の一人前基準・ゴールを明確にしておくことだと言われます。

陥りがちなエラーとして、4月頭の導入研修のゴールのみを検討するということがしばしば挙げられますが、4月頭の研修は、あくまで一人前のゴールから逆算されたマイルストーンのひとつである必要があります。

また、一人前基準自体も前述したようなビジネス環境によってさらに変化している可能性もあります。すでに基準が決まっている場合であっても、企業として見直し・点検していく必要があるでしょう。現に、多くの企業で新入社員の一人前基準に限らず、各層における人材要件を見直すケースが増えてきています。

そのうえで、新入社員本人が成長できるような仕組みを作り、彼らが自走・自己研鑽できるような状態が理想です。新入社員がさまざまな経験を自発的に積み、効率的かつ効果的な成長ができるような状態を早めに構築していきましょう。

とは言え新入社員がいくら個人で頑張っても限界は存在します。そこで次回コラムでは、新入社員の即戦力化に向けて、周囲(管理職や先輩社員)にどのようなことが求められるかについて、お伝えさせていただきます。

※この記事はマイナビ キャリアリサーチLabからの転載です。
 キャリアリサーチLabの記事はこちら

著者プロフィール田口 弘毅(たぐち こうき)
2010年に株式会社マイナビへ入社。以後、一貫して採用・人材開発・組織開発のコンサルティング(各種制度設計・企画・運用支援)に従事する。 近年では、HR Trend Labの主席研究員や日本人材マネジメント協会の執行役員なども務め、若年層のリーダーシップ開発をテーマにした研究活動なども行う。 仕事においては理論と実践のバランスを、人生においては仕事と家庭(主に息子2人の育児)のバランスをとりわけ大切にしています。
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