企業にとって健康経営が重要な理由はなにか?取り組むべきことやポイントも解説
企業の業績アップを実現するためには仕事の生産性を高めることが重要ですが、そのためには社員一人ひとりが健康であることが大前提といえます。従来は社員の健康管理は個人が取り組むべきものという考えが一般的でしたが、近年、企業や組織が経営的な視点で健康管理を実践する「健康経営」が注目されています。
今回の記事では、なぜ企業にとって健康経営が重要なのか、企業として取り組むべきことやポイントについて詳しく解説します。
健康経営とは
経済産業省では、健康経営のことを「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。
また健康経営は、日本の成長戦略として2013年に閣議決定された「日本再興戦略」、および2017年に閣議決定された「未来投資戦略」で位置づけられている「国民の健康寿命の延伸」を実現するための具体的な取り組みのひとつにもなっています。
もともとは1992年に米国で提唱された経営手法であり、日本においては2009年頃から大企業を中心に徐々に取り入れられるようになりました。健康経営の主な取り組みとしては、ストレスチェックの実施や残業時間の削減、有給取得率の向上などが挙げられます。
健康経営が推進されている理由・背景
健康経営が推進されるようになった背景には、少子高齢化にともなう労働人口の減少と社会保障制度が影響しています。
日本は2060年を目処に、65歳以上の高齢者が全人口に占める割合が38.1%に及ぶと推計されており、今後さらに超高齢化社会が加速していくと予想されます。現在の社会保障制度は、高齢化社会以前の1970年代から1980年代頃のモデルを前提として作られたものです。当時は20歳から60歳までの現役世代が人口の大きな割合を占め、経済成長は右肩上がりで終身雇用が続いていくという考えが根底にありました。
しかし、急速に高齢化が進む現代においては、現役世代と高齢者の割合が当時とは異なります。くわえて経済成長は鈍化し、働き方も多様化しています。政府は2040年を見据えて社会保障改革を進めていますが、今のままでは人々の生活を守るセーフティーネットである社会保障制度は、機能しなくなる可能性があります。
また少子高齢化によって、今後も労働人口が減少し続けることが予想されるため、定年を迎えた後でも活躍してもらえる仕組みを構築する必要があるでしょう。できるだけ長く社会で活躍してもらうためには、健康寿命を延ばすことが重要といえます。
日本の多くの企業が健康経営に取り組むことによって、労働力確保につながるほか、企業が負担する社会保障費を抑えることにもつながります。
企業が健康経営に取り組むメリット
企業が健康経営に取り組むことによって、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。4つのポイントをピックアップして紹介します。
人材の定着
健康経営の取り組みとして長時間労働の削減や有給休暇の取得率改善が達成されると、社員にとって働きやすい環境が実現され、休職率や離職率の低下が期待できます。これにより、人材の定着率が向上するとともに、働きやすい職場を求めて求職者の方も集まり、新たな人材も獲得しやすくなるでしょう。
組織全体が活性化し業績アップにつながる
社員の健康管理を社員本人だけに任せるのではなく、企業や組織として健康投資をおこなうことにより、社員の活力向上やパフォーマンスの向上をもたらし、組織全体の活性化が期待できます。その結果、企業や組織全体の生産性が向上し、業績もアップしていくと考えられます。
社会的評価と株価の向上
経済産業省では健康経営を推進するために、健康経営に取り組んでいる企業に対し2014年度から「健康経営銘柄」を選定しています。健康経営銘柄は投資先の選定材料のひとつでもあり、企業にとっては株式市場において評価されやすくなるメリットがあります。
また、2016年度には「健康経営優良法人認定制度」が創設され、これに選ばれた企業は「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として顧客や取引先、株主などから社会的な評価を受けられます。
医療費の減少
健康経営に取り組む企業が増えれば増えるほど、企業で働く社員のQOL(Quality of Life:生活の質)はさらに向上し、長時間労働などによって体調を崩す社員が減ると期待されます。これにより、企業が負担する医療費も減少していくと考えられます。
健康経営の実現に向けて企業が取り組むべき5つのステップ
企業が健康経営を導入・実現するためには、主に次の5つのステップに分けて段階的に取り組んでいく必要があります。
1.健康経営に関する理念・基本方針の策定
健康経営の本質は、企業や組織が、職場の健康課題に合った目的を設定し、課題解決のための健康経営施策を展開することです。そのため、経営理念や事業戦略の一環として健康経営に取り組むことを明文化し、社内および社外に対して示すことが求められます。
2.組織・体制づくり
企業や組織として健康経営に取り組む以上は、そのための体制も整えておく必要があります。具体的には、人事や総務などの部署で健康経営を推進する方法や、専門の部署を新設する方法があるでしょう。
また、経営理念や戦略として位置づける以上、経営幹部が集まる場で健康経営に関する議論をおこない、企業や組織全体として取り組む環境を構築することも重要です。健康経営を実現するためには、社内のルールや業務の進め方などを変えなければならない場合もあり、経営幹部が集まる場で健康経営を議題に取り上げ、意思決定をおこなう必要があります。
3.社内の現状分析と目標の設定
健康経営に取り組むうえで、具体的にどのような施策をおこなうべきかを検討します。そのためには、社員の健康状態を把握し、全体としてどのような傾向があるのかを調べなくてはなりません。
たとえば、慢性的に長時間労働が続いている職場においては、肉体的な疲労はもちろん、強い精神的ストレスを抱えている傾向が見られることもあります。社員の健康診断のデータなどをもとに集計することにより、特定の部署や職種ごとの体調の変化について相関関係を確認することもできるでしょう。なお、社員数が50人以上の企業ではストレスチェックの実施が義務付けられており、そのデータからも社員の健康状態を把握することが可能です。
現状分析によって社員の健康管理に関する課題が見えてきたら、それを改善するための目標を立てます。たとえば、長時間労働が慢性化し体調不良を訴える社員が多い場合には、「残業時間を◯◯時間以下に抑える」または「有給休暇の取得率を◯%以上にする」といった具体的な目標を立てることが重要です。
4.具体的施策の実施
健康管理に関する課題について設定した目標をクリアするために、具体的にどのような取り組みをおこなうかを検討し実行しましょう。
たとえば、「残業時間を◯◯時間以下に抑える」または「有給休暇の取得率を◯%以上にする」などの目標をクリアするためには、健康経営を担当する部署や担当者だけでは実現が難しいケースも少なくありません。そこで、当該部署のリーダーや経営幹部も交えながら、社員の業務量をコントロールできるよう他の部署の協力を得たり、新たに人材を採用したりするなどの対策を検討します。
また業務効率化を図るために、一定時間ごとに休憩を設けたり、休憩用のスペースを拡充したりすることも有効な施策といえるでしょう。社員個人の生活習慣が原因で健康に影響が出ている場合には、産業医や管理栄養士による生活指導などをおこなったり、禁煙に関する情報を発信したりすることもひとつの方法です。
5.施策に対する評価
施策を一定期間実施した後は、それによってどの程度の効果が表れたのかを確認し評価をおこないます。現状分析から目標の設定、施策実施までのプロセスを経るなかで、そもそも目標設定がズレていた、または施策が誤っていた、ということも発生し得るでしょう。
思うような結果が出なかった場合は、改善すべきポイントを見定め、良い結果に結びつくよう検討することが重要です。
健康経営に不可欠なのは全社一丸となって取り組むこと
健康経営の実現に向けてはさまざまな取り組みが考えられますが、一部の社員だけが熱心に取り組んでも目標は達成できません。まずトップの理解を得て、あくまでも全社一丸となって取り組む必要があります。
さまざまな経営課題のなかでも、健康経営は組織として優先度が高い課題であることをトップも含めて全社員が認識できれば、高い効果が期待できると考えられます。