人事異動とは?目的や実施するポイント、従業員への伝え方を紹介

多くの企業でおこなわれている人事異動には、従業員の育成や適材適所の実現のほか、不正の防止、従業員のモチベーション維持といった企業経営を活性化させるためのさまざまな目的があります。
また、昨今の人事課題の解決に向けて人事異動を有効活用することで、限られた人材のなかで成果の最大化を図り、適材適所に人事配置をおこなうなどの効率のよい企業経営へと繋げることも可能です。
今回は、人事異動の概要や人事異動をおこなう目的、適切な人事異動をおこなうためのポイントについて解説します。あわせて、人事異動を従業員に伝えるときのポイントや、人事異動を拒否できる例外ケースについても紹介します。
人事異動とは

「人事異動」とは、企業や組織の命令により、従業員の部署や配属先、勤務形態、地位などが変更されることを指します。転勤や部署変更など、あらゆる人事上の変更が含まれます。
従業員は入社後、一般的には特定の部署に配属されます。その部署での本人の適性や能力が仕事内容とマッチすれば、労働意欲や生産性が向上し、企業経営においてもプラスの効果が期待できます。しかし、はじめからすべての従業員が個々の適性に合った部署へ配属されるとは限りません。また退職や休職などの理由から、特定の部署において従業員が不足することもあります。
そこで従業員の業務変更や適正な配置について、定期的に検討し、必要に応じて異動を実施することで、適材適所の人材配置に近づくことができます。
人事異動の種類
人事異動は大きく6種類に分けられます。
- 転勤:同じ企業内で異なる勤務地に配置されること。
- 出向:同じ企業に在籍したまま、親会社や子会社などの関連会社へ勤務すること。
- 転籍:在籍している企業との雇用契約を解除し、転籍先の企業と雇用契約を締結して勤務すること。
- 部署異動:同じ企業内で、所属する部署が変わること。
- 昇進:社内での職位(役職)が上がること。
- 降格:社内での職位(役職)が下がること。
このように、人事異動と一言でいってもさまざまな種類があり、目的に合った方法が用いられます。
人事異動の時期
人事異動の時期に決まりはなく、企業によって実施時期が異なります。日本では新卒一括採用を導入している企業も多いため、新年度が始まる4月や、半期決算期に合わせて人事異動をおこなう企業が多い傾向にあります。
人事異動と「ジョブローテーション」の違い
ジョブローテーションは、従業員のスキル向上や視野の拡大を目的として、一定期間ごとにさまざまな業務や部署を経験してもらう人材育成の仕組みです。本人の能力開発や将来的な幹部候補の育成を意図して、計画的に実施されます。
ジョブローテーションも人事異動も、適材適所を実現し、組織と人材を成長させるという共通の目的を持っています。しかし、人事異動は企業側の人員調整の一環としておこなわれることがあるのに対して、ジョブローテーションは人材のキャリア形成を主な目的とする施策という点が大きな違いでしょう。
なお、ジョブローテーションを実施する際には、その一環として人事異動という形式が取られることもあります。
人事異動の目的

企業の人事異動には、どのような目的があるのでしょうか。
従業員の成長促進・人材育成
日本には「職能型」と呼ばれる雇用慣行があります。職能型の雇用慣行は、従業員を採用してから仕事を割り振ることが特徴で、多くの場合は職務や勤務地、労働時間が限定されない雇用契約となっています。
職能型の雇用慣行では、定年までの雇用や勤続年数に応じた昇給といった労働環境のなかで仕事に取り組め、従業員が企業に対して愛着を持ちやすいという特徴があります。従業員を社内の異動(ジョブローテーション)によって育成する方法も、この職能型の雇用慣行が大きく影響しています。
異動となった従業員は今までと異なる業務に携わる場合が多いため、新しい知識や技術が身につきます。従業員の仕事の幅が広がることで、さらなる成長が期待できるでしょう。また、優秀な人材を異動させ、業務プロセスや知見を異動先のメンバーと共有してもらうことで、企業全体として従業員の能力やスキルの底上げにもつながります。
適材適所による人材活用
人事異動は、従業員の能力を最大限に活かせるポジションへ配置することで、生産性の向上といった効果が期待できる「タレントマネジメント」の一環として活用できます。従来の人員調整にとどまらず、新規事業の立ち上げや海外進出など、企業の成長戦略を支える重要な手段にもなり得ます。
また、経営環境の変化に応じた組織再編と柔軟な人材配置により、限られた経営資源の有効活用や競争力強化にもつながります。
近年、リモートワークや時短勤務の普及により多様な人材が活躍できる環境を構築していく必要性が増しているなか、働く時間や場所に制約のある従業員は増えていくと考えられます。同じ人材に一つのポジションを長く担ってもらうことが難しくなっても、適材適所の人材配置を実現することで、多様な人材がそれぞれの能力を最大限発揮できる組織作りへと繋げることができます。
組織の活性化につがる
人事異動には、組織の活性化へと繋げる効果も期待できます。新しい発想や考え方が生まれにくくなっている場合、部署内のメンバーが固定されていることが原因の一つとして考えられます。そこで定期的に人事異動をおこない、部署内の流動性を高めることで、組織の活性化につながることが期待できるでしょう。
また異動によって、従業員が今までとは異なる職場環境を知ることは、組織における仕事の流れの理解を深めることにもつながり、生産性向上にも大きく貢献できるでしょう。
不正の防止
同じ業務や部署に長く在籍していると、業務の進め方が固定化されたり、周囲との関係性が密接になりすぎたりすることで、第三者によるチェックが十分に行われず、見落としが生じる可能性があります。このような環境では、不正行為や不適切な対応が見過ごされやすくなることが問題です。
そこで、一定期間ごとに担当者や配置先を変更することで、職場に適度な変化が生まれ、内部牽制の効果が高まります。その結果として、不透明な業務の進行や、取引先との過度な癒着などを防止し、健全な業務運営を支えることが可能になります。
モチベーションの維持(マンネリ化の防止)
人事異動は、従業員のモチベーションを維持し、仕事に対する新鮮さを保つための手段としても有効です。
長期間にわたり同じ部署や業務に携わっていると、業務に対する慣れから関心や挑戦意欲が薄れてしまうことがあります。そのような状態が続くと、本人の成長意欲が低下し、ひいては生産性や業務成果にも悪影響を及ぼすことがあります。
そこで、定期的な異動によって新しい業務内容や職場環境に触れることで、従業員は新しい刺激を受け、仕事に対する意識をリフレッシュすることができます。加えて、新しい業務内容に取り組むことで、本人のスキルアップのきっかけにもなるでしょう。
これにより、日々の業務への取り組み方に変化が生まれ、成果の向上や職場の活性化にもつながることが期待できます。
適切な人事異動をおこなうためのポイント

適切な人事異動をおこなうためには、どのようなポイントに気をつける必要があるのでしょうか。
人事異動のルールの明確化
人事異動をおこなうためには、人事異動のルールや基準を従業員に対して明確にすることが必要です。多くの企業では、人事異動のルールや基準について、就業規則に規定を設けていることが一般的です。
人事異動のルールなどについて記載する際は「対象者の選定基準」「異動の時期」といった要素を明確に定め、合理性のある人事異動をおこなわなければなりません。
経営方針・目的に沿った人事異動の実施
人事異動は企業の経営方針に沿ったうえで、経営目標の達成や人材育成などの目的をしっかりと考慮しておこなうことが重要です。
従業員にとって「業務上の必要性・目的が不明瞭」と捉えられる人事異動では、従業員のモチベーションを高めることは難しく、経営目標の達成から遠ざかってしまうことを考慮する必要があります。
人事異動を従業員へ伝えるときのポイント
人事異動を円滑にするために、従業員に伝える際はいくつか押さえておきたいポイントがあります。
異動の理由を説明する
人事異動を伝える際には、まず「なぜ異動するのか」という理由を具体的に説明することが大切です。単なる人員配置の都合と受け取られないように、本人のこれまでのスキルや経験・実績を踏まえたうえでの判断であることを伝え、納得感を高めましょう。
また、異動先での業務内容と、従業員自身の適性や強みがどのように合致しているのかを説明することで、前向きな気持ちで異動を受け入れてもらいやすくなります。
異動先で期待される役割を明確に伝える
適切な人事異動(適材適所の実現)のためには、異動者の不安解消と早期戦力化が鍵となります。そのために、異動先で期待される役割やスキルなどを明確に伝えておくことが重要です。また、業務内容だけでなく、職場の文化や雰囲気についても事前に共有することで、異動者の戸惑いや不安を軽減できます。これにより、異動後のスムーズな組織社会化(新しい環境への適応)を促すことができます。
これは、異動後に感じやすい「リアリティショック(理想と現実のギャップによる戸惑い)」を防ぐためにも有効です。現実的な情報を提供することで、従業員自身が主体的に準備を進めることができます。
情報が漏洩しないように注意する
人事異動の情報は、正式な辞令が発表される前に外部や関係者以外に漏れることで、さまざまなリスクを引き起こします。そのため、異動予定者への内示(異動予定者への事前通知)をおこなう際には、情報管理の徹底が不可欠です。
内示内容が周囲に広まってしまうと、社内外の混乱を招く可能性があります。たとえば、異動により組織の方針や事業戦略に影響がある場合、取引先や顧客に不安を与えかねません。とくに、役職者といった重要なポジションの異動では、情報漏洩によって株価や企業評価にまで影響を及ぼす事態も考えられます。
また、社内でも、正式発表前に情報が漏れることによって関係者間に憶測や不安、誤解などが広がりやすく、職場の人間関係や業務に悪影響を及ぼすリスクがあります。
こうした事態を防ぐためにも、人事異動を内示する際は「正式な発表までは、社外はもちろん、社内でも周囲に伝えないように」と口頭・書面の両面で周知することが重要です。また、内示から辞令発表までの期間が長くなるほど漏洩リスクは高まるため、その期間を短縮する工夫も有効です。
従業員は人事異動を原則拒否できない
日本では、従業員を簡単に解雇できないように、法規制が厳しくなっています。その一方で、会社や組織が持つ人事権も強く、どこかの会社に勤めるということは、従業員はその会社の就業規則に合意したことを意味します。
多くの会社では、人事異動は業務命令の一つとして就業規則に定めているため、従業員は人事異動を原則的には拒否できないものと考えられています。しかし、中には「例外的に拒否できるケース」も存在します。
【例外1】雇用契約や就業規則に反する異動命令の場合
企業と従業員との間で交わされた雇用契約書や労働条件通知書において、「勤務地」や「職種」などの条件が明確に定められている場合は、それに反する異動命令は原則として無効とされる可能性があります。
たとえば、「東京都内の勤務限定」と明記されている従業員に対し、地方支店への転勤を命じるようなケースは、契約違反と判断される場合があります。また、就業規則自体に異動に関する記載がない場合、企業側が一方的に異動を命じることも難しいとされています。
【例外2】従業員本人や家族に重大な事情がある場合
異動先での勤務が従業員本人やその家族にとって著しく負担となる事情がある場合、異動命令が無効と判断されることがあります。
たとえば、要介護の家族がいる、従業員本人が持病の治療中である、遠方への転勤によって健康に悪影響が出るおそれがあるといったケースが該当します。企業はこうした事情を十分に考慮し、配慮する義務があるのです。
【例外3】不当な目的による人事異動の場合
業務上の正当な理由がなく、嫌がらせや退職勧奨などの不当な目的で異動がおこなわれた場合も、異動命令は無効とされる可能性があります。
たとえば、従業員の適性や実績を無視し、経験のない業務に配置する、あるいは事実上の降格となるような閑職に異動させるといったケースは「人事権の濫用」として、裁判でも否決される例が見られています。
このように、人事異動には一定の制限や例外がありますが、法的に異動命令を拒否できるケースはあくまで例外であり、頻繁に発生するものではありません。そのため、企業としては「従業員は人事異動を原則として拒否できない」という前提を理解しつつ、個別の状況に応じて慎重かつ丁寧に人事異動を検討していくことが求められます。
適切な人事異動で組織の力を最大限に引き出そう

人事異動には、従業員の育成や適材適所による人材活用といった目的のほかにも、組織の活性化や不正の防止、従業員のモチベーション維持などのさまざまな目的があります。人事異動を企業の成長に繋げるためにも、人事異動の目的を明確にし、目的に対して人事異動が果たす役割についてきちんと考えることが大切です。
人事異動は、従業員にとっては大きな変化であるとともに、新しい環境への不安も抱きやすいものです。そのため、人事異動を従業員に伝える際には、異動の理由や、異動先で求められる役割についてしっかりと説明し、円滑に異動できるようサポートしましょう。あわせて、社内外で混乱を招かないように、人事異動の公表前に情報が漏洩することのないように注意することも重要です。

















