クリティカルシンキングとは?ロジカルシンキングとの違いや例を解説

ビジネスの現場では、複雑な状況のなかで最適な判断を下す力が求められます。しかし、目の前の情報が本当に正しいのか、自分や他者の主張が論理的で筋が通っているのかを見極めるのは簡単ではありません。
そこで重要となるのが、思い込みや前提にとらわれずに、「自分や他者の思考・言動が本当に正しいのか」を一度疑ってみる「クリティカルシンキング」とよばれる思考法です。
本記事では、クリティカルシンキングとはなにか、クリティカルシンキングが求められる理由、社員が身につけるメリット、注意点、実践するプロセス、クリティカルシンキングにおける4つの要素と例を紹介します。
クリティカルシンキングを体系的に学ぶことができる研修について、詳しくは以下もご覧ください。
クリティカルシンキングとは
クリティカルシンキングとは、批判的思考ともよばれ、「自分や他者の思考・言動が本当に正しいのか」を、一旦立ち止まって”あえて疑う”思考法や思考習慣を指します。
「批判的」という言葉からネガティブなイメージを抱くかもしれませんが、他者の人格や人間性を疑うものではありません。他者および自分自身の発言の内容や考え方・捉え方などが本当に正しいのかを一旦疑うことで、本質を発見しやすくすることがクリティカルシンキングの目的です。
クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い
クリティカルシンキングと混同しやすい概念にロジカルシンキングがあります。ロジカルシンキングは論理的思考ともよばれ、「筋道を立てて物事を考える」ことを指します。具体的には、原因と結果、結論と論拠といった因果関係を明確にしていく考え方です。
物事を論理的に考えるという面では、クリティカルシンキングとロジカルシンキングは共通していますが、ロジカルシンキングは「物事の結果に対し、筋道を立てて考える」ことであるのに対し、クリティカルシンキングは「本当に筋道が通っているか、本質的であるかをあえて疑い検証する」という違いがあります。
クリティカルシンキングとラテラルシンキングの違い
クリティカルシンキングと似た言葉として、ラテラルシンキング(水平思考)があります。
ラテラルシンキングは、物事の角度を変えて見ることで、多角的に考察し、自由な発想を生み出す思考法のことです。問題に対して「別の角度から考える」「組み合わせを変えてみる」といった柔軟な発想が求められます。
クリティカルシンキングが「既存の考え方や情報を深く掘り下げて精度を高める」ための思考法であり、曖昧さのない左脳型の思考法といえます。それに対し、ラテラルシンキングは「新たなアイデアを生み出すための発想の広げ方」であり、直感的な要素も含む右脳型の思考法といえるでしょう。
クリティカルシンキングとデザインシンキングの違い
デザインシンキング(デザイン思考)は、問題解決に用いられる思考法のひとつです。
デザインシンキングは、サービスや商品の利用者の視点からビジネスの課題を発見し、その解決策を見出すための思考法のことです。観察やユーザーとの対話といった実践的なプロセスを通じて課題解決を図ります。
クリティカルシンキングは問題の本質や正しさを探るための「自己内対話的な思考法」であるのに対し、デザインシンキングは「相手本位」であり、利用者視点に立って解決策を導く思考法です。
クリティカルシンキングが今求められる理由

なぜ今、クリティカルシンキングが求められているのでしょうか。2つの背景を紹介します。
VUCA時代に合わせた経営戦略を立てるため
近年は、先行きが不透明で将来を予測することが困難な「VUCA時代」ともよばれています。そのような時代のなかで市場のニーズを的確に把握して企業活動に活かすには、情報の適切な取捨選択や既存の価値観にとらわれない柔軟性などが求められます。
たとえば、マーケティング活動によって得られる複雑なデータや情報を解析する際、さまざまな仮説が導き出されるなかでクリティカルシンキングを用いることにより、消費者がなにを求めているのか本質を発見し、ニーズを的確に理解できます。
消費者のニーズに応える新たなビジネスモデルやサービスの開発につながるとともに、効果的な販売戦略を立てることにもつながっていくでしょう。
社会人基礎力の「考え抜く力」にも関わる
経済産業省が提唱する「社会人基礎力」の一要素に「考え抜く力」があります。この力は、疑問を持ち、自ら深く考える力のことを指し、この力を発揮するために必要な要素の一つとしてクリティカルシンキングがあります。
変化が激しく、正解が一つに定まらない現代のビジネス環境においては、与えられた情報や状況に対して常に問題意識を持ち、課題を発見し、自律的に解決策を考案することが求められます。
「考え抜く力」を発揮するためにも、思い込みや慣習にとらわれず、情報を批判的に捉え直し、よりよい判断や行動につなげるクリティカルシンキングが必要となるでしょう。
日々の業務のなかでクリティカルシンキングを磨くことは、ビジネスパーソンとして自らの能力を最大限に発揮する基盤づくりにもつながります。
クリティカルシンキングを社員が身につけるメリット
クリティカルシンキングを身につけることで、自分自身の思考の質を高められることに加えて、他者との議論やコミュニケーションの質も向上していきます。
クリティカルシンキングを社員が身につけるメリットについて、詳しく解説しましょう。
情報の過不足や真偽に気づきやすくなる
人の思考にはさまざまなバイアス(思い込みや指向性など)がかかっており、それらがときに本質をとらえることを難しくしています。
クリティカルシンキングを身につけることで、思考するときに、思い込みによって前提を決めつけたり、表面的な情報にとらわれたりすることを減らせるでしょう。また、情報の過不足や真偽に気づきやすくなり、より高い精度の分析ができるようになります。
それらを考えるにあたっての具体的な切り口の例として、「実店舗の販売戦略の見直し」をテーマに考えてみましょう。
現状
売り上げを上げるために来客者数が多い日曜日にセールをしている
切り口の例
- ・本当に日曜日にセールをするのが最適なのか?
- ・注目するべきは本当に来客者数なのか?客単価や顧客属性を中心に考えた方がいいのではないか?
- ・売り上げをあげるためには、セールという施策をとることが本当に最適なのか?商品に特典をつけるなど他の施策のほうが有効なのではないか?
問題に対する分析と対策の質が向上する
インプットした情報を正しく精査し、本質的な思考をおこなうことで、アウトプットの精度も向上します。
たとえば、業務においてなんらかの問題が発生したとき、クリティカルシンキングによって問題の真因を捉えることによって「なにをすべきか」が明確になり、対策の質も向上していきます。
また、これまでにない新しい発想を生むことにもつながるなど、効果的な解決方法を見出しやすくなると考えられます。
円滑なコミュニケーションにつながる
クリティカルシンキングを身につけることで、他者が発言している内容を正しく捉え、その意図や前提を的確に理解できるようになります。
それに対して的確な回答ができれば、お互いの会話がスムーズになりコミュニケーションが円滑化するでしょう。
合意形成の効果・効率の向上
クリティカルシンキングにより物事の本質を理解することで、抱えている課題や問題を解決するために生産的な意見を出し合うことができます。もし、他者の発言内容に偏りや偏見があったとしても、筋道が通っていない部分に気づきやすくなるでしょう。
たとえば、プロジェクトなどにおいて合意形成がスムーズになり、業務効率の向上が期待できるなど、業務におけるメリットにもつながります。
クリティカルシンキングの注意点

クリティカルシンキングをおこなう際の注意点を解説します。
議論の焦点や目的を見失わない
クリティカルシンキングでは「その前提は正しいか?」と問い直す姿勢が大切ですが、使い方によって議論の焦点を見失う原因にもなります。たとえば「オンライン会議ツールの種類をなににするのか」という場面で「そもそもオンライン会議は必要か?」と問い始めてしまうと、議論の目的から逸れてしまいます。
また、問いを深めるあまり目的を見失うこともあります。たとえば「新規事業の方向性を決める場面」で、細かな業務オペレーションの問題に深入りしてしまうと、本質的な論点が置き去りになるでしょう。
そのため、「何のために考えているのか」「どんな結論を出す必要があるのか」といった本来のゴールを意識し続けることが重要であり、それにより議論を正しい方向に導くことにつながります。
思い込みや先入観を自覚する
誰もが自分なりの固定観念や思考パターンを持っているものです。しかし、そのような思考の癖や過去の成功体験、慣習などに引きずられると、新しい視点を持てなくなる危険性があります。
クリティカルシンキングでは「本当にそうだろうか」「他に選択肢はないか」と自分自身の考えも客観視する習慣が欠かせません。データや数字を頼りにする場合も、その根拠や前提に誤りがないか確認するようにしましょう。
問い続ける姿勢を持つ
「これで十分だ」と結論づけるのが早すぎると、重要な見落としや本質的な問題を逃すことがあります。問いを投げ続けることで、新たな視点や発見につながる場合も多いものです。
特に複雑な課題に対しては「他の可能性は?」「この結論のリスクは?」と考え続ける姿勢が求められるでしょう。
クリティカルシンキングを実践するプロセス

クリティカルシンキングを身につけるためには、どういったプロセスで物事を考えていけばよいのでしょうか。4つのプロセスに分けて解説します。
1.違和感に気づく
物事や相手の発言を注意深く観察し、「よりよいことはないだろうか」「本当だろうか」という違和感がないかを意識します。また、どういった違和感があるのかを具体的に説明できるように実践してみましょう。
「上司や先輩、または優秀な部下だから発言内容は正しいだろう」といったように、表面的な言動や事象にとらわれてしまうと違和感に気付けないこともあるため注意が必要です。
2.あえて疑う
違和感があっても、それが必ずしも誤りとは限りません。それが本当に間違っているかどうか疑って考えてみることも大切です。
たとえば、ミーティングなどにおいて「売上が低迷しているのは、前年と比べて市場全体が大幅に縮小しているのが原因に違いない」という意見が出された場合、大幅に縮小しているのが本当に市場全体か、一部の分野だけではないのかをあえて疑い、実情を調査してみましょう。
3.仮説を立てる
疑ってみた結果をもとに、そこから考えられる新たな原因などを仮説として設定します。
上記の例でいえば、「市場全体が大幅に縮小している」ということが事実だったとしても、ほかにも「営業担当者の数が減り訪問件数が減った」という事実があれば、それも売上減少のひとつの要因として考えられます。
4.検証する
最後に、立てた仮説が本当に正しいのかを検証します。検証するためには、できるだけ多くの情報を集めたり、実際に試したりすることが有効です。
上記で挙げた「営業担当者の数が減り訪問件数が減った」ことが売上減少につながっているかを検証するためには、過去の実績や営業担当者一人あたりの売上高などを割り出して比較してみるのもひとつの方法です。
クリティカルシンキングにおける4つの要素と例
クリティカルシンキングを実践するうえで大事なのは、目の前の情報や結論をそのまま受け入れるのではなく、「本当に合っているか?」と意識的に立ち止まって疑ってみる姿勢です。
筋道が通っているように見える内容であっても、背景や根拠、論点に抜けや飛躍が潜んでいないかを一つひとつ検証する必要があります。以下の4つの視点から考えることで、より本質的に考えることができるでしょう。
事実・情報が正しいか
出発点となる「事実」や「情報」が正しいかを最初に確かめることは非常に重要です。間違った情報を前提とすると、その後の判断や結論にも誤りが生じるリスクが高まります。
情報源の信頼性、データの更新時期、数字や記載内容の誤りがないかを確認することが重要です。また、提示された情報だけで判断せず、「他に必要な情報はないか」「反対意見や異なる視点は存在しないか」と視野を広げるほか、「自分にとって都合のよい情報を集めていないか」といった複数の角度から批判的に検討する視点も大切です。
クリティカルシンキングの例
たとえば、「過去3年間、自社の東京での会社説明会はオンライン参加が多かった」という事実・情報があった場合、「今年自社が出展した合同説明会でも70%がオンライン参加だったため、自社でも今年の会場での参加は少ないだろう」という根拠・推論が成り立ち、「社内の会議室をおさえれば十分である」という結論が予想されます。
しかし、「今年の、自社の大阪開催の説明会は80%が会場での参加だった」という重要な情報が入ると、「外部の会場を借りなければ収容人数が足りなくなるかもしれない」という結論に変わる可能性があります。
前提・存在が正しいか
前提として捉えている認識が正しいかを、あえて疑うことも大切です。
知らず知らずのうちに、「当たり前」と思い込んでいる前提にもとづいて判断していないか、過去の経験則や慣習が無意識のうちに前提となっていないかを見直すことが、柔軟で正確な考え方につながります。
クリティカルシンキングの例
たとえば、商品販売戦略において「商品の販売」という点に着目すると、「実際の商品を手に取ってもらい、利用イメージを湧かせ購入のきっかけにするためには、実店舗での販売がよい」という前提から、「出店をすることが売上向上につながる」という意思決定が結論として導き出されます。
しかし、実店舗への集客を実現するためには、より多くのお客様に自社製品が認知されていなければなりません。その場合は、商品販売戦略に「認知」までを含んだ再設計が必要になるでしょう。
推論が正しいか
正しい推論が導き出されているかを検証するためには、違和感を無視せず考えることが大切です。
漠然とおかしいと感じた場合には、自分自身の考えを自問自答すると同時に、相手がなぜそう考えているのか質問をしながらの検証が必要になります。
質問を繰り返し、内容を掘り下げていくことで、推論の間違いや不自然な点に気づくこともあるため、反論しながら議論を深めていきましょう。
日頃から仮説を立てて検証するトレーニングを積むことで、思い込みや違和感に気づきやすくなり、推論の正確さを磨くことができるようになります。
クリティカルシンキングの例
新規事業の立案において「若年層向けのサブスクリプションサービスは伸びている」というデータがあった場合、「自社が新たに提供する音楽配信サービスも、若年層向けに開発すれば同様に成功するだろう」と推論し、「今すぐ開発投資を進めるべきだ」という結論に至るかもしれません。
しかし、「競合他社の同様サービスの参入状況」や「自社のブランド認知度」などの要因を考慮していなければ、その推論は成立しないでしょう。推論の正しさを確認するためには、これらの前提条件や外部要因についても掘り下げて検証する必要があります。
論点が正しいか
クリティカルシンキングで結論を導き出すためには、そもそもの論点が正しい内容になっているかを考えることも大切です。論点の正しさを見極めるためには、「本質的であるか」、「今考えるべき内容か」、「自分たちで扱える内容か」といった観点から、論点の正当性を冷静に見直すことが必要です。
クリティカルシンキングの例
たとえば、「自社の売上を向上するにはどうすればよいか?」「今真っ先に注力するべきなのは、本当に売上向上なのか?」といった疑問形にして考えてみましょう。それによってなにを具体的に考える必要があるのかが明確になり、その結果としてよい論点が見つけやすくなります。
研修や日常業務を通してクリティカルシンキングを実践しよう
クリティカルシンキングは、日々の業務や研修を通じて実践的に身につけることができます。
論理の飛躍や情報の偏りに気づき、冷静に問い直す力を養うことで、社員一人ひとりの判断力や課題解決力の向上につながります。
また、情報の真偽を見極める力や、相手との認識ギャップを埋める視点も養われるため、合意形成のスピードやコミュニケーションの質も高まります。その結果、これまで見落としていた業務課題の発見や、課題を解決するための新たな方法を見つけられることもあるでしょう。
先行きが不透明で将来を予測することが困難な時代だからこそ、一人ひとりが物事の本質を見極め、柔軟に対応できるよう、この思考法を実務に活かしていきましょう

















