HR領域でのデータ活用における世界のトレンドと今後の可能性 そして人事に求められる機能とは
ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 理事 北崎 茂氏(左)
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 HRシステムコンサル部/HR Trend Lab研究員 佐々木 翔平(右)
テクノロジーの進歩により、DXのようなデータ活用を促進する動きがさまざまな業界で急速に進んでいます。中でも近年広がりを見せているのが、HR(Human Resources:人的資源)領域での人材データの活用です。
そこで今回は、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会で理事を務める北崎茂さんに、HR Trend Lab研究員の佐々木が、HR領域で人材データ活用が広がった背景や日本と海外との違い、今後の可能性についてお伺いしました。
近年HR領域で人材データの活用が注目されている背景とは?
佐々木:近年、テクノロジーの発展に伴い、HR領域での人材データの活用が話題にのぼるようになったイメージがあります。HR領域での活用が注目されるようになったのは、どういったところが発端になっているのでしょうか。
北崎:さまざまな要素があると思っています。テクノロジーの発展もそのうちの一つでしょう。根本にあるのは、企業に属する人材の多様化とビジネススピードの加速です。旧来の日本のマネジメントでは、部下も自分と同じようなキャリアを通ってきているため、大体なにをやってきているのか上司が把握していました。
ただ、今の時代は中途入社も多く、従業員によってキャリアのバックグラウンドもさまざまですし、世代による価値観の違いも大きい。私自身、20以上歳の離れた人たちとは価値観が大きく違うことを痛感しています。そうなると、必ずしも自分の経験則が他者に受け入れられるとは限らなくなる。そこで、データを使って従業員を客観視することが求められているといえます。
また、ビジネススピードが速くなることで、積み上げたノウハウの賞味期限が短くなりました。感覚を活かせるのは、同じ土俵の中だからこそです。どんどん土俵が変わってしまうため、別の土俵で培った勘や経験を利かせられなくなっているわけですね。そういった状況のなかで意思決定をするにあたっては、自分の勘や経験だけでなく、なんらかの補足材料が必要になってきたという課題感が浮上してきました。
こうした背景があり、データによる客観視が必要とされているなかで、ビッグデータやAIなどがどうやらビジネスに使えそうだという大きな流れがやってきた。元々マーケティングや研究開発の世界では、データをもとに顧客がどういう志向性を持っているのか追求して、その結果を意思決定に活用していましたが、これはHRにも使えるんじゃないかとなったことがきっかけだったように思います。
佐々木:そうした潮流は、欧米諸国から発祥したのでしょうか?
北崎:そうですね。そもそも欧米諸国は多民族国家として成立しているところが多く、国民の意識や日常生活のなかに多様な価値観を認め合わないとコミュニティが成立しないという現実がありました。なぜ欧米諸国の方が先だったかというと、価値観の多様性ゆえにデータを活用して意思決定することに多少なりとも慣れていたという部分があり、データへの順応性、活用できるのではという勘やセンスがあったからだと考えています。
日本でそういったデータをビジネスに活用しはじめたのは、2012年頃からですね。AIという考え方が徐々に浸透し始め、フィンテック、HRテック、アナリティクスという話題が取り上げられるようになりました。その後、興味を持った人が集まって流れができていった、というのが2014年から2019年のトレンドでしたね。
佐々木:さまざまな企業を見る中で、そのほかの変化としては情報を扱う主体が変わってきているように感じています。このようなデータは、これまでシステム部門や人事部門が主に管理・利用してきたように感じますが、現在は現場マネージャーも管理・利用できるようになってきていると感じます。北崎さんはどう見ていらっしゃいますか?
北崎:その傾向はあると思います。人材マネジメントの意思決定を人事部門から現場に委譲したいという企業が増えています。現場が人材マネジメントの意思決定をスピーディーにおこなうことが求められるようになり、それに伴って現場への情報開示の必要性が高まったことが大きな背景のひとつです。人事から現場にシフトしていったというより、現場のニーズが上がってきたのだと思いますね。