OJTとは?意味や目的をわかりやすく解説
社員を育成するうえで、現在多くの企業で取り入れられている手法が「OJT(On The Job Training)」です。
先輩社員が、後輩となる新入社員(中途入社者・異動者も含む)に対して、業務に必要な知識やスキルを実践しながら教育していく手法であるOJTは、継続的に実施することで、人材が効率的に成長し、人が人を育てる風土が自社に定着する効果も期待できます。
今回は、OJTの目的や重要性、メリット、OFF-JTとの違い、効果的に運用するためのポイントについてわかりやすく解説します。
OJTとは?
OJTとは 4段階での指導をベースに早期戦力化を狙う
OJTとは日常の業務に付きながらの職業教育を意味します。起源は第一次世界大戦時のアメリカで、膨大な軍人を育成するために生まれた「4段階職業指導法」。「やってみせる(Show)」「説明する(Tell)」「やらせてみる(Do)」「確認、追加指導(Check)」が基本的な手順とされています。
主に教育担当の先輩社員が日常業務のなかで、新入社員(中途入社者・異動者も含む)をマンツーマン指導するのが一般的な進め方です。日本では高度経済成長期に輸入されたと言われています。当時終身雇用や年功序列といった雇用慣行が日本に根付いていた中で、OJTは社員研修において基本的な手法として知られました。
現在に至るまで、時代は変われどもその本質は変わらず、変容を続けながら多くの企業において実践的かつ効果的な研修手法として活用されています。
研修手法の一つとして企業の6割以上が実施
厚生労働省がおこなった令和4年度能力開発基本調査(※1)では、正社員に対して計画的なOJTを実施した国内の企業、事業所は60.2%でした。令和2年度調査では56.9%、令和3年度調査では59.1%と、3年連続で増加傾向にあります。
令和2年度には、新型コロナウイルス感染症が拡大した影響で、リモートワークが広がるなど人々の働き方に変化が起きました。これにより現場における学びの機会であるOJTが一時的に減少したと考えられますが、その後、徐々にOJTの機会が復活し、近年はコロナ禍前の実施水準に戻りつつあります。
この結果から、現在もOJTは企業の人材育成において重要な手法として位置づけられているといえるでしょう。
OJTの目的
トレーニーの能力向上
OJTの目的としてまず挙げられるのは、訓練を受けるトレーニーの企業人としての職務遂行能力を高めること。さらにトレーニーの成長意欲、自己実現意欲を満足させることにもつながるでしょう。
年功序列や終身雇用が主流だった企業のスタイルも変化するなか、たとえば新入社員にとっては、早くから仕事に対する責任の意識付けもできるでしょう。トレーニーの能力、意欲を高めることができれば、組織への順応を促進させ、人材定着につながる期待も大きくなります。
OJTトレーナーの能力向上
指導役となるトレーナーにとっても、 自身の能力向上が図れます。また、OJTが効果的に実施されれば、トレーナーとして周囲からの信頼を得ることにもつながるでしょう。
組織としてもOJTを通して社員の指導力を向上させておくことで、次世代のリーダー育成という観点で見た際に、一定以上のスキルをもっている状態で育成をスタートできるといった利点があります。
永続的な組織のパフォーマンス向上
OJTを継続的に実施することは、人材が効率的に育ち、 人が人を育てるような組織の風土づくりにも役立つでしょう。技能や専門的技術も速やかに伝達される環境が当たり前になれば、組織の永続的な発展に大きな影響を与えることになるはずです。
OJTとOFF-JTの違い
実務を一時的に離れておこなうOFF-JT
OJTとよく比較されるものにOFF-JTがあります。正式名称は「Off The Job Training」。OJTとOFF-JTには明確な違いがあり、OFF-JTにもさまざまな方法があります。OJTは実務の場で必要な知識やノウハウを実践形式でおこなうアウトプットが中心。OFF-JTはインプットが主となり、実務の場を一時的に離れてのセミナーや研修で成長を促します。
OFF-JTの実践例としては新入社員向けのビジネスマナーを指導したり、ベテラン社員が専門的スキルを身につけたりするための集合研修などが挙げられます。講師を招いてより広い視野を持つための講座を開くなども、多くの企業でおこなわれています。また、空いた時間での通信教育や、eラーニングもOFF-JTのカテゴリーに当てはまります。
【OJT・OFF-JTの違い】
OJT | OFF-JT | 指導者・ 指導形式 |
先輩社員(OJTトレーナー)による実戦形式の指導 | 外部講師・ベテラン社員などによる講義・セミナー形式の指導 |
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教育できる内容 | 実務の遂行に必要なスキルを学べる(アウトプットが中心) | 普遍的かつ汎用的なスキルを学べる(インプットが中心) |
指導対象 | OJTトレーナー(指導する側)1名に対してトレーニー(指導を受ける側)1名でおこなわれる | 複数名の参加者を対象におこなわれる |
長期的視点ではどちらも重要
厚生労働省の令和4年度能力開発基本調査(※1)では、正社員に対する教育訓練として OFF-JTを実施している企業は70.4%でした。
先述したように、6割以上の企業が正社員に対する教育訓練としてOJTを実施している現状もあわせて考えると、実務的な教育が可能なOJTも、業務環境から離れて体系的に知識を学べるOFF-JTも、どちらも重要視している企業の考え方がうかがえます。
OJTとOFF-JTどちらか一方ではなく、OJTとOFF-JTの両方、また、その他の教育手法との違いをそれぞれしっかり理解したうえで、自社のニーズと照らし合わせながら使い分けていくことが効果的な人材育成につながります。
OJTを効果的に運用するには
育成計画をしっかり立てる
OJTとOFF-JTは育成の一つの手段であり、その他にもさまざまな方法がありますが、どのような手段を選択するにしても計画をしっかりと立てる必要があります。大事なのは会社としての育成目標や、望まれる成長プロセスを明確にすること。
場当たり的な進め方を避けるには、各部署や人事部などがきちんと協力する体制づくりも必要でしょう。職場ごとにばらばらな指導をしていては、トレーニーの成長も見込めません。育成が計画通り進んでいるか、状況を確認してフォローするような仕組みをつくるのも重要です。
現場に一任しすぎず社内全体で取り組む
人材育成の手法としてOJTを運用するうえで、トレーナーの人選から指導方法までを現場任せにしてしまうと、トレーナーごとにOJTの成果にバラつきが生じてしまうことも考えられます。
トレーナーの人選は現場に一任しすぎず、人事部門がトレーナーの選定基準を提供するなど、主導することも大切です。その際には現場に対して、「トレーナーの選定基準」だけでなく、「選定基準の理由」も示すとよいでしょう。
また、現場の管理職には、トレーナーがOJTのための時間を確保できるような業務配分に調整することが求められます。
OJTはトレーナー一人でおこなうのではなく、チームメンバーがお互いの業務量を把握し、トレーナーの業務負荷が増大したときには業務を巻き取れる体制をつくるなど、現場が一丸となってOJTに取り組む体制づくりが重要です。
自社の目的に沿った人材育成の制度づくりを実現するために、経営層や人事部門が号令をかけ、社内全体がポジティブに取り組める下地をつくることが、効果的な人材育成につながっていくでしょう。
OJTの効果を高める研修
OJTは、ほかの人材育成の施策とあわせて設計することが大切です。ここでは、OJTの効果を高める2つの研修を紹介します。
OJTトレーナーに向けた研修
OJTによる育成を円滑に進めるためには、指導役となる社員であるOJTトレーナーへの研修が重要です。OJTトレーナーとしての心構えや、必要なスキルを修得できる研修により、トレーナーごとの指導スキルのばらつきを防ぐことにもつながります。
【OJTトレーナー研修の一例】
・OJTトレーナーとしての心構え
・OJTの進め方
・育成計画の立て方
・OJTトレーナーに求められるコミュニケーション
・指導方法(ティーチング・コーチング)と指導のポイント など
OJTではトレーニーの習熟度や意欲に合わせて、「ティーチング(答えを教える・指示する)」と「コーチング(答えを導き出す・任せる)」の2種類の指導方法を使い分けることが有効といわれています。
ティーチングとコーチングそれぞれの指導方法や、使い分けについて学べる研修であれば、OJTトレーナーのスキルアップに大きく役立つでしょう。
新入社員研修(OFF-JT)
OJTでは、実務と振り返りを繰り返しながら、業務に必要な知識・スキルを身につけていきますが、体系的に学ぶことが難しい側面があります。
そのため、人材育成をOJTだけで完結させるのではなく、専門的かつ体系的な知識を身につけられるOFF-JTを組み合わせることで、より効果的な人材育成につながるでしょう。
【新入社員研修(OFF-JT)の一例】
・ビジネスマナー(名刺交換、電話対応、訪問・来客対応 など)
・思考方法(ロジカルシンキング、クリティカルシンキング など)
・フレームワーク(MECE、ロジックツリー、ピラミッドストラクチャー など)
上記のような汎用性の高い知識・スキルを修得するうえで、OFF-JTは適しているといえます。インプットした知識を実務で活かすためにも、OJTとOFF-JTをセットにして育成計画を立てることが重要です。
社員育成に欠かせないOJT
OJT導入で新入社員や異動した社員を効率的に育成し、成長意欲を高めることができれば、企業活動にとってこれほど有益なことはありません。OJTを効果的に運用するためにも、以下の3点を押さえておきましょう。
・他の研修と組み合わせる
・育成計画をしっかり立てる
・現場任せではなく全社で取り組む
トレーニーだけでなく、トレーナーの成長にもつながり、組織の永続的な成果にも好影響を及ぼすOJT。この先も有効な育成手法の一つとして、重要視されていくでしょう。
<出典>
※1. 厚生労働省:令和4年度能力開発基本調査