個の強みを生かすポジティブ心理学が新時代を生き抜く力になる
働き方改革に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大により仕事の在り方にも変化が起こっています。社会経済の変化が見通しづらくなるなか、どんな状況においてもモチベーションを高くもち、前向きに業務に取り組む人材を育てるにはどうすればいいのでしょうか? そのヒントになるのが「ポジティブ心理学」です。
今回は、ポジティブ心理学の概要、企業における必要性について紹介します。
ポジティブ心理学とは
ポジティブ心理学とは一般的に、「人間のもつ長所や強みを明らかにし、ポジティブな機能を促進してゆくための科学的・応用的アプローチ」と定義されます。「科学」というのが重要であり、エビデンスにもとづいた理論構築がされている点がポイントです。
科学的根拠にもとづき個人の幸せを追求することで、公私ともにいい影響が期待できるため、大手企業や世界各国の政府でも導入されています。たとえば、私生活と仕事の両面にアプローチすることで、「ワークライフバランスを保ちながら仕事の生産性も向上する」といった、先進的な働き方の実現に役立つでしょう。
ポジティブ心理学とこれまでの心理学の違い
ポジティブ心理学は、アメリカ心理学会の会長を務めていたマーティン・E・P・セリグマン博士によって提唱された学問です。一般的な心理学との違いは、心理学分野だけにとどまらない点にあります。ポジティブ心理学では、経済学や経営学といった社会科学、生物学や脳科学といった自然科学などを含めた包括的なアプローチを試みます。
そのため、これまでの心理学が主に「精神疾患に悩む人」を対象にしてきたのに対し、ポジティブ心理学ではそれに限りません。心身ともに健康であっても、「個々人の長所を伸ばすためになにが必要なのか」「人生をよりよくするためにどうしたらいいのか」という観点でものごとをとらえるのです。
ポジティブ心理学の主要理論「フラリッシュ」とは
ポジティブ心理学は、個人や組織、社会、国家の「繁栄度」の向上を目的としています。この繁栄度のことをフラリッシュ(flourish)といい、日本語で「持続的幸福感」と訳されます。人間や組織が持続性をもって心理的に繁栄していく状態です。
フラリッシュの構成要素は、「Positive Emotion(ポジティブ感情)」、「Engagement(エンゲージメント )」、「Relationship(人間関係)」、「Meaning and Purpose(意味と意義)」、「Achievement, Accomplishment(達成)」の5つ。これらの頭文字をとって、まとめて「PERMA」と呼ばれます。ポジティブ心理学では、このPERMAそれぞれのレベルを上げていくことが重要です。それでは各要素を、もうすこし詳しく見ていきましょう。
ポジティブ感情(Positive Emotion)
ポジティブ心理学では、感情が結果を左右するという前提にもとづきます。「成功するから幸せになる」のではなく、「幸せだから成功する」と考えるのです。ポジティブな感情を持つことで脳が活性化し、クリエイティビティが向上します。その結果、私生活が充実したり、仕事でいい業績を得られたりと、好循環が生まれるのです。
エンゲージメント (Engagement)
取り組んでいる物事に熱意を持って没頭している状態、これを「エンゲージメント」といいます。スポーツにおいては「ゾーン」という言い方がされることもあります。エンゲージメントを高めることで、充実感や多幸感を得やすくなります。仕事においてエンゲージメントを高められれば、それに応じてパフォーマンスの向上も期待できます。
人間関係(Relationship)
人間関係が仕事の成果に影響することはいうまでもありません。自分と他人を比べることなく、建設的なコミュニケーションができれば、精神的にも前向きになり、幸福感を得られることが研究でも明らかになっています。職場におけるストレスの大半は人間関係に起因しているといっても過言ではなく、関係悪化は就労意欲や離職率にも影響します。
意味と意義(Meaning and Purpose)
意味と意義は、人生で大切なこと、価値観や生きる目的などを指します。ポジティブ心理学では意味や意義が自分のためだけではなく、会社のため、社会のためなど自分より大きなものに繋がるとき、人生が充実すると考えられています。仕事の在り方が変わりつつある今、仕事に対する意義や意味をもつことは従来以上に必要になってくるのではないでしょうか。
達成(Achievement, Accomplishment)
なにかを成し遂げることで人生が満たされていく、という考え方です。達成や勝利の体験は、さらなるポジティブ感情やエンゲージメントを生み出します。そして、なにか達成するためにはまず、目指すべきゴールを設定しなくてはなりません。個人・組織にとって適度な目標を掲げ、達成経験を積んでいくことが大切です。
企業がポジティブ心理学を取り入れることの必要性
働き方改革がおこなわれるのには、「個人の幸せと健康を高めることが結果的に仕事の生産性を高める」という考え方が背景にあります。
今後、日本では労働人口が減少していくと予測されています。そのような状況のなかで、企業は優秀な人材を確保し、従業員に最大限のパフォーマンスを発揮してもらう必要があります。だからこそ従業員の働きやすい環境を整備し、同時に生産性を高めることで、強い組織を作り上げていく必要があるのです。
ポジティブ心理学はこれからの労働環境に適応できる
これまで日本企業の制度改革や人材育成では、「ネガティブな側面を改善すること」に主眼が置かれることが少なくありませんでした。しかしこれからの時代、これだけでは不十分です。ポジティブ心理学にもとづいて、ポジティブな側面、つまり「強み」を生かすことで変化する社会に順応し、持続的な成長につなげていく必要があるのです。
従業員が働きやすい環境を企業が模索するうえでも、ポジティブ心理学は非常に参考になるのです。
ポジティブ心理学はレジリエンスの向上にも影響を与える
ポジティブ心理学を取り入れることで、社員のレジリエンスの向上も期待できます。レジリエンスとは、新たな挑戦をしたり、逆境にさらされたりしたときにかかる強いストレスやプレッシャーを糧に成長する力のことです。社員のポジティブ感情が強化されることで、仕事の意義や意味を肯定的にとらえて目標を達成できる人材育成に役立ちます。
ポジティブ心理学における「強み」を生かす
強みを伸ばすうえで参考になるのが、ポジティブ心理学の「キャラクターストレングス(Character Strength)」という考え方です。キャラクターストレングスでは、普遍的な「強み」を24に分類します。さらに24の強みは以下の6つの領域に分けられます。
・知識や知恵(創造性、好奇心、向上心、知的柔軟性、大局観)
・勇気(誠実さ、勇気、忍耐力、熱意)
・人間性(親切心、愛情、社会的知性)
・正義(公平さ、リーダーシップ、チームワーク)
・節制(寛容さ、謙虚さ、慎重さ、自制心)
・超越性(審美眼、感謝、希望、ユーモア、スピリチュアリティ)
企業においては各従業員に「強み」を把握させ、それを生かせるような役割を与えるといいでしょう。それにより従業員満足度と従業員のパフォーマンスを同時に向上させることができるのです。
強みを生かしてPERMAを向上させよう
ポジティブ心理学は自身の「強み」を生かすことで、ポジティブな機能を促進していく科学的・応用的アプローチです。それによりPERMAそれぞれのレベルが向上し、充実感や幸福感を得やすくなるのです。
また、これは企業組織にとっても同様です。各従業員の強みを生かすような人事制度、人事配置をおこなうことで、働く側の満足度が上がります。その結果、離職率の低下や、生産性の向上もできるでしょう。変化の激しい時代だからこそ、普遍的な強みを生かし、永続的な成長をしていくことが大切なのです。