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3年離職率は業界平均の1/3! 大森機械工業が実践する「コミュニケーション」と「キャリアの見える化」による新入社員定着施策

2023年11月15日更新


大森機械工業株式会社 管理本部 人事総務部 人事課
細村 淳一さん(左)、三浦 美保さん(中)、中村 めぐみさん(右)

売り手市場の採用難、そしてキャリアの多様化が進むなかで、「新入社員の定着」もまた、よりいっそう難しいものになりつつあります。そのような環境のなか、新入社員の入社後3年離職率が製造業平均の約1/3という高い成果を出している企業があります。

それが、埼玉県に本拠地を置く昭和23年創業の老舗包装機械メーカー、大森機械工業。

新入社員の定着のポイントは「シブリングス制度によるコミュニケーションの活性化」と「緻密な研修制度によるキャリアの見える化」にありました。

目次 【表示】

「人を大切にする」社風から生まれたシブリングス制度

— 今日はよろしくお願いします。いま、新卒採用市場は採用難だけでなく、その後の定着にも悩む方が多くいらっしゃいます。そのなかで御社は新入社員の3年以内離職率が5.5%と非常に低く、社員の高い定着率を維持されていますが、その理由はなんだとお考えになりますか?

三浦 美保さん(以下、三浦):当社は包装機械メーカーとして75年という長い歴史を持っていますが、それを支えているのは「人」です。そのため、人事制度を含めた経営の根底には「社員に居心地よく、快適に過ごしてもらうこと」という考えがあります。それが大きな理由ではないかと思いますね。

今いる社員はもちろんですが、とくに新入社員には早く環境に慣れてもらい、居心地よく快適に仕事ができるよう、さまざまなサポートを提供しています。

— とくに効果が高いと感じられている施策はなにでしょうか?

三浦:シブリングス制度です。あまり耳にしない言葉だと思いますが「(男女の別をつけない)兄弟・姉妹」を表す英語で、制度の中身は「メンター制度」とよく呼ばれているものと基本的には同じだと考えていただいてよいと思います。

同様の制度を「ブラザー・シスター制度」と呼ぶこともありますが、当社ではダイバーシティの観点から性別を限定しない「シブリングス」という呼称を採用しています。

制度の基本は、当社では新入社員1名につき1名の先輩社員を選任して「シブリングス」としてペアを組むことです。新入社員が早期に仕事や職場になじみ、社会人生活をスムーズに過ごせるよう、1年間、先輩社員が公私にわたってサポートしていきます。

たとえば、月1回の面談や会社から補助の出る「懇親会」で話を聞いたり、それ以外の場面でも気軽に相談できる相手として近くにいたり、といった形です。

シブリングス制度に参加できる先輩社員は入社4年目以降かつ35歳までが対象となり、選任にあたってはできる限り同じラインの先輩ではなく、新入社員の所属とは異なるラインから選出するようにしています。

— その理由はなんでしょうか?

三浦:直属の上司や先輩とは別に、社内にもっと身近で自分を見守ってくれる存在を持つことで、新入社員側が相談しやすい環境を作ってあげたいからです。

直属の先輩や上司だと、どうしても業務上の評価や一緒に進めている仕事のことが気になって、新入社員が率直に質問することは難しいと思います。会社にまだ慣れていない、緊張感のある期間であればなおさらです。

ですから、支店・営業所などでどうしても異なるライン同士の組み合わせが難しい場合も、席が離れていたり、業務内容が異なったりする人同士でシブリングスを組むようにしています。

— シブリングス制度の効果はどのように見ていらっしゃいますか?

三浦:新入社員からの感想を見ると、なんでも聞きやすい「お兄さん・お姉さん」ができることで仕事上の課題も生活面での悩み事も早く解決できると評価されています。人生の大きな転換点に身近でサポートをしてくれるシブリングスの存在は大きく感じるようです。

また、ほかにも会社にとって大きなメリットがあるんです。

— 定着率が上がる以外に、どのようなメリットがあるのでしょうか?

三浦:はい。一番大きいのは、先輩社員の育成です。

シブリングスになれるのは35歳までと規定しています。これは比較的年次の近い社員同士をペアにすることでコミュニケーションがとりやすいようにという配慮からですが、副次的に「これから部下を持つ社員の予行練習」としての効果も期待できます。

実際に、シブリングス側のアンケートでも傾聴力や周囲に働きかける力、情報把握力が高まったという声が聞かれました。

また、当社でも世代間ギャップについての悩みをかかえる社員は少なくありません。シブリングス制度によって最近の新入社員の仕事に対する価値観を身近に感じ、さまざまなコミュニケーションを通じて世代間ギャップの解消にも繋がっていると感じます。お互いに理解を深めて長期的に働きやすい環境を作る手助けになれば嬉しいです。

シブリングス制度で「ナナメの繋がり」を早期に形成

— いま「お互いに」という言葉がありました。新入社員にとっても上の世代を理解するいい機会になりそうですね。

三浦:上の世代を理解するという意味では、1人のシブリングスを通じて世代を理解するという以外にも「ナナメの繋がり」を形成する機会になっています。

シブリングス制度では懇親会1回につき1人5,000円の補助を会社から出しています。
これには1ペアで利用しなくてはいけないという縛りは設けていません。他のシブリングスが一緒でもいいですし、補助には上限がありますがシブリングス制度に参加していない社員を交えてもよいという仕組みです。

この仕組みによって、業務のなかでなかなか交わることのない他部署の上司や先輩との繋がり、つまり「ナナメの繋がり」を作ることができ、広い人的ネットワークの形成を手助けしています。

— 現場で人と人が部署を越えた交流機会を持つことは、会社にとってもメリットがありそうですね。

三浦:我々のような製造業は、ビジネスの構造上生産部門や営業部門など縦割りの仕事の進め方になってしまいがちです。ともすれば、「隣の部署がなにをやっているか知らない」という状況にもなりえます。

シブリングス制度を始めてもう10年以上になりますが、ここで形成された「ナナメの繋がり」によって社内の人的ネットワークが多様になり、他業務を担当している部署との連携もしやすくなりました。

— そうした成果を知るためには、シブリングス制度に参加した社員の声を拾うことも重要ですね。

三浦:現在は参加社員へのアンケートを中心に効果検証と改善を図っており、合わせてシブリングス制度の期間中は会社としてのフォローの観点から情報交換の面談もおこなっています。先輩社員側はシブリングスとして担当した新入社員の上長が、新入社員側は人事が面談をおこなう仕組みです。

ただし、「なにを報告して、なにを報告しないか」はシブリングス双方の合意のもとで決定できる仕組みも同時に取り入れています。「悩み事を相談しても、結局は会社に知られてしまう」という状態ではコミュニケーションの活性化は図れません。心理的安全性を確保して制度が形骸化しないように気をつけています。

制度を作るだけではない コミュニケーションを生む仕組み

— おっしゃるように、シブリングス制度(メンター制度)が形骸化してしまってあまり効果を上げられないという場合も多いようです。心理的安全性というお話しもありましたが、他になにか秘訣はありますか?

三浦:「受け継ぐもの」という意識を大切にしています。

面談によって制度をアップデートさせていくことはもちろん、シブリングス制度の最後におこなうラップアップ研修では、次のシブリングスたちに向けてのアドバイスを話しあってもらっているんです。そして、それが「虎の巻」として、毎年すこしずつ充実させながら受け継がれています。

そうすることで、「前の世代から受け継いだもの」という意識が芽生え、制度に参加する社員一人ひとりが自分事として取り組めるようになっています。

中村 めぐみさん(以下、中村):加えて、ペアリングにはかなり注意を払っています。
単に「異なるラインの社員同士」でペアリングするだけでなく、事前アンケートをもとに「話し好きと聞き上手」や「懇親会でお酒を飲みたい人同士」を組み合わせるといった工夫をこらしています。
細かなことですが、制度を機能させるためには重要な気配りです。

三浦:要するに、シブリングス制度に期待するものが合致する人同士を組み合わせることで、参加した誰にとっても有意義なものにすることが大切なのだと思います。

そして、先ほどお話しした「受け継ぐ」ことと、「自分にとって役に立たった・助かった」という体験がセットになることにより、シブリングス制度に新入社員側で参加した社員がいつか先輩側で参加したとき、より積極的になってくれることを期待しています。

— なるほど。そうして質を高めることで形骸化を防いでいるんですね。

三浦:はい。もちろん質も大切なのですが、一方で当社が取り組んでいるコミュニケーションの活性化施策では、「質より量」を重視しているものもあります。

制度として「質」を高める努力はする前提で、コミュニケーションの量を確保することもまた重要だと考えているからです。

中村:その代表が、シブリングス制度期間中に2回実施される「コミュニケーション月間」です。

これは、シブリングスのペア両者にスタンプカードを渡し、1か月の間に挨拶程度でもコミュニケーションをとったらお互いにスタンプを押し合うものです。1か月で最低5個のスタンプを目標に、10個たまったらスティックコーヒーなどちょっとした景品をお渡ししています。

三浦:挨拶だけであってもスタンプは押せますが、1か月に5回も10回もただ挨拶だけをするというのは意外と困難なことですし、だんだんと相手に対する信頼や好感が育っていき、ちょっとした世間話や相談事のきっかけになっていきます。

つまり、「単純接触効果」ですね。人はコミュニケーションの回数が増えれば増えるほど、その相手に対して好感を持つもので、それが結果としてコミュニケーションの「質」にも寄与すると考えています。

— 「質より量」を実践することで結果として「質」が高まっていく。大変興味深いお話です。

手厚い研修プログラムで「キャリアを見える化」

— シブリングス制度以外で、社員の定着に寄与していると考えている施策はありますか?

三浦:研修プログラムは、かなり充実させています。階層別研修・後輩育成研修・公募制研修・自己啓発研修と大きく4つのカテゴリに分かれた教育体系を3年ほどかけて組み立て、それを社員にすべて公開しているんです。

たとえば教育体系の軸となる階層別研修は、階層別の能力要件にもとづき1年目では新入社員研修や配属前研修で社会人としての基礎を学び、その後は年次を重ねるにつれて組織をより広い視野で見ながらリードできる人材になるための研修内容へと移り変わっていきます。

それらがすべて公開され、いつ、どのような研修を受けるのかが入社した時点でわかっているので、新入社員にとってはもちろん、今いる社員にとっても今後のキャリアで自身に求められているもの、身につけるべきスキルが見えています。

短期的な目標と長期的な目標を同時に持つことができ、今と将来にわたってのモチベーション維持に寄与していると思います。

— 研修プログラムはどのような意図を持って組まれているのでしょうか?

三浦:全社員に必須のものと選抜された社員が受けるものがありますが、根底には「お客さまに最後まで寄り添い、トラブルがあっても泥臭く諦めない」というOMORI Spiritsを継承するという意図があります。

そのために必要な「対人スキル」「思考力」「仕事の姿勢」を研修で、経験や専門性を現場のOJTで学んでいくスタイルです。

中村:そのほかに、社員が希望すれば受けられる通信教育も用意しています。受講は任意ですが、自己啓発の一環として取り入れています。
語学や専門知識など実務でも役立つものは全額を、その他の講座は半額を会社の負担で受けられます。

三浦:当社は海外拠点もあり、今後はグローバル展開もより力強く進めていきたいタイミングです。とくに語学系講座は積極的に受けてほしいと思っているのですが、実際に人気もありますね。

— それは、会社の進む方向を社員が感じ取っている証ではないでしょうか。

三浦:そうかもしれません。研修プログラムは単に社員のスキルを伸ばして生産性を上げるだけでなく、キャリアの見える化、ひいては経営方針の見える化にも寄与します。

それが安心して働き、未来に希望を持てる環境作りに繋がればなによりです。

— コミュニケーションの活性化とキャリアの見える化が御社の定着率の高さの理由であることがわかりました。本日はありがとうございました。


<プロフィール>
三浦美保 さん
大森機械工業株式会社 管理本部 人事総務部 人事課
新卒で総合化学メーカーに就職、出産とともに退職した後、在宅や業務委託、派遣社員などさまざまなキャリアのあり方を経験し、2016年より同社で社員の育成・教育を担当。人事業務は同社にて初めて経験。

中村めぐみ さん
大森機械工業株式会社 管理本部 人事総務部 人事課
2018年より同社に派遣社員として入社後、2021年より正社員となり現職。

※記事の内容および所属は2023年9月取材当時のものです。

監修者プロフィール沓澤 駿介(くつざわ しゅんすけ)
2020年に株式会社マイナビへ入社。 入社後、一貫して研修サービス・タレントマネジメントの提案営業に従事。 「採用、配置、育成・定着、活躍」といった、HRMプロセスをバックグラウンドに、 日本全国の企業様に向け支援を継続中。
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