アルバイトの45.5%が『キャリア不安』を抱えている今、企業がやるべきこと――正社員登用と“育成×リスキリング”

1. はじめに
日本の労働市場では、生産年齢人口の減少や採用難が深刻化し、企業における人材の持続確保がこれまで以上に難しくなっています。そのため近年は、アルバイト・パートから正社員に登用し、戦力として育成・定着させる取り組みが注目されています。
実際、マイナビ「アルバイト採用活動に関する企業調査(2024年)」では、「人材確保のための施策」として、正社員(限定社員含む)登用制度を導入した企業は、2020年は1割台でしたが、2021年以降は2割台で推移しています。従来の“採用して補充する”採用戦略から、“育成して定着させる”という人材戦略へと転換する必要性が高まっているといえるでしょう。
本記事では、アルバイト・パート9,000名を対象としたマイナビの「アルバイト就業者調査(2025年)」をもとに、キャリア不安の背景、リスキリング(学び直し)の現状、正社員登用を後押しする教育体制のポイントを整理します。採用担当者が「正社員登用を成功させるために何をすべきか」を、具体的に解説します。

※1.参考:厚生労働省「雇用動向調査」
※2.参考:マイナビ「アルバイト採用活動に関する企業調査 2024年」p.39
2. アルバイト就業者のキャリア観・就業意識
アルバイト就業者は、将来の働き方やキャリアをどのように捉えているのでしょうか。マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」の結果を確認します。
45.5%が「今後のキャリアに不安がある」:理由は「経済不安」「自信のなさ」が上位
調査では、アルバイト就業者のうち45.5%が「今後のキャリアに不安がある」と回答しました。さらに、39.7%が「希望通りのキャリアを歩めていない」と感じており、将来設計に不確実さを抱える層が一定数いることがわかります。(※3)
なお、不安の理由として、次の回答が上位に上がりました。(※4)
- ・今の経済状況が不安定だから(51.8%)
- ・自分に自信が持てないから(46.2%)
- ・自分の健康問題や体力に不安があるから(34.5%)
これらの結果から、キャリア不安の背景には、生活基盤への不安に加え、自己評価の低さや将来の見通しにくさがあると考えられます。
※3.参考:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.51
※4.参考:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.73
本来正社員を希望していた人は23.9%、20代では4割超え
アルバイト就業者が当初希望していた働き方としては「フルタイム正社員」が23.9%でした。年代別に見ると、中でも20代では「フルタイム正社員」を希望していた割合は41.4%にのぼり、若年層ほど正社員志向が強い傾向がうかがえます。(※5)

※5.引用:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.51
一方で、正社員を希望しながらアルバイトとして働く理由としては、次の回答が多く挙がりました。
- ・正社員になりたくてもなれないから(29.9%)
- ・フルタイムで働けない(働く時間の制限がある)から(23.5%)
- ・自分にできそうな正社員の募集がない(少ない)から(22.5%)
男女別で見ると、男性は「正社員になりたくてもなれない」と感じる割合が42.0%と高く、女性は「働ける時間に制限があるためフルタイム勤務が難しい」という回答が28.5%で最多でした。(※6)

※6.引用:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.52
一方で、アルバイトを続ける前向きな理由としては、以下の通り環境に対する満足度が一定数存在しています。(※7)
- ・自分のペースで働けること(43.5%)
- ・ストレスのなさ(少なさ)(35.7%)
- ・休みやすさ(33.2%)
この結果から、アルバイト就業者が重視しているのは「雇用形態」そのものよりも、柔軟性や心理的負担の少なさ、生活との両立のしやすさであることが読み取れます。言い換えれば、勤務時間・シフト・休みやすさといった条件を担保したうえで正社員登用の道筋を示せれば、正社員を希望する人はさらに増える可能性が高いでしょう。
※7.参考:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.54
正社員を希望しない背景は「負担が増える不安」
正社員登用を希望しない理由には、「正社員の仕事より楽だから(14.4%)」「正社員の仕事より簡単だから(10.3%)」が挙がりました。(※8) 裏を返せば、正社員登用をためらう背景には「責任や業務負荷が増えそう」「求められる水準が上がりそう」といった不安があると捉えられます。
職場のサポート体制や研修制度、相談しやすい環境が整えば、正社員になることへの心理的ハードルは下がり、不安を抱える層にも前向きな変化をもたらす可能性があります。まずはスタッフのキャリア意識を把握し、登用・育成の設計につなげることが重要です。
※8.参考:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.52
- ・アルバイト就業者の45.5%がキャリア不安を感じており、39.7%が「希望通りのキャリアではない」と感じている。
- ・不安の背景は「経済状況(51.8%)」「自信のなさ(46.2%)」「健康・体力(34.5%)」など生活基盤と自己評価にある。
- ・本来正社員を希望していた人は全体で23.9%。10〜20代は4割を超える。登用を進めるには「柔軟な働き方」「サポート体制」で心理的ハードルを下げることが重要。
3. リスキリングの現状と正社員登用の可能性
アルバイト就業者のキャリア形成を考えるうえで、「リスキリング(学び直し)」は欠かせないテーマです。マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」では、リスキリングの必要性を感じている人が36.9%にのぼり、特に20代・30代の若年層ほど「学び直しが必要」と捉える傾向が見られました。
一方で、実際にリスキリングに取り組めている人は全体の21.1%にとどまっており、意識と行動の間にギャップがあることがわかります。(※9)取り組めていない理由として最も多かったのは、「費用負担が重いから(17.6%)」となりました。(※10)
パート・アルバイトは時給制であるケースが多く、学習に回せる余剰資金が限られやすいことに加え、業務時間内に学習時間を確保しづらいことも背景にあります。その結果、学び直しが“投資”というより“負担”として認識されやすい状況がうかがえます。
リスキリングに取り組む人は成長志向が高い
リスキリングに取り組む理由を見ると、「自己成長のため」が43.5%で最も高く、学び直しに積極的な層ほど成長志向が強いことがわかります。さらに、次のような前向きな動機も多く挙げられました。(※11)
- ・収入を増やしたいから(38.1%)
- ・将来の不安に備えるため(34.3%)
- ・自分ができる仕事の幅を広げたいから(33.3%)
これらの結果から、アルバイト・パートで働く人には「成長したい」「将来に備えたい」という意欲がある一方で、費用や時間などの制約によって実行に移しづらい実態がうかがえます。言い換えれば、企業側が費用負担の軽減や学習機会の提供といった環境整備を行えば、リスキリングに前向きに取り組む人が増える可能性があります。
また、調査によると、フリーター層で正社員化へ向けた“自己研鑽の必要を感じている”割合は38.2%でした。(※12) この割合は、企業側の適切な支援があればスキルを伸ばし、正社員として活躍できる人材が一定数存在することを示唆しています。したがって、「正社員登用」と「リスキリング支援」をセットで設計・運用することは、本人の意欲を後押しし、戦力化を早めるうえで有効だといえるでしょう。
企業で準備しておくべきこと
リスキリング支援は、単なる教育制度の整備にとどまらず、「正社員登用の候補者(母集団)を増やす」ための有効な施策です。
-
施策例
- ・動画教材/簡易マニュアルで基礎を標準化する
- ・売上管理、シフト作成などの責任者業務を体験させる
- ・資格取得や外部研修の費用を補助する
- ・社内eラーニングで「いつでも学べる環境」を整える
学び直しに取り組むスタッフは、相対的に意欲が高い傾向があります。こうした層を早い段階で見極め、登用候補として育成することは、人手不足の時代において非常に合理的な投資です。
このようにリスキリング支援は、登用候補者の発掘・育成を後押しし、正社員化後も成長し続けるための土台になります。結果として、現場の自走度が高まり、サービス品質や生産性の向上にもつながっていきます。

※9.引用:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.62

※10.引用:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.69

※11.引用:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.64
※12.参考:マイナビ「アルバイト就業者調査(2025年)」p.62
- ・リスキリングの必要性を感じる人は36.9%いる一方、実際に取り組めている人は全体の21.1%にとどまる。
- ・未実施の最大要因は「費用負担(17.6%)」で、金銭・時間の壁が行動を阻んでいる。
- ・リスキリングに取り組む動機は前向きで、「自己成長(43.5%)」「収入増(38.1%)」「将来不安への備え(34.3%)」などが上位。企業が支援すれば登用候補の母集団を増やせる。
4. 調査から読み解く示唆
続いて、今回の調査データからわかった、正社員登用を軸にした人材戦略を成功させるためのポイントを4つ紹介します。
①採用段階から“正社員登用のあり方”を見えるようにしておくことの重要性
求人票に「正社員登用あり」と記載するだけでは、応募者には詳しい内容が十分に伝わりません。以下のような具体的な情報を提示することで、応募者の期待値を適切にコントロールできます。
- ・どのような基準を満たせば登用されるのか
- ・どのくらいの期間でチャンスがあるのか
- ・実際に登用された人はどのようなステップを踏んだのか
②入社後の育成設計が登用成功の成否を分ける
入社後の育成をどう設計するかは、正社員登用を「制度」で終わらせず「実績」につなげるうえで重要な分岐点になります。マイナビ「アルバイト採用活動に関する企業調査(2024年)」によると、直近一年で実際に正社員登用があった企業の多くは、教育・研修制度の強化に積極的に取り組んでいます。研修・教育施策を実施している企業と実施していない企業を比べると、正社員登用があった企業のほうが、教育強化が17.0ポイント高いという結果でした。(※13)
教育強化の内容を詳しく見ると、「業務マニュアルがあり、活用している(30.2%)」「教育担当をつける(30.1%)」「ステップアップのための研修を実施(20.9%)」など、比較的取り組みやすい施策が中心になっています。(※14)
つまり、登用を増やすには「登用制度を用意する」だけでなく、入社後に成長できる導線(標準化・伴走・段階的な研修)をセットで整えることが鍵になります。

※13.引用:マイナビ「アルバイト採用活動に関する企業調査 2024年」p44
※14.参考:マイナビ「アルバイト採用活動に関する企業調査 2024年」p50
③登用後の定着を左右する「マインドセットの転換支援」
アルバイトから正社員になる際は、求められる役割や責任、評価の観点が大きく変わります。だからこそ、その変化を事前に丁寧に共有し、本人と企業の双方が納得したうえで業務を進めることが、登用後のミスマッチを防ぎ、定着率の改善につながります。
たとえば、仕事の捉え方は次のように切り替わっていきます。
- ・「作業を正確にこなす」→「売上・顧客満足など事業成果から逆算して動く」
- ・「日次・週次で評価される」→「月次・年次など中長期で評価される」
この役割変化が十分に伝わっていない場合、登用後に「思っていた仕事と違う」「責任が急に重い」「こんなはずではなかった」と感じやすく、早期離職のリスクが高まります。
一方で、登用前から段階的に“正社員目線”に慣れる機会を用意できれば、ギャップは抑えられます。
- ・責任者業務の一部を体験させる(売上管理、シフト作成、後輩指導など)
- ・小さな成功体験を積ませる(任せる範囲を広げ、できた点を言語化して承認する)
- ・登用後の評価・期待役割を早めに提示する(何が変わり、何が求められるかを明文化)
あわせて、登用後のフィードバックは「正社員としての新しい役割と責任」に基づいた、中長期的な視点でのフィードバックを早期に行うことが重要です。これにより、本人の行動基準が揃い、登用後の立ち上がりと定着がスムーズになります。
④サポート体制の整備
その他、正社員に登用されたスタッフが相談しやすい環境を整えておくことも重要です。正社員になると求められるスピード感や判断の幅が広がりやすく、現場では「もう分かっている前提」で業務が進んでしまうケースもあります。しかし、職位が変わったからといって、思考の切り替えが即座に完了するわけではありません。
登用後の立ち上がりを支え、定着につなげるためには、意図的なフォロー設計が有効です。たとえば、次のような取り組みが挙げられます。
- ・定期的な1on1ミーティング
- ・キャリア面談
- ・登用後のリスキリング支援体制(正社員登用の後押しとしても効果的)
こうしたサポート体制をあらかじめ用意しておくことで、登用後の「分からないが聞けない」「成果が出ず自信を失う」といった離職要因を減らし、戦力化までの期間短縮にもつながります。
- ・登用を成功させるには、採用段階から「基準・期間・事例」を明示して期待値を揃える。
- ・入社後は育成設計が鍵。登用実績がある企業ほど教育強化が進んでいる。
- ・登用後は役割変化を前提に「マインドセット転換」を支援し、定着のギャップを減らす。
- ・相談しやすい環境(1on1、面談、登用後の学び支援)を整え、離職リスクを下げる。
5. まとめ・今後の展望
マイナビの調査によると、正社員登用が実際に行われている企業ほど教育・研修制度の強化に積極的であり、マニュアル整備やステップアップ研修の有無が登用数と連動しています。
また、リスキリングにより学び続ける文化を企業内に根づかせることは、正社員登用後の自律的な行動や、組織成果への貢献を促す効果的な手段となります。採用段階で魅力的に映る制度も、入社後の育成やフォローが伴わなければ本来の効果は発揮されません。逆に、登用後のフォローだけが強い企業も、意欲ある人材を採用段階で取りこぼしてしまいます。
現場においても小さな取り組みから始めることで、従業員の意欲向上や、チームの雰囲気づくりにつながります。まずは“登用の基準・期間・事例”を求人票に明記し、入社1カ月以内の研修設計を見直すことから始めましょう。
※この記事はナレビからの転載です。
ナレビの記事はこちら
<監修者プロフィール>
株式会社Human Creation 代表取締役
山川 勇之丈
企業向けに、新卒研修・幹部研修・MVV策定研修などを実施している、株式会社Human Creationの代表取締役。2014年、新卒にてIKKHD(東証一部上場)に入社し、7年間在籍。最年少で支配人、総支配人、全支店営業統括、人事責任者を務め、さまざまな研修教育を担当した。2022年に株式会社Human Creationを創業し、新卒採用や内定者育成などに特化した採用支援サービスを提供する。現在はプライム上場企業からスタートアップ、地方、老舗企業と幅広いクライアントの支援を行っている。

















