コンピテンシーとは?人事評価採用面接で活用するポイントを解説
「コンピテンシー」とは、業務において成果をあげている人に共通する行動特性を指し、人事評価や採用面接、人材育成、組織マネジメントなどさまざまなシーンでの活用が注目されています。事業に好影響をもたらす好業績者(以下、ハイパフォーマー)を見極め、評価し、育成していくために、コンピテンシーを理解し、取り入れていく必要性が高まっているのです。
本記事では、コンピテンシーの概要や歴史、混同しやすい言葉や、注目されている理由をお伝えします。あわせて、コンピテンシーの活用シーンや導入ステップについても解説します。
コンピテンシーとは
コンピテンシーとは「能力」「技能」などを意味します。人事評価で活用する際の特徴は、行動によって得られた結果ではなく、「行動の元となっている価値観や思考、性格」など、目に見えづらい要素を重要視する点です。
コンピテンシーのもととなったのは「氷山モデル」という考え方です。これは、水面上に浮かんでいるように見える氷山の表層部分(スキルや知識など可視化できる要素)の下には、目には見えない深層部分(動機や価値観、人格など可視化できない要素)が隠れていることを示したモデルです。表層部分に対して影響力をもっているのは、目に見えない深層部分であることが示されています。
これまでの基準では、スキルや学歴、保有する資格など個人の属性に目が向けられて、可視化できる部分での判断にとどまりがちでした。コンピテンシーでは、行動や結果に至った過程にも目を向けることができます。人事評価に活用する際に明確な基準を示すことが可能になり、人材採用や人事評価の効率化、自社にフィットした人材のマネジメントへつなげることができます。
日本では、人口減少による労働人口の不足やVUCA(ブーカ)時代への突入など、将来への不安が高まっています。今後は安定したマインドセットで、状況の変化に柔軟に対応できるハイパフォーマーが求められるでしょう。
コンピテンシーによって高いパフォーマンスで活躍する人材の要素を抽出し、評価・教育制度に活用することで、企業のパフォーマンスの向上も期待できます。
類似語として、組織全体の強みを指す場合は「コアコンピタンス」という言葉が用いられます。
コンピテンシーの歴史
コンピテンシーは、米国ハーバード大学のD・マクレランド教授が1970年代に行った研究をきっかけに、人事用語として用いられるようになりました。
研究は米国国務省からの依頼で、学歴や知能のレベルが同等である外交官の業績に差が付く理由を探るものでした。結果として「学歴や知能と業績の高さに顕著な相関関係はない」と結論づけられ、同時に、業績が高い外交官に共通する、特定の行動や思考パターンがあると認められたのです。
コンピテンシーが注目されている理由
もともとアメリカで注目されていたコンピテンシーですが、近年では日本のビジネスシーンでも注目されています。その背景には、労働人口が減少していることや、将来の予測が困難なVUCA時代に突入していることなどが挙げられます。
限られた人材で、環境の変化に対応しながらいかに企業を存続させるかが課題となっているなか、成果をあげられるハイパフォーマーを見極め、評価し、育成していくためにコンピテンシーが有効活用されるようになっています。
また、ハイパフォーマーがどのような行動・思考で成果をあげたかという過程を明確にして、ハイパフォーマー以外の人材育成に役立てることで、パフォーマンスが底上げされ、組織全体の生産性向上にもつながります。
コンピテンシー導入のメリット
コンピテンシーの活用シーンは多岐に渡りますが、ここでは人事評価、採用面接、人材育成、組織マネジメントに焦点をあてて解説します。
ハイパフォーマーをモデル化したコンピテンシーにもとづいた評価制度は「コンピテンシー評価」と呼ばれ、人事領域にさまざまなメリットをもたらします。
- ・人事評価の公平性や質が高まり、納得度の高い評価を示せる
- ・人材育成の効率性が高まる
- ・採用時のミスマッチを減らせる
- ・従業員のパフォーマンスがアップすることで全体の生産性が向上する
コンピテンシー評価では、これまでの人事評価で明確に示すことが難しかった「結果に至るプロセス」を、客観的な視点で抽出し評価することが可能です。業績を上げているハイパフォーマーの行動特性を分析した評価基準は、評価を受ける従業員にとって納得度が高く、自発的な行動改善にもつながります。
コンピテンシー導入のデメリットは?
コンピテンシー導入のデメリットは、時間や労力のコストがかかる点です。
モデルとなる従業員の選出から慎重に行う必要があるため、担当者を一人決めて任せれば良いというものでもありません。モデルを作成する前に、目的や方針をしっかりと固めておかなければならず、適した複数の従業員に協力を仰いで、広く公平な視点で取り組む必要があります。
また、コンピテンシーモデルは定期的な見直しと、状況の変化に合わせた改善を続けなければ有効に活用できません。
コンピテンシーの活用シーン
コンピテンシーの活用シーンは多岐に渡りますが、ここでは人事評価、採用面接、人材育成、組織マネジメントに焦点をあてて解説します。
人事評価
業務に対する意欲や積極性などは、評価者の主観に偏りやすい項目であり、自社に必要な能力を用いて成果を出したのかどうかを正確に評価することは難しいといえます。
コンピテンシーにもとづいて「ハイパフォーマーの思考に沿って行動していたか」といった観点で評価する方法は「コンピテンシー評価」と呼ばれ、曖昧さや評価者の主観をできるだけ低減した人事評価が可能となります。
採用面接
自社で活躍しているハイパフォーマーの行動特性をもとに、採用基準を設定することで、実際に入社後に活躍できる人材かどうかを判断しやすくなり、採用力の強化につながります。
たとえば、面接の際に、候補者が成果をあげた際のエピソードを深掘りし、実績にいたる行動の根底にどのような考え方や価値観があったのかをヒアリングすることも方法の一つです。ヒアリングした内容を自社のコンピテンシーと照らし合わせることで、候補者がどのような行動特性や判断基準をもっているかを把握しやすくなります。
人材育成
コンピテンシー評価は、職種や職務ごとに設定します。現場に則した基準を示すことができるため、評価を受けた従業員が自身に不足している能力を把握しやすくなり、目指すべき目標の再設定や取るべき行動の理解、スキルアップに対する意識向上をもたらします。
組織マネジメント
部署や職種によってもコンピテンシーは異なる場合があります。部署や職種ごとのコンピテンシーを明確にし、前述した「コンピテンシー評価」を社員に対して実施することで、社員の適性を判断でき、適切な配置などに役立ちます。適切な組織マネジメントにより、目標達成や成果の向上をはかることができます。
コンピテンシーを活用するステップ
コンピテンシーを導入して評価制度として活用する際は、5つのステップを踏まえて進めましょう。
1.モデルとなるハイパフォーマーへのヒアリング
コンピテンシーを導入したい部署や、導入する目的について明確にしたうえで、自社の業務で成果を生み出している従業員を選出して行動特性などをヒアリングします。
より詳細なコンピテンシーモデルを作成するためには、複数人へヒアリングして共通項を細かく分析していきましょう。
2.コンピテンシーモデルの作成
ハイパフォーマーたちの思考性や行動特性を明らかにしたのち、コンピテンシーモデルへの落とし込みを行います。コンピテンシーモデルは主に3つの種類に分類されます。
実在型モデル
実在型モデルとは、社内で成果をあげている人材をモデルにするものです。実態に即したモデルのため、納得度が高く、実用性があります。ただし、「個人の特性に寄りすぎていないか」「モデルとして再現性があり、他の社員も実行可能か」といった点の検討は必要です。
理想型モデル
理想型モデルとは、社内で求められる人材要件や、人員の状況などをもとに、理想の人物像を想像してモデル化したものです。
理想型モデルは、モデルとなる人物が社内にいない場合などに有効ですが、理想を高くしすぎて実現できないモデルにならないように調整が必要です。
ハイブリッド型モデル
ハイブリッド型モデルとは、先の実在型モデルと理想型モデルの両方を取り入れたモデルです。基本的には実在型モデルをベースとしますが、再現性が低い部分を汎用的なものに置き換えたり、モデルとして運用するには不足していると感じる能力の部分を理想で補ったりするなど、状況に応じてバランスのよいモデルを作ることができます。
3.評価項目の設定
作成した コンピテンシーモデルをベースに、評価項目を設定します。コンピテンシーには定義や定められたフォーマットがあるわけではありません。そのため一般的には、ライル・M・スペンサーとシグネ・M・スペンサーが提案した、「コンピテンシーディクショナリー(iCD)」が多く用いられています。
<コンピテンシーディクショナリーによるコンピテンシーの6領域>
- ・達成・行動
- ・援助・対人支援
- ・インパクト・対人影響力
- ・管理領域
- ・知的領域
- ・個人の効果性
各領域について、さらに項目分けした定義が用意されていますが、全てをコンピテンシーディクショナリーに従う必要はありません。自社の実態や状況に沿って、「成果に大きな影響を与えている項目」「他の社員でも実現可能そうな項目」など、取捨選択して設定しましょう。
4.コンピテンシーのレベル設定
評価項目を設定したのち、5段階程度に分けて項目ごとのレベルを設定します。細かくレベルを定めることで基準がより明確になり、採用面接や人事評価に活用しやすくなります。
レベル設定に必要な段階については、のちの「コンピテンシーのレベル設定」の項で詳しく紹介します。
5.コンピテンシーモデルの改善
ンピテンシーモデルを導入したのちは、定期的な見直しが必要です。評価に違和感がある、成果と結びつく実感が薄い、などの場合は実態とモデルの間にズレが生じているかもしれません。運用データを分析する、ハイパフォーマーをコンピテンシーモデルで評価するなどして、対象の評価が正しくできているかを確認しましょう。
コンピテンシーのレベル設定
レベル設定の5段階は以下のように示されています。
- レベル1(受動行動):指示されたことなら、その通りに行動するが、自発性に欠けている。
- レベル2(通常行動):自分の仕事をこなす意識があり、その状況において当たり前の行動をとるが、意図や工夫がない。
- レベル3(能動行動):知識や経験にもとづき選択し、主体的に行動をとれる。マニュアルに従うだけでなく、改善のために工夫できる。
- レベル4(創造行動):答えのない状況のなかでも、チームを巻き込み、達成に向けて工夫し、状況に変化を起こすことができる。
- レベル5(パラダイム転換行動):発想力に富み、独自性の高いアイデアを出して、組織を巻き込みながら大規模な変革を起こすことができる。
レベル1~3では、答えが用意されている状況において適切な行動をとることができますが、明確な答えがないような状況において、諦めてしまう傾向にあるといわれています。レベル4~5では、そのような状況においても諦めず、成果をあげるために工夫できる傾向があります。コンピテンシーの高さを判断するうえでは、レベル4以上を基準にするとよいでしょう。
コンピテンシーを取り入れて組織全体のパフォーマンス向上につなげる
コンピテンシーは、ハイパフォーマーに共通する行動特性を抽出したモデルを社全体で共有でき、組織全体の強みにつながります。採用面接時に生じやすい、面接官の主観による評価のバラつきも改善できます。
同時にいくつかの課題も含むため、コンピテンシー運用を成功させるために3つのポイントを意識しましょう。
- ・評価項目設定を適切に行うこと
- ・長期的な視点で運用すること
- ・運用開始後は定期的な見直しと改善を続けること
コンピテンシーは高い成果を生み出す人に共通する行動特性を抽出・分析することができ、ハイパフォーマーをモデル化した評価基準の導入によって人事領域にさまざまなメリットをもたらします。
一方、コンピテンシー評価の導入には、モデルや評価項目の作成、レベルの設定などに時間と労力がかかるといった課題もあります。長期的視野で運用し、見直しと改善を繰り返して企業の求める型を具体的に示し、組織全体のパフォーマンス向上につなげましょう 。