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VUCA時代の人事管理手法とは?〜タレントマネジメントの理論と実践〜

2021年07月07日更新


法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴氏(右)
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 統括部長 / HR Trend Lab 所長 土屋 裕介(左)

近年、人事管理手法において「タレントマネジメント」が注目されています。タレントとはどのような人材を指すのか?従業員一人ひとりに注目し、その才能を育成し、企業のイノベーションにつなげるために必要なこととはなにか?

そこで今回は、法政大学大学院 政策創造研究科 教授の石山恒貴氏、株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 統括部長でHR Trend Lab 所長の土屋裕介氏にお話をうかがいました。タレントマネジメントの理論から実践までをご紹介します。

-Profile-
石山 恒貴氏
法政大学大学 院政策創造研究科 教授。一橋大学 社会学部卒業、産業能率大学大学院 経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院 政策創造研究科 博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。

土屋 裕介
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 統括部長 / HR Trend Lab 所長。大学卒業後、不動産会社の営業職を経て、国内大手コンサルタント会社入社。人材開発・組織開発の企画営業として、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入。2013年にマイナビ入社。マイナビ研修サービスの商品開発の責任者として、「ムビケーション研修シリーズ」「各種アセスメント」「ビジネスゲーム」「タレントマネジメントシステム crexta(クレクタ)」など人材開発・組織開発をサポートする商材の開発に従事。10年以上にわたり一貫してHR領域に携わる。

 

目次 【表示】

「タレントマネジメント」とはなにか?

――近年注目されているタレントマネジメントについて、どのようなものなのかをお二人の視点からお伺いできますか?

石山恒貴教授(以下、石山) タレントマネジメントの概念について、欧米のような幹部選抜のイメージや、個人の才能や能力をよりはっきりとさせることだと思われている方が多いと思います。それ自体は間違いではありませんが、タレントマネジメントとは大きく分けて二つだと思っています。

一つ目は、個人の才能に注目し、その才能をいかに開花させるか。変化が非常に激しく不確実になっている時代において、個人の才能を企業のイノベーションに繋げるという考えです。二つ目は、タレントが個人で活躍する、あるいはチームで活躍することを企業の競争戦略とどう結びつけるかです。この二つが大事なポイントだと思っています。

土屋裕介(以下、土屋) タレントマネジメントの定義は幅広いですが、平たく捉えると「適材適所が実現されていて、適時適量に人が配置されている状態」をどう作るかだと思っています。才能のある人が良いポジションに配置されることもそうですが、働いている全員が幸せな状況を作ることがタレントマネジメントの本質なのかと。言葉は硬いイメージがありますが、実は誰にとっても身近なものだと捉えています。

――今、「硬いイメージ」と言われたように、企業が取り入れる際、難しいイメージがあると思うのですが、いかがですか?

石山 そうですね。タレントマネジメントには、何か一つの絶対的な形があると思われていることが理由かと思います。例えば自社に取り入れるときに、この形だと合わないと決めてしまったり、少しでも外れると運用しにくかったりすると思ってしまうような。

土屋 たしかに複合していろいろなことを同時に進めることがタレントマネジメントには求められます。ただ、それは全部やらないとタレントマネジメントにならないということではないです。もし知見のある人事担当者が、人材の配置において適材適所を作り出せたら、それはタレントマネジメントだと思います。

適所適材の実現と、適時適量の人材配置を機械的にやらなければタレントマネジメントとは呼べないようなイメージが先行してしまい、導入しづらいと感じられているのだと思います。

タレントマネジメントは日本企業に浸透するのか

――タレントマネジメントを導入しづらいと感じている企業もあるということですね。

HR総研が実施した、タレントマネジメント推進に関する従業員規模別の意識調査では、「タレントマネジメントの推進が人事課題である」と答えている企業が多い結果となっています。いまなぜタレントマネジメントが注目されているのでしょうか? また、日本の企業に浸透するでしょうか?

石山 日本の人事の仕組みは、チームや個人で活躍することに強みがあります。これは良い仕組みなのですが、少しずつ変えなくてはいけない部分が出てきています。ではなにを変えるべきなのかで悩まれている方が多く、そこでタレントマネジメントが注目されはじめました。

ただし、日本の人事戦略においては「一つ絶対的な良いものがある」と思ってしまう傾向があります。成果による評価制度がうまくいかないと、次は能力によって評価するだとか、ジョブ型雇用にしなくてはいけないとか、完璧を求めすぎてしまいますが、完璧なものはありません。

なので、日本企業にタレントマネジメントが浸透するためには、完璧なタレントマネジメントがないことを理解して、いかにみんなで工夫していくかが重要ですね。

土屋 個別化がキーワードになると思います。例えば、研修や教育の世界でも個別化は進んでいます。良し悪しは別として、課長になれば課長研修、3年目の社員には3年目研修と、階層的にとらえて扱われることが多かったものが、この人にはこの研修、この人事施策というようにどんどん個別化されてきました。この個別化がタレントマネジメント浸透のポイントになってくると考えています。

石山 これまでは集団に対して研修や教育を施策と考えていればよかったことが、一人ひとりの強みを見て、その強みを伸ばしていくための施策に変える必要がある気がしますよね。

土屋 そうですね。多くのマネージャーとお話をする中でも、マネジメントのやり方を多種多様にできないことを悩んでいる方が多いです。たとえば飲み会で腹を割って話すこと以外で、部下の強みをどう理解して伸ばしていくのか、その感覚が薄いというお話をよくお聞きします。

石山 私のゼミでも飲み会はよく行いますが、引き出しがそれだけだとよくないですね。今は1on1を取り入れる企業が増えていますが、上司への指導が行き届いていないまま1on1を設定してしまうと、単に上司の説教時間が増えるだけになってしまいますから。個人の強みをどう見るか、非常に重要なことですね。

タレントとはどのような人材を指すのか?

――先ほどからお話に出ている、個別化にフォーカスしたいのですが、タレントとはどのような人材を指すのでしょうか? 生まれつき能力や才能に長けている、一部のスーパースターのイメージがあるのですが。

石山 タレントマネジメントにおいて一番議論になるのがタレントという言葉です。元はギリシャ時代の重さの単位であったり、新約聖書では貨幣の単位であったりなど、天から恵まれた財産のイメージからきています。それが中世くらいに天から恵まれた個人の才能となり、アスリートやミュージシャン、日本では芸能人を指す言葉になっています。ただ、世界を見ると努力して才能を開発していく人とも言われます。

ですので、天から与えられた強みであっても、努力して伸ばしていく必要がある。つまり、私は誰もがタレントであると思っています。

土屋 一部のスーパースターだけがタレントであると解釈されることは多いですよね。その中で、企業によってどう指定するか、誰をタレントとするかによっても変わってきます。

先日、タクシー会社の方とお話しする機会がありまして、「御社のタレントは誰ですか」とお伺いしてみたのですが、答えは幹部社員ではなく“英語がちょっと話せるドライバー“とのことでした!つまり、外国の方を案内できるタクシードライバーが何人いるのか、これが競争優位性になるということです。なので、なにを重視するかによって、誰がタレントになるかが変わってくる面白さがあります。

――タレントは育てることができるということでしょうか。

石山 そのあたりは議論の対象になると思います。与えられた才能という部分を強く見ると、外部採用を重視することになります。逆に才能を育てる部分を見ると、内部育成が重視されます。どちらかに100%振り切れる企業はおそらくありませんから、バランスをどこかで見なくてはいけません。

自社のタレントの強みはなにか、才能系か努力系かを、非常に難しいですが、時間をかけて議論することで競争優位性につながると思います。

タレントマネジメントが企業と従業員にもたらすメリットとは

――タレントマネジメントを実施するとどんなメリットがあるでしょうか?

石山 適材適所、適所適材が守られる。もっと単純に言うと働く人が幸せになることです。

タレントマネジメントによって、企業が求めるポジションに対し、個人の強みを見て誰に活躍してもらうか、誰のどこを能力開発すべきかが明確になります。個人が強みを明確に発揮できることで上司との話し合いも増えてきます。当然やりがいにもつながりますから、幸福度が上がるマネジメントと言えます。企業としても能力開発における無駄がなくなりますから、競争力が上がります。

本当にそんなにうまく行くのかと突っ込まれそうですが、基本的にはこれがこれまでの人事施策との違いだと考えています。

土屋 私が考えるタレントマネジメントのメリットは、エンゲージメントが上がる取り組みになることですね。タレントマネジメントが個人に最適化された状況、環境を企業が作ってあげることだとすると、10人に対しての施策よりも自分1人に対してとってくれた施策の方が嬉しいはずです。従業員がこういった幸せな状況で働けることが、企業の力に繋がってくるかと。

もちろんすぐに業績に繋がることが理想ですが、このあたりは私どもマイナビも、タレントマネジメントを実施しながら、企業と成果の連動を図っていくところです。

石山 ただし、これまでのマネジメントスタイルに負荷をかけるものでもあります。上司のみならず、人事部にも負荷がかかります。これまでの集団で見ていたような、真面目で大きなミスをしない人を選抜していくマネジメントの方が時間はかかりません。しかしタレントマネジメントの場合は、個人が強みを発揮しているかどうか、適所に合わせて能力開発すべきかを判断する必要があります。

さらに上司だけでなく会社全体で取り組むマネジメントであり、当然ながら経営陣にも負荷がかかるものです。やるからには相当の時間をかける意思決定ができないと辛いですね。

土屋 そうですね。会社全体で取り組む風土があるのか、取り組む中で風土ができていくのか。どちらが先ではないですが、強い意志がないとタレントマネジメントの成功は難しいと思います。しかし、経営陣や人事に負荷をかけてでも得られるメリットの方が大きいので実施すべきというのが私の考えです。

タレントマネジメントの具体的な手法と成功へのポイントは

――タレントマネジメントを行う上で、具体的にはどのようなことから始めるべきでしょうか?

土屋 まずは従業員一人ひとりの情報を可視化することが初手になります。簡単に言えば、個人の給与情報や勤務時間、そして評価などの点在している情報を集めることです。一人ひとりがどのような状況であるとか、あるいはどんなパーソナリティを持っているのかを把握するためです。まずはここから始めるのがよいかと。

エクセルなどでまとめるのもよいですが、どうしても作業が煩雑になりますので、タレントマネジメントシステムを導入される企業が多いですね。私どもマイナビも商品として売り出した理由の一つです。

――新たにタレントマネジメントシステムを導入するにあたり、どういったハードルが考えられますか?

土屋 大きく二つだと思っています。一つ目は、やはり人事の方の手間が増えることです。システムで簡単になっているとはいえ、データを一つ一つ入力していく作業は大きな負担になります。

二つ目は、従業員の方の手間です。データを集めるためにアンケートを取ることが必要になりますから。答えてもらう難しさもここにはあります。さらにこの二つを越えた先に、集まったデータを利活用するハードルがあるということですね。

石山 よくある問題としてはタレントマネジメントシステムと他のシステムの兼ね合いがうまくいっていない、というものです。よく見られるのが、タレントマネジメントシステムを人材育成では活用しているけれど、待遇面においては給与システムとの関係が複雑で使えていないというものです。こうなるとシステムが二元化し、かえって大変なことになります。

土屋 やはり日本の人事部門には縦割りのところがあるかなと思いますので、育成面と待遇面、二つの連携がタレントマネジメントシステムをうまく活用するポイントになりますね。

――日本企業においてのタレントマネジメントの浸透と、成功への鍵はなんでしょうか?

石山 これまでの人事管理はどちらかと言えば適材適所よりも、緩やかに時間をかけて評価するような、タレントマネジメントの考えと違うところがありました。自社にとってのタレントとはなにかの議論と、それに合わせて能力開発していくところが少し弱かったのではないかと。ですので、人事部と経営陣が密接に話をして、事業戦略からポジションごとに求める人材像と、成果責任、開発すべきスキルを明確にしていく必要があります。

例えば、配送業であれば物を移動させるだけでなく、どれだけ短時間で運べるかに加え、お客様とのコミュニケーションで満足度を高められる人をタレントとすることです。それはどんな人であるかを把握し、そしてどう育成していくかを考える。これらについて時間をかけて議論することです。これらをタレントマネジメントシステムで可視化して、個別の育成プランを作っていく流れができるかどうかではないでしょうか。

――最後に、タレントマネジメントを検討している方にメッセージをお願いします。

土屋 タレントマネジメントには難しいイメージがついてしまっているのですが、始められることはたくさんあります。企業にも従業員にもメリットがあることなので、今回のお話で少しでもご理解をいただき、よろしければ我々の書籍でさらに理解を深めていただいて、ぜひできることから実践いただけたらと思います。

石山 タレントという言葉が日本語ではうまく訳せず、ゴツゴツとして難しく感じたり、逆にわかった気になってしまったりしがちです。しかし、もっと身近なものと捉えて、自分たちがうまく使うにはどうすべきか、自分たちにとってのタレントとは何か、もっと話し合う機会が増えることを期待しています。

――一人ひとりを可視化し、自社におけるタレントがなにかを議論しながら施策を実施していく。タレントマネジメントが企業の人事戦略、成長に大きく関わってくることがよくわかりました。

本日はありがとうございました

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