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企業を強くする組織開発とは?目的や実施のプロセス、代表的な手法を解説

2023年08月02日更新

企業の組織開発とは、組織や組織間の問題にアプローチし、組織をよりよくしていく取り組みのことを指します。就業形態や働く価値観が多様化した現代、組織内の人や部署間のつながりを強化し、活性化するための組織開発が注目されています。組織の課題解決や仕組みの整備などに携わる人事担当者が押さえておくべき知識のひとつでしょう。

ここでは組織開発の目的や人材開発との違い、実施のプロセスと代表的な手法について説明します。

目次 【表示】

企業における組織開発とは

組織開発(OD = Organization Development)とは、組織内の人と人の関係性や部署間の関係性へ働きかけ、組織を活性化し、組織全体のパフォーマンスを上げていく取り組みです。組織が抱えている問題を明らかにし、解決策を考え実行します。

企業における組織開発の目的

企業が組織開発に取り組む目的として、以下の点が挙げられます。

・従業員や部門を越えた業務推進によりシナジーが高まるような組織風土を醸成する
・組織のメンバー自ら課題解決に取り組む姿勢を持つ
・課題解決により、企業の生産性を上げる

組織開発とは、組織のパフォーマンスを最大化させるのが狙いです。組織の仕組みを改善することで、意思決定のスピードや生産性の向上、イノベーションの創出など、最終的に企業力強化につながるような組織づくりを目指します。

組織開発は「一度取り組んで終了」という簡単なものではありません。組織が成長し続けるよう、継続して取り組んでいきましょう。

組織開発と人材開発の違い

組織の力を高める「組織開発」と個人の力を高める「人材開発」は、どちらも企業にとって必要であり、両方に取り組むことで企業業績の向上に寄与します。以下では、それぞれの違いを解説していきます。

ターゲット・目的の違い

組織開発は、組織全体の機能や仕組み、人間関係、文化などの改善を目的としておこなわれます。組織全体に目を向け、よりよい組織文化の構築や生産性向上、組織の持続的な成長を目指すことが組織開発です。

一方で人材開発は、社員個人のスキルや知識の習得、モチベーションを上げることにより、一人ひとりの業務生産性の向上、ひいては組織全体の業績向上に寄与させることを目的としています。社員一人ひとりに目を向け、必要なスキルや能力を伸ばすことで、個人の成長を目指すのが人材開発です。

アプローチ方法の違い

組織開発と人材開発は、それぞれのターゲットや目的に違いがあることから、アプローチ方法も大きく異なります。

組織開発では、業務フローの改善や意識改革、組織内でのコミュニケーション改善、チーム内の関係性強化、組織構造の最適化といったアプローチをおこないます。

具体的には、社員の働く意欲を向上させるために評価制度や配属の検討方法を改善したり、異動者や新入社員の組織適応を早めるためのオンボーディングやチームビルディングをおこなったりする取り組みが組織開発にあたります。

一方で人材開発は、社内研修やキャリア開発、セミナー、OJTなどを通じて、社員が業務上必要な知識を直接習得するなど、個人の能力を向上させるアプローチをおこないます。たとえば、新入社員の社会人スキルを磨くために実施する研修などは、人材開発にあたります。

組織開発が注目されている背景

組織開発の手法は1950年頃にアメリカで誕生し、日本では1960年代に入ってから広まってきました。しかし、1990年代のバブル崩壊後の景気後退により、組織開発にかけるコストを捻出できない企業も増えたことから、組織開発の取り組みは下火となりました。

しかし近年、日本で再び組織開発が注目されています。その背景にはどのような理由があるのでしょうか。

1.組織の多様化

昨今、雇用の流動化が進み、終身雇用や年功序列が当たり前ではなくなっているほか、働き方も多様化しています。

柔軟な組織運営がおこなえない場合、人材の確保や従業員の定着に対応しづらく、業務に支障をきたすおそれもあるでしょう。具体的には、感染症拡大や大規模災害時にも対応できるリモートワークや、働き方改革による業務効率化など、不確実性の高い昨今でも柔軟な対応ができる施策が求められています。

また、多様な人材の活躍を促し、さらなる発展につなげていく「ダイバーシティ・マネジメント」が求められている現状もあります。

これらを実現するうえで、企業には柔軟な組織運営が求められており、そのための方法として組織開発が注目されているのです。

2.コミュニケーションの多様化

社内外のコミュニケーションにおいては、対面だけではなくオンラインのシーンも確立されてきました。オンラインでのコミュニケーションは、相手の細かい表情や仕草(ノンバーバルコミュニケーション)が確認しづらく、認識の齟齬や誤解が生じやすいという問題があります。

それに伴い、仕事の進め方やチーム間における連携の変化にもつねに対応していかなければなりません。具体的には、メンバー同士が発言を一方的に否定せず、互いを尊重しあえる「心理的安全性」を確保することでコミュニケーションがとりやすい環境をつくるなど、社員同士の関係性を深めていける組織開発が必要となるでしょう。

組織開発における6つのプロセス

組織開発を実践する場合、どのようなプロセスを踏んで実行に移していけばよいのでしょうか。6つのプロセスに分けて紹介します。

1.目指す組織の姿を明確にする

組織としてどのような状態になりたいのか、目指す姿を言語化します。「組織内で新しいアイデアを出すことを促進したい」「部署間のつながりを強化し協業体制を整えたい」など、目指す姿をメンバー間で共有できるように言語化することが、組織開発を成功させる第一歩です。

2.客観的事実にもとづき現状を把握する

目指す方向性に対する現状を整理します。経営陣や社員が「こう思っている」という印象だけに頼らず、社員への直接のヒアリングやアンケート、社員や組織のエンゲージメントの測定結果など、組織の状態を客観的事実から把握することが重要です。

事実やデータにもとづいて認識した現状に対して、目指す姿とのギャップから課題を精査します。

3.組織のメンバーを巻き込み組織開発の必要性を共有する

組織開発の主体は、その組織に属する個人です。そのため、課題解決に関係するメンバーを巻き込み、組織開発の必要性を見える場所に掲示しておくなど、つねに把握できるよう共有しておく必要があります。

4.スモールステップで実践する

組織開発は、研修のように数日で終了するものではありません。そのため、長期的視点を持ちつつ、小さな段階から実践を重ねることが重要です。はじめのうちは部門全体ではなく、小さなチームから成果を出し、その後徐々に全社に拡大するといったスモールスタートが有効です。

5.検証と実践を繰り返し、データを集める

実践をおこなうなかで、組織開発に効果を発揮する施策もあれば、効果が見られない施策も出てくることでしょう。そのため、実践前と実践後でどのような変化があったのかを検証し、データとして集めることが重要です。それをもとに改善すべき行動を繰り返すことが、組織開発を成功させる重要な要因となります。

6.現場の自律的な取り組みを支援する仕組みを整える

実践した施策の内容を社内の他部署でも導入できるように展開することが重要です。他部署のマネージャーや管理職クラスと施策の内容を共有することで、同じような取り組みを継続的に実施できる仕組みを整えることができます。

企業の組織開発における4つのアプローチと具体的な手法

組織開発の手法は、組織のどのカテゴリーの問題にアプローチするかによって、4つのタイプにわけられます。

1.企業戦略へのアプローチ

市場での優位性や今後の商品戦略といった、企業戦略のなかで生まれる課題へのアプローチを指します。AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)などで組織の強みを顕在化させる手法が有効です。また、ナレッジ・マネジメントで知見や体験を共有するなども、企業の競争力強化につながります。

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)とは、探求(インクワイアリー)によって社員の強み、さらには組織全体の強みを発見し、それらを効果的に発揮する仕組みを生み出すプロセスです。また、組織の強みに目を向け、強みを最大化させる狙いもあります。

「Discovery(発見)」「Dream(夢)」「Design(デザイン)」「Destiny(運命)」の「4Dサイクル」というプロセスを用いて、前向きな思考により改善を実現させます。

ナレッジ・マネジメント

仕事上で得た知見(ナレッジ)を、組織全体で共有し活用するための手法のことをいいます。全社でナレッジを共有することで、新たなアイデアが生まれる効果や、生産性の向上といった効果も期待できます。

ナレッジ・マネジメントでは、優秀な営業パーソンの商談スキルといった明文化されていない技能も共有できる点が特徴です。

リスキリング

リスキリングとは、「キャリアアップを目的として新たなスキルを身につけること」を指します。

リスキリングが求められる理由のひとつとして、経済産業省がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に関する施策をおこなっており、DXに対応するためにも社員にリスキリングが求められているという背景があります。実際に、DXに取り組んでいる企業は半数を超えるといわれています。

DXの目的は、ビジネスモデルや企業文化そのものを変革し、企業が競争上の優位を確立することです。社内にいる人材をDX人材へと育成することでDXを推進し、企業戦略の変革にも繋げられる可能性があることから、組織開発の手法としてリスキリングが注目されています。

2.組織構造へのアプローチ

企業における「部門ごとの役割」、「部門を超えた調整」、「仕事の進め方」といった組織の構造的な問題へのアプローチを指します。組織構造の問題解決に活用できる代表的な組織デザインとしては「マトリックス組織」や「ティール組織」などが挙げられます。

また、組織課題の現状調査・改善をおこなう手法である、サーベイ・フィードバックやファミリー・トレーニングなども構造へのアプローチに役立ちます。

サーベイ・フィードバック

組織調査によって職場の現状や課題を可視化し、それを職場のメンバーにフィードバックすることで、職場や組織の改善を図るのがサーベイ・フィードバックです。「現状を調査しただけ」、「結果をフィードバックしただけ」で終わらないためには、建設的な対話のためのルールを決めることが重要です。

たとえば、相手の意見に積極的に耳を傾ける、意見をいったんは受容するなどのルールが有効です。

ファミリー・トレーニング

企業全体、あるいは部署や部門単位でおこなう研修や訓練を指します。職場が抱える問題に焦点をあて、所属する組織全体の変革すべき点をメンバー全員で確認し、実行に移せる能力を育てることが目的です。

3.人材マネジメントへのアプローチ

社員のキャリアやモチベーションなど、人材マネジメントにかかわる幅広い問題への対応を指します。

報酬体系や評価制度の改善などが、代表的なアプローチです。また、部下と上司の対話を活性化し信頼関係を構築する1on1や、組織目標の達成に向けたキャリア開発のための研修や社員のメンタルヘルス改善なども含まれます。

サクセッションプラン

サクセッションプランは日本語で「後継者育成計画」ともよばれ、経営者や経営幹部の後継者を育成するための人材マネジメント手法です。自社の経営戦略を明確化したうえで、人材要件を設定し候補者を選出します。そのうえで、候補者ごとに育成計画に沿ってプランを策定し、実行していきます。

経営幹部の能力は企業の成長に大きく影響を及ぼすことから、企業を存続させ持続的に成長させていくためにもサクセッションプランは重要です。サクセッションプランは最低でも数年、長い場合には10年以上の長期にわたって取り組む必要があります。

1on1

1on1は、上司と部下が定期的に1対1で会話する機会を設けて、部下のエンゲージメント向上や能力開発のきっかけとするものです。

評価面談と混同されがちですが、評価面談は上司が部下に評価を伝えることがメインです。これに対し1on1は、日常会話と業務連絡の中間の機会として導入され、1on1で扱われる内容は業務内容のフィードバックや仕事の不安、キャリアへの見通しなど部下がそのとき抱えている話題というように多岐にわたります。

上司は部下の特性に沿ったサポートができ、部下は小さな気づきを得たり、困りごとを相談したりする場として機能します。

コーピング

コーピングとは、ストレス反応に対処するためにとる行動のことです。

慢性的にストレスを溜めこむと、精神疾患をはじめとしたメンタル不調に陥る可能性があります。ストレスによって休職者や退職者が増加すると、組織運営そのものに支障をきたすおそれもあるため、社員のストレスマネジメントやメンタルヘルスマネジメントの手法としてコーピングが活用されています。

4.組織のメンバーの関係性へのアプローチ

組織に所属するメンバー間(対人)の課題へのアプローチを指します。チームビルディングといった組織の力を高めるための手法が代表的です。ほかにも、コーチングなどヒューマンスキルを伸ばす研修も当てはまります。

チームビルディング

チーム全体のパフォーマンス向上のために効果的なメンバー関係の構築を目指す手法です。チームの目的を共有し、目的の達成にむけてメンバー間のサポートを強化する過程で、各メンバーの役割を明確化したり、円滑なコミュニケーション方法を開発したりします。

ゲームやアクティビティ、イベント、ワークショップなどの手法を用いてチームの動きを活発化させ、抱える問題を解決できる関係性の構築を目指すのがチームビルディングです。

アクション・ラーニング

アクション・ラーニングは、組織の「学習する力」を養成する手法です。グループで問題の解決策を話し合い、実行、振り返り(リフレクション)を通じて、個人の能力開発と、変化に対応できる組織を構築します。複雑な組織のなかでも、問題解決能力の高いチームを育てます。

コーチング

コーチングとは、トレーナーとトレーニーの1対1のコミュニケーションにより、主体的な目標達成を目指し、支援する人材育成方法です。

従来は個人の能力開発の手段として捉えられてきたコーチングですが、最近では組織開発の手段として活用されています。その理由として、コーチングはトレーニーのやる気を引き出す手法であると同時に、トレーニーに考えさせ、問いから気づきを引き出すことで個人や組織が抱える問題の解決につなげられるためです。

ティーチングと混同されることも多いですが、ティーチングはトレーナーからトレーニーに対して正しい知識やスキルを教える方法であり、トレーニーから気づきを引き出すコーチングとは異なります。

組織開発の成功事例

実際に組織開発を実践している企業では、どのような取り組みをおこなっているのか、いくつか成功事例を紹介しましょう。

社内SNSを活用しムーブメント型チームを形成

クラウド会計ソフトの開発を手掛けるfreee株式会社では、以下のようなカルチャーが浸透しています。

・公私・必要性の有無を問わず、情報を社内SNSで「あえて共有する」文化
・マネージャーは単なる役割の1つと位置づけることによるフラットな雰囲気の醸成

このようなカルチャーを大切にするために、freeeではトップダウン型ではなくお互いに信頼関係のあるメンバーが自律的にアクションを起こす「ムーブメント型チーム」の形成を目指しています。

ムーブメント型チームとは、なんらかの課題を感じたとき、そこに共感したフォロワーが現れて、社内で知見のある支援者を巻き込みながら、ムーブメントのようになって物事を解決していくチームのことを指します。

業務上わからないことが出たときも、メンバー全員が入っている「雑談部屋」や、エンジニアやセールスなど各部門の「質問部屋」に質問を投げかけることで、素早い対処に繋げています。

全社横断的に社員が交流できる仕組み

出張・経理管理サービスを提供する株式会社コンカーでは、全社横断の有志社員で構成された「文化づくり」に取り組むグループがあり、会社のためになる取り組みであれば誰でも改善に向けた活動ができる仕組みを取り入れています。

部門をまたいで社内グループを作る全社横断プロジェクトでは、以下のような取り組みを実施しています。

・1年に4回、季節行事の企画運営を担当
・参加型企画やスライドショーなどの掲示物で雑談スポットを作り、社員のコミュニケーションを促す
・新卒2年目の社員が、新卒生に向けて社会人の基礎をレクチャーする

また、社員同士のつながりを形成するために、コミュニケーションランチや、社員4~5人で一組となって活動する「バディ活動」も導入したことで、社員が働きがいを感じることができる文化の醸成に成功しています。

適材適所のタレントマネジメント

サイバーエージェントでは、人材を最大の経営資源と捉えたうえで、社員の情報を集約・分析し、そこから見出したタレントを適材適所に配置しています。

サイバーエージェントでは大前提として、「配置が人を育てる」という考え方をもっています。これは、下から積み上げるような育成プログラムを回すよりも、思い切った抜擢や新しいミッションを与えることが人の育成につながるという考えです。

しかし一方で、社員本人の理解や納得のないまま、一方的な辞令を出して異動させても良い効果が得られるとは限りません。そこで、異動する社員を選定する際には、必要な人材の要件などをもとに、まずはデータを参照して探し、そのうえで必ず本人とも話をするようにしています。

社員に対してどのような役割と期待をしているのかを明確に伝え、それを本人に理解してもらったうえでの異動によって、社員の才能を開花させ、組織や仕事に対する満足度の向上を実現し、人材の定着化につなげています。

企業の組織開発における人事の役割

組織開発とは、幅広い階層で組織の仕組みを改善することで、最終的に企業力強化につながる組織づくりを目指すものです。

組織開発において重要なのは、組織に属する人々が、自らが抱える課題や問題点に気づき改革のために取り組むことです。そして、その過程において制度や仕組みだけでなく、小さな成功体験の積み重ねにより人々の価値観が変わることで、組織開発は進んでいきます。

組織開発をおこなう過程において人事が果たすべき役割は、目指すべき組織の姿を、部署を越えてキーマンと共有することです。

また現場の実情を把握するために、社員に調査やインタビューを実施する、組織開発の事例としておこなったプロセスや結果をまとめ、ナレッジとして社内で共有するなど、組織開発のプロセスを活性化させる重要な役割も担います。

今回紹介した組織開発の成功事例では、メンバーの自律的なアクションを促すアプローチや、有志によって構成されたチームによる文化づくりのアプローチがありました。いずれも組織開発のキーとなっているのは組織に属するメンバーの主体性であることがわかります。

そのため、組織が目指すべき姿の共有を人事がサポートし、人々を巻き込むことで、改善を推し進めることができるでしょう。

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