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働きがいのある会社のカルチャーはどのように醸成されたのか?|freee株式会社様インタビュー

2020年01月17日更新

2019年版日本における「働きがいのある会社」中規模部門で4位にランクインしたfreee株式会社。公私・必要性の有無を問わず、情報は「あえて共有する」文化を形成したり、マネージャーは単なる役割の1つと位置づけて「ジャーマネ」と呼ぶフラットな雰囲気をつくったりすることで、メンバーの成長機会の創出につなげています。こうした強いカルチャーはどのように醸成されていったのでしょうか。株式会社マイナビHR Trend Lab所員が、freee株式会社のカルチャー推進部 部長 辻本祐佳さんにお話を伺いました。

目次 【表示】

全社員で「価値観」についてディスカッションを行う

――御社で強い文化が醸成されている背景には、カルチャー推進部の存在が大きいと思います。まずはカルチャー推進部の役割について教えてください。

辻本:なにをしているかというと、組織開発のジャーマネ向けのトレーニングやオフィスづくり、さらに、福利厚生関連業務や社内全体のイベント企画も私たちの仕事です。freeers(freeeで働く人たちの呼称)がジャーマネや会社に対してどう思っているかといった従業員のエンゲージメント調査を行って、ジャーマネにフィードバックしたり組織課題の解決に取り組んでいます。

なぜ、これだけ幅広い役割を担っているかというと、すべてがfreeeのカルチャーを強くするために必要な業務だからです。freeeはカルチャーに対する思い入れが強い会社です。「組織文化の強さが会社の強さにつながる」と考えているし、ユーザーにも「freeeの価値観が好きだからサービスを利用する」と言ってもらいたい。私たちカルチャー推進部は人事・総務機能も担っていますが、自分たちのことを「人事部・総務部」と呼びません。なぜなら、freeeのカルチャーを強くするために存在しているからです。

では、私たちのカルチャーの中心にある、大切にしている価値観はなにかというと、いちばんは「マジ価値を届けきる集団である」こと。「マジ価値」は「ユーザーにとっての本質的な価値」のことで、「お客様がほしいと言っているからプロダクトをつくる」ではなくて、「お客様にとっての本当の価値とはなんだろう?」を考えていく文化は創業時から根付いています。

この「マジ価値」を世の中により大きく、早く届けるために全員に求めているマインドは2つ。
1つは「社会の進化を担う責任感」。ポイントは「進化」で、freee全体で社会全体を前に推し進めていく、その進化を背負っているつもりで、一人ひとりが日々業務に取り組んでいってもらいたいと話しています。

もう1つが、お互いに信頼関係のあるメンバーが自律的にアクションを起こす「ムーブメント型チーム」の形成。当社はもともとトップダウン型組織ではないので、1つのことをおこなうにもきちんと理由があって、「上が言っているから」だけでは納得せず、進まないんですね。社内の誰かが「課題があるから、こういったことをやろう」となったときには、そこに共感したフォロワーが現れて、社内で知見のある支援者を巻き込みながら、ムーブメントのようになって物事を解決していくチームを目指しています。

――創業時から「マジ価値を届けきる集団」であることにコミットしていたのでしょうか?

辻本:2012年ごろ、社員数十人の時に原型となるものができたと聞いています。その後、数年間でメンバーの数が急拡大するなかであらためて、今後のfreeeを形づくっていく価値観、どういうものを大切にするべきか?を考えなおすことになりました。そのプロセスの中では、全社員を6人ずつのチームに分け、1時間かけて「freeeが今後生み出していくべきムーブメントとはなにか」をディスカッションするなど、社員全員で今後のfreeeを形作る価値観を共有し、その過程に加わってもらうことにこだわりました。

全メンバーが参加する社内SNSで些細なこともあえて共有する

――御社のメンバーは現在500人以上まで増えています。全員と価値観を共有するのは難しいと思いますが、全員が同じ方向に向かって邁進できる取り組みをされていたのですね。他に取り組んでいることはありますか?

辻本:たとえば、当社の場合、面接にきてくださった方にも価値観を共有しています。お客様にお出ししているお水のペットボトルをオリジナルで作成していて、そこにfreeeが大事にする考え方である「価値基準」を印刷しているので、それを見ながら話したりもします。価値観って正解や不正解があるわけではないので、「freeeはこのような価値観ですが、あなたはどうですか?」と伝え、「合いそうだったらぜひ入社してください」というようにしています。当社のメンバーはみんなfreeeの価値観を理解してジョインしてくれるので、ミスマッチが起こりにくいんです。

また、当社には「あえて共有(あえ共)」という文化が根付いていて。業務連絡だけでなく、チームの課題や、個人の考え、失敗経験やそこからの学びなどを社内SNSであえて共有しているんです。共有をおこなうことで、「私もそれ課題だと思っていたんですよ」というコミュニケーションが生まれたり、他のメンバーの経験が自分の学びにつながったり、思わぬ共通点を発見して新しいつながりが生まれたり、ということが起きています。

――すごいですね。実行レベルに落とし込むのは難しいことだと思います。たとえば課題に気づいたら「解決するために動きましょう」とすぐにアクションが起きるのでしょうか。

辻本:リアクションはすごく早いです。SNSなので、気軽にコメントができるんですね。「それって〇〇だよね」とその場で詳しそうな人にメンションすることもできるし、「これって前にAさんが検討していたけれど、小さいアクションで動かしてみようか」と行動につながることもあります。

一般的に、課題の抽出から打ち手の実行って結構遠いじゃないですか。でもコミュニケーションを可視化すると課題を発見しやすくなるし、行動にもつながりやすくなります。課題が改善されるパターンはいろいろあって、即断即決の場合もあるし、会議でじっくり話し合う場合もある。いずれにしても、アクションの一歩目が小さくなるので「あえ共」の文化には助けられています。

――課題の可視化もそうですけれど、メンバーが見ている場で合意を取りながら行動できるのがとてもいいですね。ちなみに、業務上わからないことが出たときなどは、みなさんどうしていますか?

辻本:そういった場合にも社内SNSを使います。全員入っている雑談部屋や、エンジニアやセールスなど各部門の質問部屋をはじめ、課題やプロジェクトごとに社内SNS内でグループがあるので、その中で質問したり。そこで頭出しをして、詳しい相談は直接話しかけに行ったり、ミーティングをセットしたり。ここでも「あえ共」の文化が役立っています。

――そのような文化は、どのような背景から生まれたのでしょうか。

辻本:創業社長の考えは大きいと思います。どういう人を船に乗せていくかを最初に決めたのは佐々木ですし、創業直後のメンバーが与える影響も大きかったと思います。

――たとえば、200人規模の会社に「freeeさんのようなカルチャーを目指したい」とアドバイスを求められたらどう返しますか?

辻本:カルチャーは「どれがいい」と言えるものではなく、そこにいる人たちで形成されているものです。数人でも形成されますし、200人規模になると、すでにその会社ならではの文化が芽生えていると思うので、freeeになろうとしても難しいと思います。ひとつアドバイスをするなら、まずは自分たちが自然と大切にしていることの言語化でしょうか。そのうえで、未来に向けてなにを伸ばしていきたいかを考えるべきだと思います。

――言語化のお話が出たのでお聞きしたいのですが、freeeは「マジ価値」とか「あえて共有」とか、独自のネーミングが多いと感じています。これらは硬くいうと、目標設定に近いものですよね。独自のネーミングがあることで生まれたマジックはありますか?

辻本:たしかに独自用語は多いですね。マジックと言えるほど具体的なものはありませんが、独自用語の場合、一般的な意味で理解することが難しく「どういうこと?」という引っかかりがあるので、理解しようとするプロセスを通して企業文化を醸成する役に立っていると思います。ほかにはシステムのバグを「ハッピー」、クレームを「ラッキー」と呼んでいます。それぞれ解決すればハッピーになれるし、だからラッキーですよねという意味合いで(笑)。言葉にはこだわっています。

「異質」を取り込み、イノベーションを起こす

――次にお伺いしたいのが、イノベーションが起こるタイミングです。私たちはさまざまな企業にお話を伺っていて、その中で感じているのが、異なる考えを持った人同士がぶつかり合うことこそイノベーションにつながりやすいのでは、ということ。単に、革新的な技術がイノベーションを起こしてくれるわけではないと思うのです。

たとえば、先ほどお伺いした社内SNSは異なる意見がぶつかる場なので、イノベーションが生まれやすいと思っています。辻本さんがfreeeに入社した2年間で、入社前と比べてまったく違う新しいサービスが出ましたとか、社内の取り組みがガラッと変わりました、というような事例はありますか?

辻本:大小、さまざまありますね。どの事例を見ていても、「こういう取り組みをしています」と発信した人に、「面白そうですね」と反応する人が現れて、「こういう取り組みがあるんですけど誰々さんどうですか?」と反応が連鎖していく点が共通しています。そういう点で、やはり社内SNSの存在は大きいです。

具体的な成果で言えば、あらゆる人が情報にアクセスできるWebアクセシビリティの向上です。たとえば当社が提供している「人事労務freee」アプリのiOS版では、視覚障がいがある方が使えるよう、文章を音声で読み上げる機能を実装しました。また、色覚障がいがある方でも使いやすいよう、プロダクトの配色を変更しています。

実装のきっかけは、あるUXデザイナーが入社し、全社ミーティングで「Webアクセシビリティ」についてプレゼンを行ったことですね。freeeは「スモールビジネスを、世界の主役に。」することをミッションとして掲げていて、そのためには「本当に“誰でも”使えるように、障がいがある人にも使いやすいプロダクトにしていくべき」という話をしていました。社内SNSにアクセシビリティを話し合うグループがつくられ、少しずつメンバー間で意識が醸成されてきています 。その後、全盲のエンジニアが入社したのですが、freeeは自社内での勤怠管理や経費精算に自社プロダクトを使っていることから、「同じチームで働くその人が使えること」と「プロダクトのエンドユーザーのアクセシビリティを実現すること」に強い相関が生まれ、実装に向けての動きが加速しています。

たとえばプロダクトの画面のデザインをする際、「色の識別がしづらい人に見えるか?」のチェックのため、社内の色覚障がいのメンバーを集めてカジュアルにレビュー会が開催されるようになったのです。

これはfreeeにとってすごく大事なイノベーションだと思います。アクセシビリティを改善しても即効的に売上に直結するわけではないですけれど、freeeが掲げている「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションと親和性がありますから。

「会社のあるべき姿」から逆算してメンバーを育成する

――続いて人事制度の特徴について聞かせてください。

辻本:freeeではメンバーの出せるインパクトの総和が、freee全体で創出できるインパクトの総和になるという考えを基盤に置いて、いわゆる人事評価制度は「インパクトレビュー」と呼んでいます。一人ひとりが成長して欲しいので、入社基準の1つとして「タケノコ人材」という言葉を設けているんです。「新卒も中途も、学んで成長する意欲があるかを見ますよ」という意味で、数ヶ月で数十メートル伸びるタケノコにあやかっています。

もちろん、本人の意欲や素質だけでなく、入社後の成長もフォローしていきます。なにが人の成長を促すかを考えた時に、私はアサインで伸びると考えています。ジャーマネであってもメンバーであっても、異動があった社員の社内SNSの発信を見ていると視座が上がっていることが多いんですね。

役割が変わることで、これまで自分の成果にコミットすることに一杯いっぱいだった人も、お客さんに目を向けるようになることあって。こういったことはアサインの影響が大きいと思っています。

もう1つ、私たちは「ジャーマネとメンバー」がいわゆる「上司と部下」として接するのはfreeeらしくないと考えています。ジャーマネはあくまで役割であって、偉いわけではない。メンバーをサポートして、チームとして成果を出すことをミッションと定義しています。

――メンバーの育成を考える際に、「長所を伸ばそう」ではなく、「弱点を克服させよう」というアプローチもあります。freeeでも行なっていますか?

辻本:もちろん、長所を伸ばす場合も、弱いところを伸ばす場合もあります。いずれにせよ大事なことは、会社の目標やあるべき姿から逆算して制度をつくることです。

私たちの場合、インパクトレビューがその具体例で、メンバーを評価するのではなく、フィードバックをして「どうすれば成長できるのか」を伝えられるようにしています。これもインパクトを大きくするために個々人の成長を促す、という価値観から生まれた制度です。

また、ジャーマネには「毎週必ず、メンバーと30分の1on1をしてください」と言っています。これは徹底していて、小さいチームも、経営チームもやっていることです。そのうえで、メンバーのキャリアやメンバーが伸びていくにはどうすればいいのかをジャーマネ同士で相談して、過去を「評価」するのではなく未来に向けて「フィードバック」することを重視していますね。

――そのほかに、メンバーのことを考えた特徴的な取り組みはありますか?

辻本:オリジナルのサーベイを組んで、メンバーの満足度も調査しています。社内エンゲージメントのサーベイでは「ワクワク感」を最終の指標にしているんです。freeeにいることをこれからも楽しんでいけるか、自分のやっている仕事を楽しめているか。今の仕事が将来に繋がっている確信があると、みんなワクワクしていい影響が出ます。だから、そこは大切にしていきたいですね。

――最後に、もしも今後チームが成長して4000人になるとしたら、このままカルチャーを維持していきたいと思いますか?

辻本:いまのカルチャーや雰囲気は維持したいですし、その上で進化させていくことが私の責任だと思っています。ただもちろん、会社の規模やフェーズによって、やり方や制度にテコ入れをする必要があると思います。インパクトレビューのやり方しかり、ジャーマネの育成しかり、いずれにしても全体としてのカルチャーは守りたいと思っています。

――今日は文化の浸透や、情報共有について多くの学びがありました。カルチャーは会社の判断基準となるものだからこそ、全社一丸となって育んでいきたいですね。本日はありがとうございました。

 

<プロフィール>

辻本祐佳(つじもと ゆか)
freee株式会社 経営企画本部 カルチャー推進部 部長。東京大学法学部卒業後、2009年楽天株式会社に入社。法務に配属され、約8年間、楽天市場等の事業に関する法務サポートを中心に、株主総会・取締役会・訴訟等に幅広く関わる。法務は天職とまで考えていたが、人生100年時代に向けて法務以外にも活動範囲を広げたいと思い転職を検討するなか、freeeのミッションに出会い、深く共感して2017年8月に入社。社内ではPRを経て、2018年4月よりfreeeのカルチャーを再定義するプロジェクトに参画、同年7月からカルチャー推進チームとして人事総務機能を通した組織文化の醸成、進化に邁進中。

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