「若手の定着を考える(前編)」なぜ若手は定着しないのか―人手不足時代に問われる「評価制度」の設計とは

はじめに
マイナビ総合研究所では、雇用・労働・教育の観点から、企業と個人のより良い関係性を探る研究・調査を行っています。25年9月には、採用後の「組織定着」や「オンボーディング」、入社前後のギャップによって生じるリアリティ・ショックに着目し、若手人材が組織に定着し、活躍していくための条件について分析結果を発表しています。
一方、企業現場では、若手人材の不足が深刻化するなかで、採用後の早期離職や定着の難しさが、ますます大きな課題となっています。人手不足の背景には人口構造の変化といった構造的要因があるものの、若手が「なぜ定着しないのか」を個人の意識や世代特性だけで説明することには限界があります。
本記事(前編)では、若手人材不足という社会的背景を整理したうえで、組織社会化やリアリティ・ショック、Z世代の特徴、人事評価制度の役割について概観したいと思います。とりわけ、入社初期に設定される「目標」や「評価」のあり方が、若手の適応やパフォーマンス、そして定着にどのような影響を及ぼしうるのかに焦点を当て、若手定着を阻む構造的な要因を整理していきます。
1.深刻化する若手人材の不足
近年、日本における「労働者」の数は女性の就業数増(厚生労働省(2025))、高齢者の就業者数増(内閣府(2025))や外国人雇用人数の増加(厚生労働省(2025))等複数要因により、全体として増加しています。
※ここでいう「就業者」とは自営業主、家族従業者(無給を含む)、雇用者(常雇(正社員等)、臨時雇、日雇を含む)のことである。外国人の雇用数に関しては事業主からの届出数を集計した「令和6年外国人雇用実態調査」より数値を確認した。
その一方で、働く人が増えているにもかかわらず、企業現場では慢性的な人手不足感が強まっているようです。
労働人口の増加が進んでいるにもかかわらず、人手不足が解消しない背景には、供給される労働力と企業が求める人材のミスマッチが考えられます。厚生労働省(2024)によって、労働力として増加している高齢者・女性はいずれも非正規雇用の割合が大きいと報告されていることから、正社員として雇用したいという企業側の需要を、増加した就業者では満たせていないことが明らかになっています。
さらに、このような状況の中で、企業側が強く実感しているのは、「若手人材の不足」です。マイナビキャリアリサーチLab(2026)の調査を見ると、約7割の企業が20~30代の若年層の人手不足を感じていることがわかります。

※余剰計=とても余剰感を感じている+余剰感を感じている/不足計=とても不足していると感じている+不足していると感じている
少子高齢化が進み、若年層人口の増加が見込まれない以上、企業は今後も「若手人材の不足」という状況から逃れられず、若手が離職した際の補充はますます困難になることが予測されます。このため、一度採用した若手人材をどのように定着させるかということの重要性は、今後より一層高まると考えられます。若手の採用難が続くことが予想される現在、若手の早期離職を防ぎ定着を促す仕組みが不可欠だと考えます。
2.Z世代の特徴と、育成・マネジメントへの示唆
こうした若手定着の重要性が高まる中で、現在の新入社員の大半を占めるZ世代の特徴を理解することは不可欠です。現代の若手であるZ世代は、彼らの育ってきた環境や教育方針によって、今までとは異なる価値観や特性を持つことが指摘されています。大学の教員として15年間学生の指導に携わっている尾形氏はHR Trend Lab【マイナビ研修サービス】(2022)の記事において、Z世代の特徴として次の三点を挙げておられます。

一見すると、これらの特徴には否定的な側面が強調されているようでもありますが、職務に対して積極性を示すという報告も挙がっています。同HR Trend Lab【マイナビ研修サービス】(2025)の調査によると、プライベートを優先したいという傾向はあるものの、過去3年間と比較して、プライベートより仕事を優先したいと回答する割合が増えていることが報告されています。また、「社会人として自己成長をして、仕事で夢を叶えたい」と回答する割合も多く、仕事に対するマイナス感情ばかりを抱いているわけではないことが分かっています。
以上の点から、一定の傾向はあれどもZ世代の価値観は多様化していることがうかがえます。こうした世代的特徴を踏まえると、企業には、個々の価値観や成長志向に合わせたオーダーメイド型の育成・マネジメントが求められることが分かります。
3.定着を左右する「組織社会化」とリアリティ・ショック
こうした人材不足の環境、また世代的な特徴を踏まえた新入社員の入社、それに係る対応などにおいては、新入社員を「定着」させ、企業で継続的に働いてもらうことこそ各企業にとって非常に優先順位の高い課題であると考えます。
新入社員の企業への定着においては、企業に「適応」させることが重要です。「新卒・中途採用者が組織になじむ・適応していくために組織の価値観や職務遂行に必要なスキル等を習得するプロセス」のことを組織社会化といいます(今井(2025),p.2)。組織社会化についてはマイナビ総合研究所でも研究を進めています。
この組織社会化が阻害される要因の1つに、入社前の期待と入社後の現実との格差によって生じる「リアリティ・ショック(以下、RSと表記)」があります。これは、成長機会や職場環境、評価制度などに対する期待が裏切られたと感じた際に起こる心理的反応であり、組織への信頼や愛着を低下させ、離職意向を高める影響が確認されています。(尾形(2012)中島・千田・三崎(2025)など)
特に、今井(2025)では、RSと組織社会化、そして組織が組織社会化を促進する目的で行われる施策であるオンボーディング施策に着目し、「人事評価の高低差によって、RSに差が出ること」が報告されています。過度な成果偏重や高難度課題の早期付与は、期待と現実のギャップ(RS)を強め、結果として組織社会化を阻害することになるため、「入社後すぐ慣れる前に即戦力化させ困難な仕事や経験をさせ評価するのではなく、定着を目的に評価できる体制づくりが大切」(今井(2025),p.11)であることが示唆されています。
これらの研究から、リアリティ・ショック(RS)が組織社会化を阻害し離職につながることを踏まえれば、少なくとも早期から過度な負荷や高すぎる期待を課すことは避けるような若手定着を促す人事目標制度の設計が必要なのではないでしょうか。
4.人事評価制度は「何のための仕組み」なのか
「組織社会化をいかに達成させるかについては、組織と個人がすれ違いなく個人の理想(自己成長・職場環境・組織人材能力)に沿ってオンボーディングをしていくことが重要」(今井(2025),p.11)と示されていますが、RSは入社後の適応を左右し、その背景には人事評価のあり方が影響し得ます。この点を踏まえ、そもそも人事評価制度とは何かについて整理しておきたいと思います。
人事評価制度と聞くと、「従業員を評価するための仕組み」に限定して捉えられがちですが、先行研究では、人事評価制度はより多面的な側面を持つことが指摘されています。古川(2011)は、人事評価制度には、現在どうであるかを評価し、報酬やインセンティブに反映させる機能のほかに、強みや弱みを評定し育成や教育に活用されていること、今後の見込みを評価し配置や採用、選抜に活用されていることを指摘しています。人事評価制度は単なる評価のためのだけのものではなく、現在地点での評価、育成・教育から未来の採用・選抜・配置まで幅広く影響を及ぼす可能性があるものであるということです。
また、このような人事評価制度は、単に企業側が実施するのではなく、従業員に納得感をもって受け入れられることが重要です。
中嶋(2007)は職場目標を説明し部下に納得させること・部下の能力に応じて公正に仕事配分を行うこと・査定結果を伝える面談の実施が人事評価制度の納得度を決定する要素であることを示していますし、高橋(2001)は、情報が公開され透明性が担保されていること、結果が正確に評価へ反映されていること、評価の一貫性が担保されていること、は人事評価が公正であると納得される前提であると述べています。
新卒に対する評価に対しても同様に、このような納得感をもたらす前提が評価制度に内包されていることが必要なのではないでしょうか。
5.「高すぎる目標」が従業員のパフォーマンスを下げる理由
人事評価制度が果たす役割を踏まえると、人事評価制度は新人の適応に大きく影響する要素となると考えられます。一方で、企業が「利益を追求する」組織である以上、新人には高い目標を掲げ、早期に実績を出してほしいというのが本音です。しかし、先行研究においては、RS以外の観点からも「過度に高い目標は従業員のパフォーマンスを下げうる」ことが報告されています。
櫻井(2020)の研究においてパフォーマンス・プレッシャー(求められる成果を達成したり、与えられた役割を遂行するにあたって,個人が努力を高める重要性を認識する程度)は、内発的動機付けや仕事の有意味性に対して、強すぎても弱すぎても低下し、適度な水準で最も高まる(逆U字型)関係を示すと報告されています。
つまり、高すぎる仕事上での目標は、過度なパフォーマンスプレッシャーを引き起こし、仕事の有意味性(仕事を個人的に重要で,肯定的な意味合いを持つ認識の程度)と、内発的動機付け(自律的な動機づけ)を阻害することが示唆されているということです。
また、1960年代後半から検証されている目標設定理論(Locke&Latham(1990))に基づく一連の研究からも、困難だが達成可能な目標はパフォーマンスを向上させるが、達成不可能なほど難しい目標は逆効果であることが示されています。
以上のように、RS以外の文脈においても、高すぎる目標を課してしまうと、仕事のパフォーマンスには悪影響を与えてしまうことが分かっています。したがって利益を追求するために従業員に対して高いパフォーマンス発揮を期待する企業においては、目標の設定に対して、より慎重に取り組む必要があるのではないでしょうか。
おわりに
若手人材の定着が難しくなっている背景には、個人の意識変化だけでなく、企業側が設計してきた評価や目標のあり方が深く関係していると考えます。新入社員が受けるリアリティ・ショックを少なくし、目標や評価においても組織社会化(企業に馴染み、定着すること)を進めるためには、改めて評価の仕方に対して考える必要があるように思います。
若手の定着を支えるために企業はどのような人事評価制度を選択し、どのように運用していけばよいのでしょうか。後編では、具体的な評価制度に焦点を当て、その可能性と課題を整理していきたいと思います。
参考文献・出典
①厚生労働省(2025)令和6年版働く女性の実情
②内閣府(2025)『高齢社会白書 令和7年版 第2節 高齢期の暮らしの動向 1 就業・所得』,p.1
③厚生労働省(2025) 令和6年外国人雇用実態調査 (2025年8月公表)
④厚生労働省(2024)『令和6年版労働経済の分析-人手不足への対応-(まとめ)』
⑤マイナビキャリアリサーチLab(2026)『中途採用・転職活動の定点調査(2026年2月)』
⑥HR Trend Lab【マイナビ研修サービス】(2022)『Z世代のマネジメント―「Z世代に選ばれる企業」に必要な条件』
⑦HR Trend Lab【マイナビ研修サービス】(2025)『【意識調査結果から紐解く】2025年度新入社員の特徴と有効な人材育成とは』
⑧今井良(2025)「組織社会化における段階的定着の重要性」
⑨尾形真実哉(2012)「リアリティ・ショックが若年就業者の組織適応に与える影響の実証研究―若年ホワイトカラーと若年看護師の比較分析―」『組織科学』第45巻第3号、pp.49-66
⑩中島智子・千田直毅・三崎秀央(2025)「若年層の離職意思に対してリアリティ・ショックと私生活満足が与える影響」『日本労務学会誌』第26巻第1号、pp.46-61
⑪高橋潔(2010)『人事評価の総合科学:努力と能力と行動の評価』白桃書房.
⑫古川久敬(2011)「人事評価の運用の最適化によるパフォーマンス・マネジメント──評価者と被評価者の相互意識化およびフィードバックの促進効果──」『日本労働研究雑誌』第53巻第12号、pp.45-55.
⑬中嶋哲夫(2007)「人事評価制度の納得度を決定する要因─職場目標への納得度と職務配分の公正さ─」『日本労務学会誌』第9巻第1号、pp.68-80.
⑭高橋潔(2001)「雇用組織における人事評価の公平性」『組織科学』第34巻第4号、pp.26-38.
⑮櫻井研司(2020)「仕事のパフォーマンス・プレッシャーがワークモティベーションと仕事の有意味性におよぼす影響―専制的リーダーシップとサーバントリーダーシップによる交互作用効果―」『産業・組織心理学研究』第33巻第2号、pp.105-120.
⑯Locke,E.A.andLatham,G.P.(1990)“ATheoryofGoalSettingandTaskPerformance”,EnglewoodCliffs,NJ:PrenticeHall.

















