新入社員に主体性を発揮してもらうには?人事・管理職が知るべき実践的アプローチ

多くの企業において、新入社員に求められる能力として「主体性」が重要視されています。マイナビの2025年新入社員キャリア意識調査では、41.2%の新入社員が「今、会社で発揮できる力」として「物事に進んで取り組む力」と回答していることが明らかとなりました。一方で、人事担当者や管理職からは「新入社員に主体性がない」という声は多く聞かれます。
そこで本記事では、新入社員に主体性を発揮してもらうための具体的な方法を解説します。
新入社員に求められる主体性とは?

主体性とは「自分なりに考え、判断し、責任を持って行動する態度・性質」を指し、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」でも、主体性=物事に進んで取り組む力と定義されており、現代のビジネスにおいて重要なスキルとして位置づけられています。
新入社員に期待される具体的な主体性
新入社員に期待される主体性としては、業務の全体像を把握して自分の役割を理解したうえで業務を進めること、問題や改善点を見つけたときに自ら提案したりすることなどが挙げられます。さらに、失敗を恐れず積極的に挑戦することも重要であり、その主体的な姿勢こそが成長につながります。
なぜ新入社員に主体性が必要なのか
現代の企業を取り巻く環境は激しく変化しており、従来のやり方や考え方では通用しない場面が増えています。デジタル技術の進化によってAIの活用やDXが急速に進み、業務の進め方も根本的に変わりつつあります。また、リモートワークの普及や個人の価値観の変化により、働き方やキャリア観の多様化も進んでいるといえるでしょう。
このようななかで、指示を待つだけの受け身な姿勢では、変化の激しい現代のビジネス環境に対応できないでしょう。企業が持続的に成長を続けるためにも、社員一人ひとりが自ら考えて行動する姿勢がこれまで以上に求められているのです。
新入社員と人事・管理職の主体性に対する認識のギャップ

マイナビが2025年度新入社員8,043名を対象に実施した調査では、「あなたが今、会社で発揮できる力はどのような力だと思いますか」という問いに対して41.2%の新入社員が「物事に進んで取り組む力」を挙げています。この数字は過去2年と比べて最高の割合となっており、主体性があると認識している新入社員は増えています。
一方で、人事担当者や管理職からは「新入社員に主体性がない」という声が多く聞かれるのも事実です。つまり、新入社員と組織側の間で「主体性の発揮レベル」に認識のギャップが存在している可能性が考えられます。
人事担当者や管理職は、このようなギャップが生じる背景や新入社員が主体性を発揮できない理由を追究し、発揮できるよう改善を図る必要があります。
新入社員の主体性が発揮できない3つの理由

「主体性がない」状態とは、自ら判断・行動することを避け、指示や答えを与えられることを待つ状態を指します。新入社員が主体性を発揮できない背景には、次のような3つの原因が考えられます。一つひとつ確認していきましょう。
本人に「当事者意識」が醸成されていない
まずは、自身の仕事の全体像や役割、目標などを正確に理解できていなければ、主体的に行動することは難しいでしょう。アメリカの組織心理学者であるJ・リチャード・ハックマンと、同じくアメリカの経営学者、グレッグ・R・オルダムが1976年に提唱した「職務特性モデル(Job Characteristics Model)」では、職務の意義への理解がモチベーションや仕事へのやる気に大きく影響し、それが当事者意識の醸成につながると示されています。
たとえば、新入社員に「このタスクの進捗を毎週報告してください」とだけ伝えると、単なる作業と捉えられ、受け身になりがちです。反対に、「この報告は新サービスの立ち上げに直結し、他部署の準備にも影響します」と背景や目的を伝えることで、業務の意義を理解でき、当事者意識が芽生えます。
自身の責任感の向上につながり、組織全体の成果にも貢献していることを示すことで、主体的な行動を促せます。
行動の際に「スキルの壁」にぶつかってしまう
いざ主体的に行動しようと思っても、コミュニケーション力や段取り力、問題解決力、業務を遂行するうえで必要な専門スキルが乏しく、結果的に行動にまで移せず、うまく遂行できないというケースもあります。実際に、マイナビの2025年度新入社員のキャリア意識調査では半数以上の新入社員が上司や先輩から「仕事の進め方や基本」「専門知識」の指導を求めています。このように、実際にはやる気はあっても、スキル不足により行動できないケースは少なくありません。
たとえば、問題解決のアイデアを思いついても「段取りをどう組めばいいのかわからない」となったり、上司に提案したくても「コミュニケーションの取り方がわからない」という壁にぶつかったりします。
結果として、やろうと思ったができずに諦めてしまい、成長意欲が削がれてしまうのです。このような状況を防ぐためには、主体性を求める前に、まず行動に必要な基本的なスキルを身につける機会を提供することが重要です。
「主体性の発揮」を新入社員に委ねすぎている
主体性の発揮が「個人の問題」に帰結してしまっているケースもあります。「新入社員には主体性がない」と嘆く管理職自身が、実は部下からの相談や提案を「忙しいから後で」と断ったり、よかれと思って提案したことをすべて否定したりする場面も考えられます。
さらに、定期的なフィードバックの機会がなく、「今の自分がどう評価されているのか」「なにを改善すべきなのか」がわからない状況も、主体性発揮の阻害要因になります。そのため、新入社員が主体性を発揮するためには、本人が自身の役割を認識し必要なスキルを習得することに加え、上司や先輩社員による適切なフィードバックや助言といった支援が重要です。
いずれにしても、主体性を育むためには、まず新入社員の行動パターンを把握することから始めるのがおすすめです。たとえば、会議での発言頻度と内容、問題が発生したときの対応方法、新しい業務に対する取り組み姿勢などを観察し、新入社員がどの段階でつまずいているのかを見極めます。そのうえで、状況や段階に応じて適切な助言や支援をすることが重要です。
新入社員の主体性を阻害するNGな指導方法

新入社員に主体性を発揮してもらおうとする一方で、知らず知らずのうちにそれを阻害してしまう指導をおこなっている場合もあります。ここでは、とくに注意すべき3つのNGな指導方法を確認しましょう。
圧力をかけるような指導をおこなう
圧力やストレスがかかるような高圧的な指導は、不安や恐怖を生み、主体性の発揮を阻害し、さらに受け身姿勢を強化してしまいます。たとえば、「なぜ自分で考えないのか」と責める、他の新入社員と比較して劣っていることを指摘するなどの指導は、心理的プレッシャーを生んでしまい、結果として人材の成長を妨げてしまうので気をつけましょう。
権限・裁量を与えない
毎日同じ作業のみを与える業務の固定化は、新入社員の成長機会を奪います。
たとえば、新入社員に対して「まだ経験が浅いから」「失敗されると困るから」という理由で、単純作業のみを延々と任せ続けるケースは案外多いものです。また、資料の作成方法から使用する文言まで事細かに指示し、新入社員が判断する余地を一切残さない指導にも注意が必要です。
このような状況では、指示を待つことが当たり前の行動パターンが定着し、主体性を発揮する機会そのものが失われてしまいます。
指示や発言に一貫性・目的がない
上司や先輩からの指示が曖昧で内容に一貫性がないと、新入社員はなにを基準に判断すればよいかわからない状況に陥ります。
たとえば、場当たり的な指示や明確な目的のない業務依頼ばかりでは、新入社員は受け身にならざるを得ません。新入社員は「どの基準で判断すればよいのか」がわからず、結果的に上司に確認を取ることでしか安心できなくなります。
指示を出す際に必ず「なぜこの業務が必要なのか」という目的と、「どのような基準で判断してほしいのか」という判断軸を明確に伝えることが重要です。
新入社員の主体性を育む・発揮してもらう6つのポイント

新入社員の主体性を効果的に育むためには、単に「主体的になれ」と伝えるだけでは根本的な解決にはなりません。ここでは、人事担当者と管理職が実践すべき6つの具体的なポイントをご紹介します。
当事者意識を持たせる
研修や日々の業務においては、その目的をしっかりと伝えることが重要です。
具体的には、業務を依頼する際に背景や目的を説明し、その成果が組織全体にどのような影響を与えるのかを伝えます。また、新入社員自身の成長にとってどのような意味があるのか、将来のキャリアにどう活かされるのかもあわせて説明することで、単なる作業ではなく「意味のある仕事」として認識できるでしょう。
さらに、個人の目標設定においても、短期的な業務目標だけでなく、中長期的なキャリア目標との関連性を示すことが重要です。定期的な面談を通じて目標の達成状況を確認し、必要に応じて軌道修正をおこなうことで、継続的な当事者意識の醸成を図ります。
心理的安全性の高い環境をつくる
新入社員が主体性を発揮するためには、失敗を恐れずに挑戦できる環境が欠かせません。そのためには、心理的安全性の高い職場づくりが重要です。心理的安全性が確保されていない職場では、新入社員は「間違ったことを言ったらどうしよう」「失敗したら評価が下がるかもしれない」という不安から、積極的な発言や行動を控えてしまいがちです。
安心して発言・行動できる環境があってこそ主体性が発揮されるため、以下のような環境づくりに取り組むことが大切です。
- ・失敗したとしてもフォローができる体制の整備
- ・失敗から立ち直るためのレジリエンス力を高める支援
- ・オープンな対話ができる場の設定
- ・多様な価値観を受け入れる組織文化の醸成
成功体験を積ませて自信をつけさせる
業務上で必要となるスキルがないと、そもそも主体性を発揮するためのアクションができません。そのため、まずはスキルを身につけ、その後に成功体験を積んでもらうことが重要です。
実践では、業務に必要な専門知識、コミュニケーションスキル、問題解決力など必要なスキルの習得を支援します。同時に、新入社員のスキルレベルにあわせて達成可能な目標を設定し、適切なサポートを提供しながら小さな成功を積み重ねます。
成功体験を振り返る際は、結果だけでなく「どのような考え方や行動が成功につながったのか」という点に注目させることが重要です。これにより、さらなる成長のための行動指針が明確になります。
適切な権限と裁量を委譲する
新入社員が主体性を発揮するためには、「自分で判断してよい範囲」を明確にし、段階的に権限を拡大していくことが重要です。最初から大きな権限を与えるのではなく、小さな決定権から始めて成功体験を積んでもらいながら、徐々に責任の範囲を広げていきます。
また、失敗した場合も責任を問うのではなく、「なぜそう判断したのか」を聞き、次回への学習機会として活用します。このようなアプローチにより、新入社員は「自分の判断が認められている」という実感を得ながら、責任感と主体性を同時に育めるでしょう。
継続的なフィードバックとサポートをおこなう
新入社員の主体性を育むためには、自ら考えて行動しようとした兆しを見逃さずに評価することが重要です。たとえば、自分なりに考えて積極的な姿勢が見られた場合は、その行動を具体的に褒めることで、新入社員は「自分の考えや行動が認められている」と実感でき、主体性が育まれます。
また、うまくいかなかった場合でも、問題を指摘するだけでなく、「どうすればもっと主体的に動けただろうか」「次にどのような行動を取ればよいか」という具体的なアクションプランまで一緒に考えることが大切です。
このような継続的な関わりを通じて、新入社員は「見守られている安心感」と「期待されている責任感」の両方を感じながら、自立した主体性を発揮できるようになります。
主体性を醸成する研修を設計する
研修は普段の業務から離れ特定のスキルを集中的に学べるため、主体性育成に非常に効果的です。そのためには、ビジネスマナーやコミュニケーションといった基本スキルを学ぶなかで、主体的な姿勢を意識させられるような研修設計が重要となります。
効果的な研修にするためには、単なる知識習得にとどまらず、「意識醸成→行動→習慣化」の段階的なプロセスを重視することが重要です。まず主体性の必要性を深く理解させ、次にロールプレイングやグループワークで具体的行動を体得します。最終段階では振り返りをおこなうことでPDCAサイクルを習慣化し、長期的な主体性の定着を図ります。
また、研修の効果を最大化するためには、新入社員と関わる現場の社員に研修の目的を理解してもらうことが大切です。事前の現場ヒアリングや研修後の継続的フォローアップの協力を得られるとよいでしょう。
新入社員の主体性は「引き出す」のではなく「発揮できる環境」をつくる

新入社員の主体性は、本人の当事者意識やスキルがあってこそ発揮されるものです。
しかし、ただ本人に努力を求めるだけでは、主体性の芽生えを妨げてしまう可能性があります。大切なのは、新入社員自身が主体性を発揮するための役割を認識し、必要なスキルを習得しながら、上司や先輩社員がそれを後押しする環境を整えることです。
新入社員の主体性を個人の問題として片づけるのではなく、組織全体で育んでいくべき課題として捉え、組織一丸となって取り組む姿勢が求められます。

















