理念浸透とは?浸透させる目的や3つの推進方法、2つの注意点を解説
企業が掲げる理念を浸透させる「理念浸透」。現場の従業員に理念を深く理解してもらうことで、従業員のエンゲージメントやモチベーションが向上し、企業全体の生産性向上や離職防止などの効果が期待できます。
一方、理念浸透の施策は短期的には効果が出にくく、長期的な視点を持って取り組む必要があります。では、具体的にどのように理念浸透を進めればいいのでしょうか。今回は理念浸透の概要およびその方法などを解説します。
理念浸透とは
理念浸透とは企業が掲げている企業理念や経営理念を従業員に深く理解してもらい、いつでも従業員が理念にもとづいた行動を取れる状態を目指すことを指します。理念浸透は単に理念の文字面だけを従業員に覚えてもらうのでは足りません。従業員一人ひとりが理念の示すものを咀嚼し、日々の思考や行動に反映させられるような状態にすることこそが理念浸透の要諦になります。
そもそも「企業理念」とは
理念浸透において浸透させる理念の1つ「企業理念」とは、企業の存在意義や価値観を指し、企業活動において基礎になる考え方です。経営方針や行動指針といった、より具体的なガイドラインを構成する根幹といえます。
一方、企業理念と似ている概念に「パーパス」があります。一般的に、パーパスは企業の存在意義や目的を示すものであり、なぜその企業が存在するのか、社会にどのように貢献するのかを明確にし、長期的な視点で企業の根本的な使命を表現します。
一般的な意味の違いはあれど、それらに込めた思いは企業によって異なります。企業によってはパーパスに経営理念の要素を反映させたケースもあるかもしれません。そのため理念浸透においては、上で説明した企業理念や経営理念、パーパスという枠に留まらず、企業が実現したいさまざまな理念を従業員に深く理解してもらうことが重要です。
理念浸透が重要な3つの理由
ここでは理念浸透に取り組むことがなぜ重要なのか、その理由を3つ解説します。
組織の一体感が醸成される
理念浸透により、企業が大切にしている価値観や考え方を、従業員に理解してもらい、根付かせることができます。企業の目指す方向性や価値観に共感した従業員は、進むべき方向を明確に意識するようになり、組織全体に一体感が醸成されるようになります。その結果、従業員同士が協力しあう風土が生まれ、チームワークの強化ひいては創造的なアウトプットが生まれる可能性が高まります。
離職率が低下する
「仕事にやりがいを感じられること」は人材の定着率向上に寄与する一因です。理念を理解した従業員は、たとえば「企業が掲げる理念を胸に業務に当たろう」「企業が実現したい未来に私も貢献したい」などと考えるようになり、エンゲージメントが高くなります。エンゲージメントが高い従業員は、組織に対する思い入れが強く「この企業に貢献したい」という気持ちで仕事に取り組む傾向にあります。
理念浸透によりエンゲージメントの高い従業員が増えれば、仕事にやりがいを感じて転職する従業員の数は減ることでしょう。
従業員の生産性が向上する
理念の浸透により企業理念や経営理念などを理解した従業員は、その企業で働くことの意義を見出し、自身の仕事に誇りを持つようになるでしょう。
その結果、従業員のモチベーション(人がなにか行動をする際の原動力となるもの)が高まり、さらにはパフォーマンスの向上が期待できます。なおモチベーションには、報酬や昇格など外部からの刺激による「外発的モチベーション」と興味や関心など自発的な要因による「内発的モチベーション」の2種類がありますが、理念浸透で高められるのは主に後者になります。
関連して、人生において多くの時間を費やす仕事に張りが生まれれば、人生全体のQOL(生活の質)も向上し、それが仕事にも好影響を与えるという好循環が生まれる可能性も高まります。
理念が浸透しない理由と3つの浸透方法
理念浸透にあたっては、一方的にメッセージを伝えるだけではなかなか浸透は難しいでしょう。適切なプロセスに沿って取り組みを進めていかなければ、有効な理念浸透は期待できないのです。そこで参考になるのがSUPPモデルです。
SUPPモデルとは浸透プロセスを「共有(Share)」→「理解(Understand)」→「自分ごと(Personalize)」→「実践(Practice)」という4つのステップにまとめたモデルのこと。この4つのステップのうち「理解」から「自分ごと」へのプロセスがもっともハードルが高いといわれています。そして、このハードルを乗り越えるためのポイントが「上司の役割」と「いかに従業員に理念を腹落ちさせることか」です。
ここではSUPPモデルやこの2つのポイントを踏まえつつ、理念浸透が難しい理由と理念浸透を推し進める方法を解説します。
理念説明の場を設ける
理念の浸透が進まない理由として、従業員への周知徹底が十分ではないケースが挙げられます。そこで、入社式や年末年始の挨拶時、定例ミーティングなどのタイミングで、折りに触れて経営陣より現場の従業員へ理念を説明する場を設けるのも有効です。
定期的に理念を発信することで、理念の文字面にどのような経営層の思いや意図が込められているのか、いかに企業として理念を大切にしているのか、その思いや姿勢を示すことができます。従業員に両者を感じてもらうことで、理念実践のモチベーション向上に繋がるでしょう。
ここで注意したいのが、理念を発信する際の経営陣と管理職の役割は異なることです。経営陣は企業全体の方向性を指し示して従業員の意識を統一することが主眼に置かれます。管理職の役割は理念をチームの行動指針として落とし込み、より具体的な行動に繋げることが重視されます。
なお、理念を説明する際には、理念の文字面だけを伝えるのではなく「なぜこのような理念を掲げているのか」「日々の業務で理念にもとづいた行動ができた瞬間」などもあわせて発信することで、従業員の理念に対する理解が深まるでしょう。
理念を実践するための具体的な行動指針を示す
理念は抽象的な概念です。そのため「理念の意味はわかる。ただ、理念を体現する具体的な行動がなにを指すのかわからない」という従業員も多くいます。そこで、どのような行動が理念にもとづいているといえるのか、上司は部下へ行動指針を具体的に示すことが大切です。
行動指針が示されれば、従業員はどのような行動が理念を実践することになるのか、その例を知り、実践することができるようになるためです。必要に応じて上司からのサポートを受けつつ理念を日々の業務に落とし込むことができれば、従業員の理念への解像度もさらに上がることでしょう。
理念の浸透度合いを随時調査する
先述した通り、SUPPモデルの4つのステップのうち「理解」から「自分ごと」へのプロセスがもっとも難しいとされています。また、理念を浸透するにあたっては、現状を把握することが大切です。「理解」と「自分ごと」がどの程度できているのか、現状把握をするために社内調査をおこないましょう。
- 【調査での質問例】
- ●理念の内容や意味をどれくらい理解していますか?(理念の理解度を測る)
- ●理念にどれくらい共感していますか?(理念の共感度を測る)
- ●どのような業務場面で理念の実践を実感しますか?(現場における理念浸透の実践度を測る)
- ●所属するチームにおいて、どれくらい理念にもとづく行動が奨励されていますか?(管理職の理念浸透のモチベーションを測る)
たとえば上記のような質問をして、現状を把握してみましょう。現状を把握することで、より効果的な次の一手を打ったり、施策の有効度を測ったりすることができます。
理念浸透を進める際の2つの注意点
最後に、理念浸透を進める上での注意点を2つ解説します。
理念浸透施策は長い目で取り組む
理念の浸透は一朝一夕でできるものではありません。加えて、理念浸透の施策効果は定量的に効果を測りづらく、なかなか効果として実感できない可能性があります。そのため、少なくとも年単位の長期的な施策として取り組み、施策を継続するようにしましょう。
なお、施策を継続するためには、先述した通り評価項目に理念浸透に関する項目を加えたり、面談時のテーマに理念浸透を盛り込むことを必須にしたりと、施策を継続するための仕組みを作ることが大切です。
現場への過度な押しつけはしない
理念浸透の推進役たる経営陣および人事部などと、現場の従業員との温度差が大きいと、現場の従業員は「ついていけない」と感じるようになるかもしれません。そのため、現場に理念の実践を過度に押しつけないように注意が必要です。理念の実践が従業員にとっても働きがい向上や人事評価アップなどのメリットがあることを詳しく伝え、一部の人間だけが注力する取り組みにならないようにしましょう。
理念浸透の推進は、企業と従業員双方にメリットがある
理念浸透は年単位の取り組みになる可能性があり、短期的な効果は見えにくいでしょう。
一方、理念を体現する従業員が増えることで、企業はパフォーマンス向上や離職率低下など、多大なメリットを享受することができます。また従業員にとっても理念浸透は、仕事のやりがいひいてはQOL(生活の質)向上に寄与します。
まずは理念の浸透度合いの計測を第一歩として、理念浸透に取り組み始めてみてはいかがでしょうか。