インフォーマルリーダーをどう支えるか ―ミドルマネジャーを助け、次世代リーダーを育てる人事施策―

インフォーマルリーダーシップとは
近年、多くの企業でミドルマネジャーの負担が高まっています。自らも成果を出しながら、メンバーの育成、業務調整、目標管理、組織課題への対応まで担う「プレイングマネジャー」は、もはや珍しい存在ではありません。こうした状況のなかで、チーム運営をマネジャーだけに依存することには限界があります。
そこで注目されるのが、役職としての管理職ではないものの、チームの中でリーダーシップを発揮する「インフォーマルリーダー」です。インフォーマルリーダーとは、公式な役職を持たなくても、チームの目標をわかりやすく伝えたり、メンバーを動機づけたり、相談に乗ったり、上司の仕事を補助したりする人を指します。インフォーマルリーダーという概念自体は新しいものではありません。
リーダーシップ研究では以前から、公式な役職を持たない成員が集団内で自然に影響力を獲得する現象が扱われてきました。近年はさらに、リーダーシップを一人の管理職に帰属させず、チーム内で分散して発揮されるものと捉える研究(シェアード・リーダーシップなど)が蓄積されています。
こうした概念が実務で改めて注目される背景には、日本企業の構造変化があります。管理職のプレイングマネジャー化が進み、育成・調整・成果責任が一人に集中する一方で、組織のフラット化やプロジェクト型の働き方により、役職に依存しない影響力の重要性が増しています。インフォーマルリーダーは、この管理職依存モデルの限界を現場で埋めている存在だといえます。
インフォーマルリーダーシップの調査で判明したこと
株式会社マイナビと東京大学がおこなった共同研究の調査結果によると、インフォーマルリーダーシップが発揮されているチームほど、チームパフォーマンスが高い傾向が示されています。具体的には、チームメンバーが他のメンバーの相談に乗ったり、方針を示したりしているかを尋ねることで、そのチームにインフォーマルリーダーシップを発揮している人が多いかどうかを測定しました。
そのうえで、チームごとのインフォーマルリーダーシップ得点を低群・中群・高群に分けたところ、低群と中群のチームパフォーマンスはそれぞれ4.28点、4.41点だったのに対し、高群では5.50点でした。つまり、チーム内に役職に依存しないリーダーシップが存在することは、チーム成果を高めるうえで有効である可能性があります。

調査対象:複数企業に所属する96チーム・355名のチームメンバー
分析対象:分析項目に回答があったケースを対象に実施。
チーム単位の分析は94チーム、個人単位の分析は75チーム・315名
回答者属性(個人分析):男性52.7%、平均年齢31.75歳(SD=8.48)、平均勤続年数6.48年(SD=7.56)、現チームへの平均所属年数3.74年(SD=4.74)
主な測定変数:インフォーマルリーダーシップ、チームパフォーマンス、情緒的消耗感、職務満足感、感謝の認知、昇進可能性認知
一方で、この結果を手放しで喜ぶことはできません。インフォーマルリーダーの存在によって恩恵を受けるのは、実は本人以外の立場だからです。経営にとっては、管理職一人に依存しないチーム運営が可能になり、次世代のリーダー候補が現場から見えてきます。現場のマネジャーにとっては、自分の目の届かない領域を補ってもらえることで、日々の負担軽減につながります。周囲のメンバーにとっては、上司には言いにくいことを受け止め、必要なときに手を貸してくれる相手が近くにいる状態です。
しかしながらインフォーマルリーダーは「自分の仕事」に加えて、「チームのための仕事」も担っています。さらに、その貢献は公式な職務として明確に定義されているとは限らず、金銭的報酬が直接伴うわけでもありません。恩恵は広く分かち合われる一方で、負担は一人に集中しているのです。
そのため、人事やマネジャーは、インフォーマルリーダーを単に「便利な存在」として期待するのではなく、彼ら・彼女らが継続的にリーダーシップを発揮できるように支える必要があります。今回の調査では、インフォーマルリーダーシップを発揮している人が、それに見合った感謝を得られていない場合、消耗感が高い傾向にあることが明らかになりました。
また、インフォーマルリーダーシップを発揮しているのに昇進の見込みがない場合は職務満足感が低く、この傾向は若手社員でとくに強いことが示されました。つまり、インフォーマルリーダーを活かす鍵は、「任せること」だけではありません。人事やマネジャーには、彼ら・彼女らの貢献を見える化し、感謝や承認を届け、将来の育成・登用と接続する仕組みづくりが求められます。

インフォーマルリーダーシップを利活用するには
では、インフォーマルリーダーの健全な活躍を促し、ミドルマネジャーの負担を軽減するためにはどうすればよいのでしょうか?
支えている人を「見つける」
まず重要なのは、インフォーマルリーダーの存在を可視化することです。現場には、役職はなくても自然と周囲を支えている人がいます。メンバーの相談に乗っている人、チームの雰囲気を整えている人、新人に声をかけている人、マネジャーの意図を周囲にわかりやすく伝えている人などです。
こうした貢献は、業績評価の指標だけでは見落とされやすいため、インフォーマルリーダーシップ診断、1on1、360度フィードバック、マネジャーからの推薦などを通じて把握する必要があります。
その行動を「支える」
見つけたら、次に必要なのはその行動に報いることです。ここで、本調査の結果があらためて示唆的です。インフォーマルリーダーシップを多く発揮している人が、そうでない人より消耗しているわけではありませんでした。支える役割を担うこと自体が人を疲弊させるのではないのです。
消耗感が高まっていたのは、発揮に見合った感謝が返っていない場合でした。つまり、負担を生んでいるのは行動そのものではなく、組織側の返し方です。
この結果を踏まえると、打ち手は明確になります。実務的には、感謝メッセージを送り合う仕組み、チーム内での称賛共有、月次ミーティングでの貢献の紹介、ピアボーナスのような小さな承認制度などが有効です。ただし、単なる表彰制度にしてしまうと形骸化します。
大切なのは、「誰が、どのような行動で、チームにどのような良い影響を与えたのか」を具体的に伝えることです。感謝の言葉に、その理由やチームに及ぼした影響、そして今後への期待を添える。この積み重ねが、金銭的報酬を伴わない役割を続けるための土台になります。
その行動が続く環境を「育てる」
さらに、一過性で終わらせないための環境づくりも大切です。ここには三つの論点があります。第一に、負担の集中を防ぐことです。頼りになる人ほど、相談対応、若手社員育成、調整業務、マネジャー支援が集中します。
その結果として本来業務が圧迫されれば、善意のリーダーシップは消耗に変わります。人事は、マネジャーに対して「任せきりにしない」ことを促し、役割分担や業務量の調整を支援する必要があります。
第二に、キャリアへの接続です。本調査では、インフォーマルリーダーシップを発揮していても昇進の見込みが感じられない場合、職務満足感が低下すること、そしてその傾向が若手社員でとくに強いことが示されました。
若手社員にリーダーシップの発揮を期待するのであれば、その経験が次の役割にどうつながるのかを示すことが不可欠です。経験を振り返る面談を設ける、次世代リーダー研修の対象者として位置づける、チーム運営やメンバー支援の経験を昇格審査の参考情報にするといった施策が考えられます。
第三に、評価制度上の位置づけです。すべてを昇進や金銭報酬に直結させる必要はありませんが、チームへの貢献が評価やキャリア機会に一切反映されない状態が続けば、本人は「やっても報われない」と感じます。
評価項目にチーム貢献、メンバー支援、ナレッジ共有、職場風土づくりなどを含めることで、インフォーマルな貢献を組織として正当に扱う姿勢を示すことができます。
まとめ
本記事で整理した「見つける・支える・育てる」という3つの役割は、マイナビ研修サービスが提供するさまざまな研修プログラムや人材育成の伴走支援により実現可能です。
管理職向けには、7つの行動分類にもとづいてメンバーの貢献を観察し、意味づけて伝えるための具体的な方法を扱います。メンバー向けには、自身がどのような関わりを選びやすいのかを診断し、職場での実践に落とし込むワークをおこないます。関心をお持ちの方は、あわせてご覧ください。

















