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なぜエンゲージメントの強化が組織パフォーマンスの向上に繋がるのか

2020年05月07日更新

株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役/採用学研究所 所長 伊達 洋駆氏と株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部部長/HR Trend Lab 所長 土屋 裕介氏
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役/採用学研究所 所長 伊達 洋駆氏(右)
株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部部長/HR Trend Lab 所長 土屋 裕介氏(左)

採用、離職防止、健康経営など、さまざまな側面から効果が期待され、多くの企業が重要視している「エンゲージメント」。従業員のエンゲージメントと企業業績には相関関係があるというデータも存在し、その注目度は年々増している。

そこで今回は、学術知・実践知の両方を活用し、エンゲージメントなどの新規性・複雑性の高いテーマを中心に、組織・人事に関する調査・コンサルティングサービスを提供する株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達 洋駆氏と、同社と共同でエンゲージメントサーベイを開発する株式会社マイナビ教育研修事業部の土屋 裕介氏に、エンゲージメントの定義から施策の有効性、成功のためのヒントなどを語っていただいた。

目次 【表示】

エンゲージメントとは一体何か?その定義と重要視される3つの背景

――まずは本日のテーマであるエンゲージメントとは何なのか、その概念について改めてご説明をお願いいたします。

伊達 エンゲージメントには「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」の2種類がありますが、一般的にエンゲージメントと言うと、この2つが混ざった状態で捉えられていることが多いです。

「ワークエンゲージメント」とは、自分の仕事に生き生きと打ち込んでいる状態を指し、熱意(仕事にやりがいを感じていること)、没頭(仕事に熱心に取り組んでいること)、活力(仕事から活力を得ていること)という3つの要素から成り立っています。一方で、「従業員エンゲージメント」というのは、主にビジネス界で使用されている言葉で、その定義は広く、熱意や没頭や活力はもちろんのこと、組織に対する愛着を示す組織コミットメントや職務満足なども含んでいます。

便宜上、以降のお話の中で特に言及がない場合は、基本的に「ワークエンゲージメント」を指して、エンゲージメントと呼んでおきたいと思います。

――近年多くの企業では、採用、離職防止、健康経営、さらには生産性向上に至るまで、さまざまな側面からエンゲージメントが注目され始めています。そうした背景にはどんな変化があるのでしょうか?

伊達 エンゲージメント興隆の背景は、主に3つあります。1つ目は、組織と個人の関係性の変化です。かつての日本は一つの企業に入ったら、さまざまな部署を異動しながら出世し、定年まで勤め上げる流れが多かった。大げさに言えば、組織が個人の面倒を見る代わりに、個人が組織に従う関係性だったのです。

しかし近年、個人がキャリアを自律的に設計し、組織と対等な関係を構築し始めています。さらには労働人口が減少し、人手不足に陥る中で個人のパワーも強化されてきています。結果として、個人と「組織」の関係を強化するよりむしろ、個人と「仕事」の関係を強化した方が良いのではないか、という発想が生まれてきたのでしょう。個人と仕事の関係を捉えるエンゲージメントは、この要請と相性が良かったわけです。

2つ目の背景は、モチベーションが下がりやすい環境要因にあります。昨今、働き方改革によって労働時間を短縮する動きが広がっており、仕事の効率化が進んでいますが、既存の仕事を効率的にこなすだけに終わっている企業も見受けられます。そのような働き方では、社員のモチベーションは維持しにくい。

またAIの発展・導入に応じて、労働の分業化・細分化が加速。仕事で求められるスキルの種類が減り、断片的な仕事に取り組むようになった。これもやはりモチベーションの低減に繋がります。こうしたことから、多くの企業にとって、いかに社員のモチベーションを上げるかが課題となっています。エンゲージメントはモチベーションプロセスの一種ですから、注目が集まりやすいのだと考えられます。

そして3つ目の背景は、画一性や凝集性を重んじる従来的なマネジメントスタイルに限界が来ていること。雇用形態や価値観も多様化する中で、モチベーションの源泉もまた人それぞれに多様化してきています。多様な個人が一緒に生き生きと働く職場を作るにはどうすれば良いか。そのような実践的な問題意識のもと、エンゲージメントに注目が集まっています。

土屋 マネジメントスタイルに限界が来ているというお話がありましたが、社員の働き方や価値観がどんどん変わってきている中、マネージャーにはより柔軟性が求められてきているのでしょうね。その点は我々もお客様にさまざまなサービスをご提案する中で感じていることなのですが、管理職がこれだけ大変になってくると、管理職のエンゲージメントを高めることも必要不可欠になると思います。

伊達 マイナビさんでも管理職研修のニーズが多いそうですね。

土屋 最近増えてきていますね。もともと我々の事業は、採用の領域がメインで、そこから派生して新入社員や若手の育成もドメインとして扱ってきたのですが、まずは若手を育成する人を育成しないと、きちんと下の世代を育成することはできません。よって良い循環を作るという意味でも、育成の対象をより幅広い層に広げています。

株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役/採用学研究所 所長 伊達 洋駆氏

エンゲージメント向上の鍵となるサーベイを施策に活かす方法

――多くの企業がエンゲージメント向上の取り組みを推進していく中で、うまくいく企業とそうでない企業があると思うのですが、その差はどこにあるのでしょうか?

伊達 エンゲージメントの施策は、自社のエンゲージメントがどういう状態なのかを測定することから始まります。その際、サーベイを活用するわけですが、測定結果に対して、「なるほど。うちの会社はエンゲージメントがあまり高くないのか」で終わってしまう会社は当然うまくいきません。他方でうまくいくのは、測定結果をきちんと改善に活かす会社です。では、どうすればうまく活かせるのか。

サーベイを施策に活かすために必要なことは3つあります。1つは、エンゲージメントの「影響要因」(促進・阻害要因)に着目すること。実際のところ、活用に繋がるか否かという意味において、エンゲージメントそのものを測定することにはそれほど意味がありません。結局、対策を打てるのは影響要因になるため、むしろサーベイの中でエンゲージメントの影響要因の高低を測定しておくことが重要になります。影響要因を可視化し、そこに手を打てば良いのです。

2つ目は、サーベイの頻度を上げて迅速に手を打つこと。手を打とうと思っても「時すでに遅し」となる場合もある。高い頻度でサーベイを行い、タイムリーな施策反映を目指すことが重要です。

そして3つ目は、エンゲージメントや影響要因の「定義」を明確化すること。同じ言葉で別の意味内容を指していると施策反映は困難になります。また、定義が異なる概念間では比較もしにくい。ですので、エンゲージメントとは何か、さらに影響要因一つ一つの定義も定めたうえで測定することが有効です。

――サーベイ自体が非常に進化してきていると思いますが、サーベイの最新動向や特徴などがありましたら、教えてください。

伊達 一般的にサーベイと呼ばれているものの中には、社内の全体傾向を明らかにする「サーベイ」と、社員の能力や性格などを明らかにする「アセスメント」の2種類が含まれています。アセスメントに関してはマイナビさんをはじめ、昔からいろいろな企業がサービスを出されていますよね。

社内を可視化する方のサーベイに関しても、近年進化してきています。こちらの意味でのサーベイのトレンドとしては、大きく2つの流れがあります。1つ目は、サーベイの結果を改善に繋げる工夫が積極的に凝らされるようになってきていることです。2つ目は、「パルスサーベイ」でしょうね。パルスとは脈拍の意味ですが、迅速に手を打つために、より高い頻度で実施するサーベイが登場してきています。

土屋 私も10年あまりこの業界にいて、さまざまなサーベイを見てきましたが、変わってきているなと実感するのは、昔は組織の動向を測定するものや、個人の能力・特性を測定するものが中心でしたが、最近はパルスサーベイを通じて個人の移ろいやすい部分を測定できるようになってきた点です。より即時性があって、マネージャーもリアルタイムで個人の状況を見ることができ、これもテクノロジーの進化の賜物だと感じますね。

株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部部長/HR Trend Lab 所長 土屋 裕介氏

組織業績に寄与するワークエンゲージメントの効果とは

――エンゲージメントの向上が企業の業績に間接的あるいは直接的に関与しているというデータも発表されています。実際にはどのような効果をもたらすものとお考えでしょうか?

伊達 確かにエンゲージメントはさまざまなものに効果があると実証されてきていますが、特に効果があるのは、次の2点です。1つは、「離職抑制」の効果。逆に言えば、エンゲージメントが低いと離職しやすい。離職率が高いと組織業績にマイナスとなります。もっと言えば、離職意思を持っている社員が多いだけでも組織業績にはマイナスの影響があるという研究もあります。その意味ではエンゲージメントが離職を抑制し、その結果、組織業績に影響が及ぶ、ということが言えるでしょう。

そしてもう1つは、社員パフォーマンスにも影響を及ぼすということです。本人が認識するパフォーマンスだけではなく、上司や同僚からの評価に関しても、エンゲージメントが高い人のほうが高いという結果が示されています。さらに組織コミットメントや、組織変革下における積極的な行動、店舗の収益などに関してもエンゲージメントが影響しているという研究が出てきています。

総じて言えるのは、エンゲージメントが高まれば、すなわち組織がうまくいくというようなダイレクトな結びつきではなく、エンゲージメントが高いと、離職意思が低くなり、また組織コミットメントや個人パフォーマンスが高くなる。そのことによって、結果的に組織のパフォーマンス向上に繋がるというわけです。

土屋 エンゲージメントは「感染」するとも言いますよね。実際エンゲージメントが低い人がいるとネガティブな空気が職場全体に広がる気がします。

伊達 おっしゃる通りです。エンゲージメントが興味深いのは、正のスパイラルと負のスパイラルが作動しやすい点です。高いエンゲージメントを持っている職場には、高い仕事資源=上司や同僚からの支援等があり、それらが高いことで、エンゲージメントもさらに高くなる…という正のスパイラルが生まれやすい。逆にエンゲージメントが低いと、仕事資源も低くなり、さらにエンゲージメントも低くなってしまいます。

――従業員規模や会社の置かれている外的環境など、正のスパイラルにさせるための有利な条件はあるのでしょうか? 

伊達 正のスパイラルに入るためには、企業の特性などよりも、職場や部署の特性に注目するほうが有望です。具体的に何が重要かと言うと、1つはソーシャルサポート。これは同僚との交流や手助けをはじめとした、周囲からの支援のことです。もう1つは、上司のマネジメントです。要するに周囲からの支援があり、上司のマネジメントが機能する職場を作っていけば、おのずとエンゲージメントの正のスパイラルが作動するということです。

――そうした取り組みにおいて、人事が果たすべき役割とはどういったものでしょうか?

伊達 エンゲージメント強化の施策を進めていくために何よりも重要なのは、まず現状を把握することです。今の社内がどうなっているのか現状を正確に測定しておく必要があります。誤った現状認識に基づく施策は効果を得られません。そしてエンゲージメントを測定する際には、きちんと定義された、それでいて、影響要因も含むサーベイを活用する。測定ができれば何が問題なのか見えてきます。あとは現場に測定結果をフィードバックした上で権限を委譲して、改善活動をファシリテートする。それが人事の役割ではないでしょうか。

――マイナビ社とビジネスリサーチラボ社は共同でエンゲージメントサーベイを開発して、10月にリリースされるそうですが、製品化に込めた思いなど、最後に一言お願いします。

土屋 これまでHR領域のトレンドは常に欧米が先を走っていましたが、エンゲージメントに関しては欧米でもまだ手探り状態だと聞いています。そのため、ただ考え方を輸入するのではなく、日本の教育ベンダーである我々がエンゲージメントの研究をすることは非常に有意義だと思っています。我々の製品がその一助となり、このエンゲージメントという考えが広がることで、従業員の方々がよりハッピーに働ける世界に貢献できればと思っています。影響要因を特定・改善するところは非常に難しい部分なので、提供するベンダーとして、測定後に抜本的な手が打てるような仕組みもご提供できるように考えていきたいです。ぜひご期待ください。

-Profile-

伊達 洋駆氏
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役社長
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年にビジネスリサーチラボを創業。以降、経営層・マネジメント層をクライアントに、組織・人事に関する課題発見・解決をサポートするリサーチ・コンサルティング事業を展開。2013年に横浜国立大学 服部泰宏研究室と共同で採用学研究所を立ち上げ、同研究所の所長に就任する。

土屋 裕介氏
株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長
国内大手コンサルタント会社にて、人材開発・組織開発の企画営業として、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入。2013年に(株)マイナビ入社。研修商材の開発に携わる傍ら、毎年5,000名以上が参加する、「マイナビ公開研修シリーズ」の運営責任者として、各地での講演などを実施。また、2014年に開発、リリースした、ムビケーションシリーズ第一弾「新入社員研修ムビケーション」が、「日本HRチャレンジ大賞」を受賞。他にも「研修教材の開発」「各種アセスメントの開発」「ビジネスゲームの開発」などに従事する。2018年より日本人材マネジメント協会・執行役員に就任。

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